国連UNEPの報告書「1.5℃にどれだけ早く戻せるか」が人類存亡の岐路に

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記事のポイント


  1. 国連の最新報告書は「数年以内に1.5℃上昇は避けられない」とまとめた
  2. 国内では千葉・能登・福井・名古屋で、記録的な豪雨に見舞われている
  3. 気候変動対策は「1.5℃にどれだけ早く戻せるか」に人類の存亡がかかっている

国連環境計画(UNEP)は2026年9月2日、報告書の中で「温室効果ガス削減の世界的な取り組みは、今後数年以内に(平均気温の上昇が産業革命前から)1.5℃を超えることを避けるには、速さが足りなかった」ことを示した。国内では千葉・能登・福井・名古屋が記録的な豪雨に見舞われ、気候変動への適応が喫緊課題だ。気候変動対策は今、「1.5℃にどれだけ早く戻せるか」にかかっており、「緩和」と「適応」を同時並行で進め続けなければならない。(サステナブル経営アドバイザー・足立直樹)

UNEPの報告書では、気候変動対策の速さが足りなかったことが示された

2026年9月8日、名古屋市千種区で1時間に104.5ミリの雨が降りました。1890年の統計開始以来、観測史上1位の記録です。2000年の東海豪雨(97.0ミリ)を上回りました。東海道新幹線も、地下鉄も止まりました。私が東京から京都に帰る頃には、新幹線は幸い運転を再開していましたが、先月半ばの千葉に始まり、能登、福井、そして名古屋と、記録的な大雨が続きました。

■「絶望」ではなく、高さと長さの問題

2026年9月2日には、国連環境計画(UNEP)が報告書『Limiting Overshoot(オーバーシュートを抑える)』を公表しました。冒頭にはこうあります。

「温室効果ガス削減の世界的な取り組みは、今後数年以内に1.5℃を超えることを避けるには、速さが足りなかった」。

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科学誌『Nature(ネイチャー)』はこれを「国連がついに、1.5℃を超えると認めた」という趣旨の見出しで報じました。

この報告書が公表されてから、SNSでは「1.5℃はもう絶望的だ」という書き込みをよく見かけるようになりました。しかし、報告書が言いたいのはそこではありません。超えること自体は、もう避けられません。それは事実として受け止めるべきでしょう。

その上で、報告書が本当に問うているのは、どこまで超えるか、つまりオーバーシュート(1.5℃を超過した状態)の高さと、どれだけ早く1.5℃未満に戻すか、つまりその長さです。

報告書は、単年の気温ではなく複数年の平均でオーバーシュートをとらえ、超過・ピーク(横ばい)・低下・安定化という4つの段階に整理しています。できるだけ早くピークアウトさせ、できるだけ(気温上昇を)低く抑え、できるだけ早く戻して安定させる。それが、この報告書の主眼だと私は捉えています。

世界が現行の政策のまま進んだ場合、2100年の気温は中央値で約2.6℃に達すると報告書は試算しています。一方、各国のNDC(国別削減目標)をすべて実施しネットゼロを達成できれば、ピーク時でも約1.8℃に抑えられます。(前者は2100年時点、後者はピーク時の値です。)この違いこそが、これからの削減努力の意味です。

■GHG排出削減の意味が変わった

変わったのは、GHG(温室効果ガス)排出削減の目的です。「1.5℃に抑えるため」の削減から、「超過をできるだけ低く、できるだけ短くするため」の削減へ。そしてこれは、目標を諦める理由にはまったくなりません。むしろ、これまで以上に急がなければならないというのが、報告書の結論です。

■気候変動への「適応」は、やるかどうかの問題ではない

私たちはいま、1.5℃超えという「嵐」の中に突入しつつあります。その中で生き延びるためには、この新しい状況に適応することが必要です。先日の名古屋の大雨も、その入り口にすぎないと私は感じています。

