記事のポイント
- 環境省は企業に、自然資本の損失に寄与しないサプライヤーからの調達を求める
- 認証制度を使っていれば十分とも言えず、企業に「実践」を求める
- ボルネオ島では「持続可能」と謳って熱帯林が伐採されたとの報告も
環境省は2026年7月14日、「調達におけるネイチャーポジティブに向けた実践ガイドライン」を公表し、企業に自然資本の損失に寄与しないサプライヤーからの調達を求めた。認証制度を使っていれば十分とも言えず、企業に認証制度だけに頼らない実践も求める。実際、ボルネオ島では「持続可能」の名の下に熱帯林が大規模伐採されたとの報告もあり、「合法だから大丈夫」では済まされない時代に入っている。(サステナブル経営アドバイザー・足立直樹)

2026年7月、熊本で開かれた第2回グローバル・ネイチャー・ポジティブ・サミット。そのちょうど初日にあたる7月14日、環境省から「調達におけるネイチャーポジティブに向けた実践ガイドライン」が公表されました。
ネイチャーポジティブというと、自社の敷地で生物多様性を守る、森林を再生する、といった活動を思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし、企業活動が自然に与える影響の多くは自社の外側、とりわけ原材料の調達先で発生しています。
■ガイドラインは「べきである」とした
今回のガイドラインは、企業に求める事項を
- 「A:事業者の責務として対応が必要」=「べきである」
- 「B:先行対応を推奨」=「望ましい」
に区分しています。そしてAの側、つまり責務とされた側に、こう書かれています。
「自然資本の損失に寄与しないサプライヤーから調達すべきである」
その一例が、森林減少・森林劣化を引き起こさないこと、保護価値の高い森林や保護地区、湿地・泥炭地を開発しないこと。別紙の指標一覧には「森林減少・転換ゼロ(DCF)かどうか等に関して、サプライチェーン上でデュー・ディリジェンスを実施した割合(%)」まで挙がっています。
たしかに任意のガイドラインです。しかしその中で、これらを「望ましい」ではなく「べきである」と書いた。かなり大きな変化だと思います。
法律に違反していないか、必要な証明書がそろっているか。これまでの調達確認は、そこが中心でした。しかし、たとえ合法であっても、その原材料の生産で森林が失われていないか、生態系が劣化していないか、先住民族をはじめとする地域社会の権利が侵害されていないか。そこまで確認する必要が出てきたということです。
■認証があれば十分か
興味深いのは、ガイドラインが認証制度についてもかなり踏み込んでいることです。
「認証制度に頼らない実践も求められる。加えて、認証制度を満たしていれば十分とは言えない場合もある」
たとえば、企業がよく利用しているマスバランス方式では、認証産品が流通過程で他と混ざってしまうことにも触れ、「認証ラベルを取得している場合も含めて」定期的に見直すよう求めています。
とはいえ、これは言うほど簡単ではありません。
■ボルネオ島・サラワクから届いた報告書
ちょうどそんな時に、衝撃的なレポートが発表されました。スイスの環境・人権NGOブルーノ・マンサー基金などがまとめた「簒奪(さんだつ)されたバラム平和公園」です。8月24日には日本語版も公開されました。
舞台は、マレーシア・ボルネオ島のサラワク州。実は私は、この地域の熱帯林破壊と先住民族の問題を、30年前、マレーシアの熱帯林の研究をしていた頃から耳にしてきました。その後、森林認証や合法木材の制度が整い、企業の意識も高まりました。私自身、かなり改善されたものと思っていました。
ところが、そう単純ではなかったようです。
先住民族が長年の伐採反対運動の末につくりあげた「バラム平和公園」の構想は、サラワク州政府と国際熱帯木材機関(ITTO)が関与する保全プロジェクトへと発展しました。
ところがその過程で、中核となる原生林を守るという肝心の部分が計画から消え、同じ地域に新たな大規模伐採権が付与されます。地域社会との十分な協議も、先住民族のFPIC(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意)もないまま、とされています。

報告書『簒奪されたパラム平和公園』では、伐採された木材を使った合板製品の一大消費国が日本との指摘も。
( 画像提供:熱帯林行動ネットワーク)
皮肉なのは、「保全」から「持続可能な森林管理」へと言葉が置き換わる中で、伐採そのものが「持続可能」の名の下に正当化されていったように見えることです。
30年前と全く同じではありません。むしろ制度も認証も「サステナビリティ」という言葉も増えました。だからこそ問題が見えにくく、巧妙になっているとも言えます。
■これは日本の話でもある
実はこの保全プロジェクトには、日本の公的資金も入っていますし、ITTOの本部は横浜にあります。そして、日本は、サラワク木材の最大の市場です。同レポートによれば、2025年の輸出の60%超を受け入れています。日本と無関係とは言えそうにありません。
レポートは、問題の木材が日本企業と取引の大きいサプライヤーの施設に運ばれているところまでは現地情報として得ているものの、それが最終的に日本に入ったかまでは確認できていない、としています。逆に言えば「入っていない」とも確認できません。サプライチェーンは、未だそのぐらい不透明なのです。

報告書は、現地で伐採を続けるボルネオランド・ティンバー・リソーシス社を問題視している
(画像提供:熱帯林行動ネットワーク)
書面で「現地で合法に伐採され、日本の法令にも適合している」と確認できれば、企業人としてはひとまず安心してしまうかもしれません。しかしそれだけでは、その木材がどの森から来て、その森で何が起きていたかまでは分かりません。この「合法」という証明そのものに、さまざまな疑義がある。それが今回突きつけられたことです。
■「合法だから大丈夫」の先へ
やるべきことは、そう複雑ではありません。原材料がどこから来ているのかを追えるようにする。許可証や認証は「証拠」ではなく「出発点」として扱う。そして現地で何が起きているのかについて、NGOなど第三者の目も情報源に入れておく。ガイドラインが求めているのも、要はそういうことです。木材に限りません。パーム油、紙・パルプ、大豆、天然ゴム、鉱物でも、構造は同じです。
ちなみに今回のガイドラインでは、森林減少を引き起こさないことはAとされた一方、先住民族や地域社会の権利についてはBにとどまりました。しかしバラムで起きたのは、その二つが分かちがたく結びついた事案です。生物多様性にまつわる世界的な潮流を踏まえれば、私は先住民族や地域社会の権利もAでしかるべきだと考えます。
「合法だから大丈夫」から、「自分たちの調達が自然や人々に何をもたらしているのかを、自分たち自身で確かめる」へ。
負担が増える話に見えます。しかし私は逆だと思います。問題のある木材を知らずに使い続け、後から明らかになる方が、企業にとってはるかに大きなリスクです。
そして何より、こうした問題を放置すれば、「木材を使うことが森林破壊につながる」という短絡的な不信を招きます。それでは、せっかくの再生可能な資源である木材の利用そのものを縮小させてしまいます。
責任ある木材利用を広げるためにも、「合法性」の確認のその先へ。今回のガイドラインとサラワクから届いたレポートは、その必要性を私たちに突きつけているように思います。
※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)546(2026年8月28日発行)をオルタナ編集部にて一部編集したものです。過去の「サス経」はこちらから、執筆者の思いをまとめたnote「最初のひとしずく」はこちらからお読みいただけます。



