記事のポイント
- 気温40℃を超える「酷暑」が当たり前になり、コメなど農産物に影響が出ている
- そのような中で「にじのきらめき」「富富富」など、温暖化に強いコメの品種も出てきた
- 新品種の農作物が広がるかは「消費者側の意識が変わることがカギ」と専門家
気温40℃を超える「酷暑」が当たり前になり、コメなど農産物に影響が出ている。そのような中で、「にじのきらめき」「富富富(ふふふ)」など、温暖化に強いコメの品種も出てきた。こうした新品種の農作物が広がるには、「消費者側の意識が変わることがカギ」だと専門家は話す。筆者も新品種のコメを食べてみたがとても美味しく、過酷な生産現場で気候変動への適応努力を続ける作り手の方々への感謝と敬意の気持ちでいっぱいになった。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

■農水省が示した「温暖化」の食卓への影響とは
農水省が2026年8月28日に公表した、「令和7年(2025年)地球温暖化影響調査レポート(確報)」は、私たちの食卓が気候変動という猛威によって揺らいでいる現実を突きつける。
化石燃料の燃焼を中心とした人為的な気候変動の影響によって、直近数年は特に記録的な高温が続いており、2025年夏(6月~8月)の平均気温偏差は、基準値(1991〜2020年の30年平均値)からの+2.36℃と、1898年の統計開始以降、最も高い値となった。
同レポートでは、「例年から影響発生の報告が多い農畜産物」としてコメ(水稲)、果樹(りんご、ぶどう、うんしゅうみかん)、野菜(トマト、いちご)、花き(きく)、家畜(乳用牛)を挙げており、これら作物では、深刻な高温障害が顕在化している。
とりわけ深刻なのが、私たちの主食であるコメ(水稲)だ。2025年は夏の猛暑と少雨により、玄米が白く濁る「白未熟粒(しろみじゅくりゅう)」が全国的に多発した。その発生割合は全国で3〜4割、西日本では5〜6割の地域に達した。
果樹でも、ぶどうの着色不良や日焼け果、みかん(うんしゅうみかん)の着色遅延や果皮と果肉の間に隙間ができる浮皮(うきかわ)などが発生し、商品価値を大きく損ねている。
これらは、現在の産地で従来と同じ作物を育てること自体が困難になりつつあることを示している。
■温暖化に適応した「コメ」の新品種が相次ぐ
こうした危機に対し、作り手の現場では、温暖化への適応策として、優れた技術や品種がすでに開発されている。
その代表例が、温暖化の適応策の切り札とされる水稲の新品種だ。ブランド米となった「つや姫」のほか、「にじのきらめき」「富富富(ふふふ)」、「新之助」、「てんたかく」、「ゆきん子舞」「にこまる」など、ここ数年、高温耐性品種が作付け面積を広げつつある。
なかでも「にじのきらめき」は、極めて強い高温耐性と、たくさんの収穫が見込める多収性、さらには「コシヒカリ」に匹敵するおいしさを併せ持つと評判が高い。
長年、農業分野での研究を進め、農水省の気候変動等対応品種育成・普及小委員会の委員を務める日本総合研究所創発戦略センターの三輪泰史チーフスペシャリストは、「にじのきらめき」を「夢の品種」と紹介する。
三輪氏によると、「味の主張が強すぎないオールラウンダーとして、おかずを引き立てるため、外食産業からも『猛暑でも品質が安定した米を確実に調達できる』と支持を受け、買い支える動きも始まっている」という。

三輪 泰史 氏
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター
チーフスペシャリスト
農林水産省の「気候変動等対応品種法(通称)」における基本方針を定める委員会の委員の他、同省食料・農業・農村政策審議会委員、農業DX構想検討会座長、内閣府委員(戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第1期サブプログラムディレクター)等各種委員を歴任。次世代農業・スマート農業・フードテックの書籍執筆多数。