報告書はこう述べています。「適応は選択肢ではなく、必須である」。同時に、こう釘も刺しています。「現行の適応の計画も実施も、規模・深さ・範囲のいずれも足りない」「すでに計画・導入されている適応策の多くは、気温上昇とともに機能しなくなる可能性が高い」。いまのやり方には限界があるのです。

たとえば冷房需要です。世界の冷房用電力需要は、2022年の約5000TWhから、高排出シナリオでは2050年に約1万8000TWhへと増える可能性が指摘されています。暑さをしのぐための適応策そのものが、さらなるGHG排出を生みかねません。

そして、適応さえすればよい、という話ではまったくありません。適応と緩和は、同時に進める必要があるのです。

■CO2の除去には50年かかる

さらに、一度増えてしまったGHGを、回収・除去することも必要です。もちろん、それは容易ではありませんし、緩和を怠る理由には決してなりません。

気温を0.1℃下げるには、差し引きでマイナスにした排出(ネットネガティブ排出)が、累積で約220ギガトン必要です。年間10ギガトン(現在の排出量の約4分の1)を除去できたとしても、低下速度は10年でわずか0.05℃ほど。いまの10年で進む0.25℃ほどの温暖化を打ち消すのに、約50年かかる計算です。

現状、土地由来の永続的なCO2除去は年間約2ギガトン。直接空気回収・貯留(DACCS)などの新興技術は、その約1000分の1にとどまります。

つまり、除去で帳尻を合わせる道は、当分ありません。だからこそ、いま出さないことの価値が上がっているのです。同時に、将来戻すための技術を育てる取り組みは、いまから始めておく必要があります。 そして、忘れてはならないことがあります。海面上昇は何世紀にもわたって不可逆です。そして、一度絶滅した種は、二度と復活しません。気温は戻せても、海も生き物も元には戻らないのです。

■企業規模に関係なく「緩和・適応・除去」を進めよ

緩和・適応・除去。この3つを同時に進める必要があるのは、上場企業も非上場企業も、規模の大小を問わず同じです。

しかし現実には、明らかな温度差があります。自社のCO2排出量を把握している中小企業は25.0%、従業員20人以下では9.5%にとどまります(日本商工会議所・東京商工会議所、2024年6月)。

有価証券報告書のサステナビリティ開示が義務づけられているのは、上場企業を中心とした約4,000社だけです。企業数で日本の99.7%を占める336万社の中小企業には、この義務は及ばないのです。

緩和はこれまで、主に開示義務の話として広まってきたのではないでしょうか。投資家やルールメーカーが上場企業に開示を求め、その圧力の中で削減が進んできた。だから、義務のない企業にとっては、どこか自分の話になりにくかった。これは私の推測ですが、そう考えると現状をよく説明できます。

しかし、適応は義務の話ではありません。物理の話です。あふれた水は、その企業が上場しているかどうかを見るわけではないのです。

このことは、大企業にも関係があります。こうした中小企業は、あなたの会社のサプライヤーかもしれません。Scope 3とは、まさにこの取引先の排出のことです。

私は先月、自分たちの調達が自然や人々に何をもたらしているのかを、自ら確かめる必要性について書きました。今度は、同じことを取引先の側から見た話です。調達先が何をしていて、何をしていないのか。それも、確かめるべきことの一部だと思います。

参考記事:サプライチェーン管理は、「合法だから大丈夫」では済まされない

※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)547(2026年9月11日発行)をオルタナ編集部にて一部編集したものです。過去の「サス経」はこちらから、執筆者の思いをまとめたnote「最初のひとしずく」はこちらからお読みいただけます。

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足立 直樹(サステナブル経営アドバイザー)

東京大学理学部卒業、同大学院修了、博士(理学)。国立環境研究所、マレーシア森林研究所(FRIM)で基礎研究に従事後、2002年に独立。株式会社レスポンスアビリティ代表取締役、一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)理事・事務局長、一般社団法人 日本エシカル推進協議会(JEI)理事・副会長、サステナブル・ブランド ジャパン サステナビリティ・プロデューサー等を務める。

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キーワード: #気候変動#脱炭素

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