石炭・石油・ガス 「1.5℃シナリオ」は収益悪化/金融庁

ヤコブ・ト―マ金融庁金融研究センター専門研究員は8月、日本の主要銀行が抱える融資残高が、パリ協定が目標とする「1.5℃シナリオ」と整合するかを検証したレポートを発表した。CO2排出量の多い対象セクターの内、ガス火力発電事業とハイブリッド車製造分野は気候ゴールに適合するが、石炭鉱業、石油・ガス掘削事業が深刻で、収益悪化の要因になるとしている。(オルタナ総研フェロー=室井孝之)


PACTA(パリ協定資本移行評価)

レポート「移行が遅れた場合の気候移行リスクの測定~日本の銀行セクターの探索的分析~」では、更に化石燃料に依存する自動車および発電部門の一部も影響を受ける可能性があるとしている。

分析は「Paris Alignment Capital Transition Assessment(PACTA=パリ協定資本移行評価)手法」ならびに「気候関連移行リスクストレステスト」を適用した。

PACTAは、フランスの気候関連シンクタンクである2 Degrees Investing Initiative(2DII=2℃投資イニシアチブ)が国連責任投資原則(PRI)の支援を受けて開発したソフトウエアで、金融資産のポートフォリオと気候変動シナリオとの整合性を測定、特定の企業を分析する。

2022年6月以降は米国の持続可能性非営利団体RMIに管理が移管されている。

対象となるセクターには、電力、石炭鉱業、石油・ガス、自動車製造、セメント、鉄鋼、航空、海運が含まれる。

PACTAは、90カ国以上の3,000以上の金融機関、監督当局、中央銀行によって、規制対象事業体を評価するために使用されている。

ユーザーには、スイス、ルクセンブルク、ノルウェーの政府、欧州保険年金局、ニューヨーク州金融サービス局などの監督者が含まれる。


「気候関連移行リスクストレステスト」は、前述の2 Degrees Investing Initiative(2 DII=2℃投資イニシアチブ)が設計したストレステストである。

このストレステストでは、企業の生産データと気候シナリオから導かれる生産予測に基づいて、融資先企業の将来利益をモデル化するアプローチを使用している。

リスクストレステストでは、気候変動対策を行わない従来通り(Business-as-usual)シナリオと、脱炭素経済への移行の遅れを様々な程度で反映する一連の遅行ショックシナリオについて、融資先企業の将来利益の変化を導き出している。

EUでは、気候変動シナリオの他にも新型コロナウイルスの影響で銀行や保険会社が保有する資産ポートフォリオが受ける影響のチェックに活用されている。

muroi

室井 孝之 (オルタナ総研フェロー)

42年勤務したアミノ酸・食品メーカーでは、CSR・人事・労務・総務・監査・物流・広報・法人運営などに従事。CSRでは、組織浸透、DJSIなどのESG投資指標や東北復興応援を担当した。2014年、日本食品業界初のダウ・ジョーンズ・ワールド・インデックス選定時にはプロジェクト・リーダーを務めた。2017年12月から現職。オルタナ総研では、サステナビリティ全般のコンサルティングを担当。オルタナ・オンラインへの提稿にも努めている。執筆記事一覧

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