記事のポイント
- 政府は公共調達において人権尊重の取組みを努力義務化する方針を発表した
- 企業の人権の取組み状況を確認し、ルールの実効性を確保できるかが論点だ
- 省庁が各社の人権取組み状況を逐一精査することは現実的には困難な面がある
4月、日本政府は公共調達において人権尊重の取組みを努力義務化する方針を発表した。入札希望者や契約者には「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」に沿って人権尊重に取り組むことを求めた。各省庁の入札説明書や契約書などに同要請が記載される見込みだ。(認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長=潮崎 真惟子)
2011年に採択された国連「ビジネスと人権に関する指導原則」でも、政府調達を通して人権尊重を促進することは国家の義務としていた。今年5月のG7首脳会議の広島開催を前に、公共調達で人権尊重のルールがない国がG7のうち日本だけだったため、直前に間に合わせる形で方針が発表された。
6月には国土交通省が、直轄事業の入札契約手続きに人権観点を導入する旨を地方整備局などの発注部局に通知した。準備の整った発注部局から順次、入札説明書の中に人権尊重の項目を加える。各省庁で実務面の調整が進む。
今後課題となるのは、公共調達において実際にどのように企業の人権への取組み状況を確認し、ルールの実効性を確保していけるのかという点だ。
入札条件に人権観点を導入しても、発注する省庁が各社の人権取組み状況を逐一精査することは現実的には困難な面がある。
■欧米に追随する日本、実効性が課題
EUでは2014年に「公共調達指令」が発表され取り組みが先行する。企業の取組みを確保する1つの手段として国際認証が多く活用されている。
例えばイギリスでは環境食料農村地域省がセクターごとに政府購入基準を定めており、魚は持続可能な漁業に対するMSC認証品であることが前提であり、紅茶とコーヒーの少なくとも50%がフェアトレードであることを義務付けた。
イタリアでは2020年に食材・ケータリングの公共調達ルールでフェアトレードが必須基準の1つとなった。官公庁や学校、病院、拘置所、軍用食堂などでコーヒーやバナナ、チョコレートなどは原則フェアトレード(場合によってはオーガニック)でなければならない。
日本国内でも、名古屋市や愛知県内などで、自治体の「グリーン購入ガイドライン」に人権観点としてフェアトレード認証の基準を含める例などが出てきている。
地域ぐるみでフェアトレードを進めるフェアトレードタウン活動が、自治体の調達を後押ししている。
日本はグリーン公共調達の分野では国際社会でも一定の評価を得ている。2000年に「グリーン購入法」を制定以来、中央省庁のみならず独立行政法人や地方自治体にも取組が浸透してきたからだ。同じ勢いで人権分野の公共調達も浸透させることができるか。
世界の公共調達支出はGDPの2割にも上るとされ、莫大な数の企業に影響をもたらす。公共調達のルール転換は企業の調達慣行を変える圧力にもなるため、今後も注視が必要だ。