■「適応品種の価値」消費者側の理解に課題
しかし、優れた高温耐性品種があり、国や自治体が強力に導入を推進しているにもかかわらず、主食用米全体に占める高温耐性品種の作付割合は、令和7年産では18.2%と前年の16.4%からわずか1.8ポイントしか上昇していない。
三輪氏は、「生産現場での技術開発や農業側の取り組みはうまく進んでいる。しかし、農家が品種転換を図りたくても、消費者まで届けるためのフードシステム全体が滞っており、作付面積が広がっていない」と指摘する。
「消費者側が価値を理解し、選んでくれなければ、小売店は売れる確信を持つことができず、店頭に並べられない。売れる保証がなければ、農家も自信を持ってその品種を作付けすることができない」(三輪氏)
例えば「コシヒカリ」は、もともと寒さ(冷害)に強い品種として開発された。昨今の過酷な暑さの中では、「コシヒカリ」の生産は以前に比べ難しくなっているが、消費者の「コシヒカリ」志向はいまだに根強く、シェア3割を維持している。
三輪氏はオルタナの取材に対し、「富山県の『富富富』など、稲作においては高温耐性の気候変動適応品種の作付けが伸びている。しかし消費者側の動きはまだ弱い。農水省の審議会(2026年9月7日開催)でも、消費者側が変わるよう、政府として手を打つべきだと申し上げた」と話した。
■ジャガイモにも大豆にも気候変動の影響が
農水省の2025年のレポートには「例年から影響発生の報告が多い農畜産物」として挙がっていないものの、最近では、「馬鈴薯(ジャガイモ)や大豆も、気候変動の影響を受けている」と三輪氏は付け加える。
「ジャガイモの産地の北海道・十勝の大農業エリアでは、気候変動に伴う平均気温の上昇で、冬場に雪が降るように変化してきた。かつての十勝は、気温がマイナス10℃でも雪が積もらず、カチコチに凍った土壌の中で、その年に収穫し忘れたジャガイモが不活化していた。しかし最近は、雪が積もることでの土壌の保温効果によって、春以降に取り残しのジャガイモから芽が出てきてしまう」という。
連作障害が起きないよう、輪作体制で農作物を生育する中で、こうした「野良いも」が雑草となって翌年の農作物の生育を阻害するケースが出てきている。またポテトチップス向けに出荷された「トヨシロ」が、輸送時に暑すぎて腐敗が進んでしまったケースもあったという。
■「なんとなく知っているから買う」が食料安全保障リスクに
「ジャガイモは、いまだに『男爵』・『メイクイーン』が強く、この2品目にポテトチップス用に使われる『トヨシロ』を加えた3品目から動かない。大豆はトップの品種『ふくゆたか』以外での新しいものが出てきていない。猛暑や豪雨の影響と、副次的な影響として病害虫が防ぎきれていない中で、消費者や外食・昼食産業などの実需者への啓発・支援策が求められている」(同)
「ジャガイモに関しては、ジャガイモシストセンチュウというジャガイモの生育にとっては致命的な病害虫がある。この病害虫への抵抗性を持ち、気候変動にも適応した品種として、「きたあかり」が出てきている。大豆に関しても、『そらひびき』『そらみずき』『そらたかく』『そらみのり』といった「そらシリーズ」が、高温耐性があり多収が期待できる品種として出てきている」(同)
日本の食料自給率(カロリーベース)は2025年、前年から1ポイント減少し37%となった。
「コシヒカリ」や、「男爵」・「メイクイーン」といった品種は、家庭科の教科書にも出てくる、私たちが長年慣れ親しんでいる品種だ。だが、気候変動によって従来の品種で同じ収量を生育することが難しくなっている現実がある。
三輪氏は、「消費者が、なんとなく親しみがあるからという理由でそうした品種を選んでいること自体が、実は食糧安全保障上のリスクにもつながりかねない」と、消費者側が意識を変えていくことの重要性を強調した。
■カギは「消費者とのタッチポイント」
■ふるさと納税や「食べ比べ」も打開策に

