生態系の放射能汚染、影響は未知数

生物同士が互いにどのように関連しているのか、まだ分からないことのほうが多い

放射性物質はいったん環境に放出されると長期にわたって生態系に影響を与え続ける。しかし、事故後25年が経過したチェルノブイリでも、その全容は明らかになっていない。同じ「レベル7」の福島原発の事故についても長期間の調査と結果の公表が求められるだろう。

2010年にフランスで制作されたドキュメンタリー番組「被曝の森はいま(原題、Chernobyl, A Natural History?)」では、汚染されて人が入らなくなった地域に動植物が増えている様子が報じられた。放射線の影響を回避して繁殖できるネズミも見つかった。一方で、ツバメには放射線による大量死や奇形が発生しているという。

CSRのコンサルティングを行うレスポンスアビリティ(東京・品川)は、持続可能なビジネスには健全な自然が提供してくれる「生態系サービス」が不可欠として、企業による生物多様性保全の取り組みを推進してきた。

足立直樹代表は「放射線は、遺伝情報を伝達するDNA(デオキシリボ核酸)を傷つける。しかし、損傷したDNAの修復能力など、放射性への耐性は種や個体によって異なる。現れる影響は一様ではない」と説明する。

日本にも「放射線生物学」という学問分野があるが、医療目的の研究が主であり、ヒト以外の生物に関する知見は限られている。福島原発事故後も、生態系への調査は進んでいないようだ。

足立氏によると「放射線によって一度DNAに傷がつくと、その影響が次世代以降に現れる場合がある。食物連鎖による濃縮や、生物の移動に伴う放射性物質の拡散も無視できない」。網のように絡み合った生態系における汚染の拡大は複雑だ。生態系の仕組みは知られていない部分も多く、人間社会への本当の影響は誰にも分からない。

国際生物多様性年の2010年には、名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議が開催された。179カ国が集い、「2050年までに、生物多様性が評価され、保全され、回復され、そして賢明に利用され、それによって生態系サービスが保持され、健全な地球が維持され、全ての人々に不可欠な恩恵が与えられる」という「愛知目標」を採択した。日本は本来であれば、この目標の達成のために率先して行動すべき立場にある。

生命を脅かす放射性物質の拡散に対する各国の反応は、当然ながら厳しい。海洋への汚染水放出の際には、日本の配慮不足が問題になった。

足立氏は、「あらゆる生き物が放射性物質の影響を受ける可能性がある。それは目に見える変化とは限らず、私たちが気付かない場合もある。見えないから影響なし、とはとても言えない」と、生態系汚染を軽視する危険性を強調した。(オルタナ編集部=瀬戸内千代)2011年7月4日

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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