日本の「ジェンダー・ギャップ」はどう改善できるか

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■記事のポイント
①ジェンダー・ギャップ指数ランキング、日本は116位となった
②「良妻賢母的」な法律・制度の構造改革が必要に
③改革しなければ指数「0」の方向へ向かう可能性も

世界経済フォーラムが2006年以降、「ジェンダー・ギャップ指数」を毎年発表しています。「政治」「経済」「教育」「保健」の4つのカテゴリーからなり、14の指標をもとに世界各国の男女平等の度合を指数化、「1」が完全平等、「0」が完全不平等を表します。(CSRストラテジスト・松田 雅一)

同指数ランキング(2022年7月発表)で日本は146カ国中116位でした。1位のアイスランドの指数が0.908に対し、日本は0.650です。2位はフィンランド、3位ノルウェー、4位ニュージーランド、5位スウェーデンと、北欧諸国が上位を占めました。 

日本の指数をカテゴリー別にみると「教育」「健康」は1に近いものの、「経済」で0.564、「政治」にいたっては0.061です(2022年7月時点)。日本は今後、どうすれば1に近づけることができるでしょうか。

その前に『日本は日本、それぞれの国に歴史や文化的背景があり、欧米が都合良くつくった指数や指標に追随する必要はない』との意見もあります。しかし日本の人口、特に労働力人口が今後明らかに大きく減少していきます。ダイバーシティ、とりわけ日本の経済活動の中で女性の社会進出を拡大していく土壌づくりは不可欠です。

政府も数年前から男女共同参画事業という名の下に、主に「経済」の分野の指標(労働参加率、同一労働における賃金、収入格差、管理職の男女比など)の改善に取り組んではいます。が、本指数の改善効果は、あまりに限定的かも知れません。

ちなみに「政治」の指標では、国会議員の男女比、閣僚の男女比、過去50年の首相の男女比があります。選挙や内閣改造の時期には、女性の人数や割合のデータが必ず公表されます。政治への女性の参画人数を増やしリーダーとなるべき女性を登用していくことを促してはいますが、一朝一夕で解決できることではなさそうです。

そもそもの問題は、日本社会の構造的な問題、すなわち昔ながらの男女の役割分担や思考・行動を促す考え方・因習や男女の意識、あるいは法制度そのものを抜本的に見直さない限り、指標の改善に結びつかないのではないでしょうか。小手先の頭数の問題ではないのです。

日本の社会の中では常識であっても世界では非常識ということが数多くあります。また根拠のない制約や規制が数多くあって、世界で活躍する日本女性の中には、そうした日本社会のギャップや不平等を肌で感じて、世界に活躍の場を求めている方も多いのではないでしょうか。

法の下の平等といいながらも選択的夫婦別姓制度を含む民法上の差別的条項、専業主婦を助長するような年金制度の仕組み、配偶者控除等男女共同参画を前提としない税法上の仕組みーー。

これらは、昔ながらの「良妻賢母的」な発想に基づく社会を維持しようとする旧来型の構造そのものです。それを残したまま目の前の指標となる数字の改善に一喜一憂していては、今後100年、200年経ってもギャップは埋まらないでしょう。日本社会の意識に変革をもたらす構造改革が必要です。

ジェンダー・ギャップ指数で常に上位に位置する北欧の国々の中で、スウェーデンでは約半世紀前には経済発展へ労働力を補うために女性雇用が進み、福祉国家としての税収確保に向けて制度改革へ舵を切っています。

特筆すべきは、「オンブズマン制度」です。中立な立場で社会の物事を監視し、国民の権利を保護するオンブズマン制度を憲法で確立し、大きな権限を持って完全に独立してあらゆる差別をチェックし、改善する仕組みを維持しています。

日本にも実はオンブズマン制度を意識した総務省の行政相談窓口が存在しますが、ここ数年の官僚の「忖度」を目にしては、機能を果たせているのか疑問です。

このほか、スウェーデンでは昔ながらの男女の役割分担や思考・行動を促すことも法律で禁止しています。その一方で、自己決定・自己責任・自己選択・自己投資の能力を養う教育を幼少期から実施していることは、社会の構造から徹底してジェンダーのギャップを生まない取り組みがなされ、社会に定着していると言えます。

日本社会が経済の面でも政治の面でも世界から埋没しないために、真に男女共同参画を促す社会へ、構造転換するダイナミックな取り組みが必要です。

日本において、スウェーデン方式のように中立な立場で社会の物事を監視し、国民の権利を保護するオンブズマン制度の創立よりも、未だ一人の女性首相が出ていない状況の中では、閣僚の半数を海外で活躍する民間女性にする荒療治を先にする方が、まだ現実的かも知れません。 今のままでは、国民のための社会秩序や法制、行政の仕組みが、どんどん国民の意識から乖離して、社会の歪み、格差を助長している危惧を感じています。と共に、ジェンダー・ギャップ指数が「0」の方向へ向かおうとしているような印象です。

松田雅一(まつだ・まさかず)
静岡大学法学科卒業、東レエンジニアリング株式会社入社、海外関係会社(韓国)の社長を4年間歴任後、同社取締役、常務取締役を9年間担当。2020年3月第1回CSR検定1級合格(CSRストラテジスト)2022年6月役員退任(専務理事として、総務人事部門長、CSR部門長継続)

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