揺れるGHG目標(3)「下に凸」「上に凸」「直線的」から選択へ

記事のポイント


  1. 国のGHG削減目標を巡り、「下に凸」「上に凸」「直線的」の3案で割れる
  2. 政府はエネ多排出産業を考慮した直線的を掲げるが、1.5℃目標と整合しない
  3. 審議会の委員や産業界からも民主的なプロセスを欠いていると声が上がる

揺れるGHG目標(3)

環境省と経産省は12月19日夕方、都内で温室効果ガス(GHG)削減目標に関する合同審議会を開く。この審議会は19日を含めて、20日と24日にも予定しており、年内に政府がとりまとめる。国のGHG排出削減のペースは、企業の脱炭素戦略にも関連する。審議会の委員からは、「結論ありき」と批判の声が相次ぐ中、論点は、「下に凸」「上に凸」「直線的」の3つに絞られた。聞き慣れない、「下に凸」「上に凸」「直線的」とは何か。(オルタナ副編集長=池田 真隆、同編集部=松田 大輔)

「1.5℃目標」に最も近い削減目標は「下に凸」 参考:経産省資料

環境省と経産省は2024年6月から合同審議会を開いてきた。主要な議題は、次期NDC(国別の削減目標)だ。「1.5℃目標」を目指すパリ協定の規定では、締約国に国連へのNDCの提出を求めている。次期NDCの提出期限は2025年2月10日だ。

次期NDCについては、合同審議会で議論した内容を踏まえて、内閣に設置した、首相を本部長とする地球温暖化対策推進本部が取りまとめる。年内には公表する予定だ。

NDCは日本の中長期のエネルギー政策の方向性を決める基盤になる。政府は、電源構成比率を定めた「エネルギー基本計画」、国家戦略「GX2040ビジョン」も年内中にとりまとめる予定だが、どちらもベースになるのがNDCだ。

現行の日本政府のNDCは、2050年度のカーボンニュートラルを踏まえ、2030度年にGHG46%減(2013年度比)だ。次期NDCでは2035年度までのGHG削減目標を定める。

日本はG7で「2019年比60%減」にコミットしていた

11月25日の第6回合同審議会で、事務局が次期NDC案を示した。2035年度に2013年度比でGHG60%減を目指すという内容だ。

だが、この次期NDC案を巡って、審議会の委員から批判の声が相次いだ。その理由は、目標の基準年を「2013年度」にしたことだ。今年4月末にイタリア・トリノで開いたG7の「気候・エネルギー・環境大臣会合」のコミュニケでは、2035年に2019年比でGHGを60%減らすことに合意した。

政府案の削減ペースを2019年比に置き換えると、「51%減」となり、G7で約束した60%減に及ばない。

政府は、G7のコミュニケについて、「世界全体で2019年比60%減の達成に貢献するという意味で、日本の削減目標を2019年比60%減にすることを約束した訳ではない」とした。JMC(二国間クレジット)やゼロ・エミッション火力の輸出などで他国の排出削減に貢献する考えだという。

再生可能エネルギーを供給するハチドリソーラー(東京・新宿)社長の池田将太委員は、「国ごとの経路の1.5℃目標への整合性を判断する合意された基準はないものの、事務局案の削減⽬標が1.5℃⽬標に対して低すぎることは国内外の研究者・専⾨家が指摘している」と指摘した。

続けて、「NDCは日本の目指す方向性を国際的に明瞭に発信できるため、投資促進も含めた産業政策の観点からも重要だ。⽇本の⽬指す⽬標として2035年再エネ⽐率60%、GHGの削減割合を2013年⽐で75%と定めるべきだ」とした。

池田委員が指摘したようにこうした声は環境分野の専門家からも相次ぐ。政府に気候政策に関する政策提言などを行う日本気候リーダーズ・パートナーシップ事務局(JCLP)の松尾雄介事務局長は、「世界全体で目指す60%減より下でよいという理屈が通ってしまうと、世界でモラルハザードが起こり、世界の脱炭素化を遅延させかねない」と話した。

気候変動に詳しい江守正多・東京大学未来ビジョン研究センター教授も、「日本がこの削減水準だと、途上国から先進国の責任を果たしていないと批判されるリスクが高い」と話した。さらに、再生可能エネルギーの調達にも影響が出て、再エネ切り替えを進める企業にとっては企業価値の低下にもつながる恐れがあるという。

2019年比60%減に最も近い削減目標は「下に凸」
審議会の進め方に意見書を提出した委員も
■参考にした学術データ、NDCとエネ基で異なる
インフルエンサーらが「座り込みデモ」呼び掛け

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M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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