サッカーで希望を「スラムからの挑戦」ーーサラヤ

ケニアの首都ナイロビ中心部に位置する「キベラスラム」。約2.4平方キロメートルのエリアに100万人以上が暮らすアフリカ最大級のスラム街だ。ここキベラを拠点に、社会課題の解決を目指すユース・サッカーリーグがある。アフリカで事業を展開するサラヤ(大阪市)は2020年から、この取り組みの支援を続けている。

コロナ禍では食料や衛生関連品を配布した

「アフリカの子どもたちはサッカーが大好き。7割の子どもがサッカー選手になりたいと言うほど。ナイロビには有料のサッカーアカデミーがあるが、スラムの子どもたちは才能があっても費用を払うのが難しい。子どもたちのより良い未来をつくりたいという思いで、『キベラA-GOALリーグ』を始めた」

こう語るのは、「キベラキベラA-GOALリーグ」のチェアマンを務めるラシッド・ケンさんだ。ケンさん自身も、低所得層の家庭に生まれたが、サッカーを通じて進学の機会をつかみ、プロ選手として活躍した経験を持つ。

キベラキベラA-GOALリーグは、キベラスラムの子どもたちを対象にしたユース・サッカーリーグだ。9歳、11歳、13歳、15歳の男子カテゴリーに加え、15歳以下の女子カテゴリーも設けている。参加者数は2034人、年間の試合数は2300以上にも上る。

■日本とアフリカつなぐ架け橋

リーグを運営するのは、一般社団法人キベラA-GOAL(東京・豊島)だ。同団体の岸卓巨代表は、もともとJICA海外協力隊としてケニアで活動していた。2020年5月、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ケニアのサッカークラブの指導者から支援を求める連絡を受けたことをきっかけに、キベラA-GOALプロジェクトが始まった。

当時、ナイロビ首都圏では都市封鎖(ロックダウン)が実施された。スラム地域では、7割以上の住民が仕事を失ったといわれる。政府の支援も行き届かず、もともと貯蓄が少ない低所得層にとって、食べ物さえ手に入れるのが厳しい状況だった。

そこで岸代表は、仲間を集め、現地の地域スポーツクラブを拠点に、食糧支援や感染症予防支援を行うキベラA-GOALプロジェクトを立ち上げた。

ケニアに現地法人を持つサラヤも、この取り組みに共感し、寄付に加え、消毒剤や石けんなど衛生関連用品の提供を行った。

当時、現地の事業責任者だった北條健生・海外事業部グローバルオペレーション部部長は「アフリカの状況について、日本ではほとんど報道されていなかった。アフリカに拠点を持つサラヤだからこそ、情報を発信し、現地と日本をつなぐ架け橋になりたかった」と振り返る。

■日常の楽しみで犯罪から身を守る

食料・感染症予防支援を続けるなかで、岸代表が出会ったのが、ケンさんとコリンズ・ワソンガさんだ。

コロナ禍が落ち着いた後も、キベラスラムの生活環境は厳しいままだった。サッカーを通じて「子どもたちが夢を追いかけられる環境」をつくりたいという2人の思いに共感し、キベラA-GOALは2022年、現地でキベラキベラA-GOALリーグを立ち上げた。

サラヤは「キベラA-GOAL」を支援。岸代表(左)とケン・チェアマン(右)

最大の目的は、毎週末のサッカーの試合を通じて、子どもたちの日常に「楽しみ」をつくることだ。厳しい生活環境のなかで、子どもたちはドラッグに頼ったり、お金を得るために犯罪や売春にかかわったりするケースもあるという。結果として学校に通えなくなり、将来の選択肢が狭まってしまう。

「子どもたちはドラッグの運び屋や政治デモの動員に使われることもある。子どもたちがサッカーや学校に集中できるようになれば、そうした犯罪から身を守ることにつながる」

キベラキベラA-GOALリーグの副チェアマンを務めるコリンズさんは、サッカーリーグの意義を語る。

実際に、サッカーリーグから新たなチャンスをつかむ子どもも出てきた。ある男子選手は、ナイロビのサッカーアカデミーの名門「エクスプレス・フットボール・アカデミー」に特待生として入学することができた。スポーツ推薦で奨学金を得て、学校に進学した子たちもいる。

2024年からはサラヤのサポートを得て、リーグ選抜チームによる隣国タンザニアへの遠征も行っている。ケニアやナイロビからも出たことがない子どもたちや保護者には泣いて喜ぶ人もいる。

ケンさんは「サッカー選手にならなくても、何かに熱中できるものがあればいい。私たちは子どもたちの未来をつくるプロセスの中にいる。より良い人生を築く手助けをしたい」と語る。

■衛生への意識世界で底上げ

キベラキベラA-GOALリーグの特徴は、食事の提供も行っている点だ。試合日には、子どもたちに栄養のある食事を提供している。

「家に食べ物がない子どもたちが、弟や妹を連れてやってくる。ここに来れば食べられると分かっているから。それを見ると、私は希望を感じ、とても励まされる」と、コリンズさんは嬉しそうだ。

普段は満足に食べられない子どもたちにとって、週末に食事ができることが大きな安心感につながっているという。

試合では食事も提供する

食事の前には手を洗うなど、衛生意識の向上にも取り組んでいる。コロナ禍以降、手洗いの習慣も徐々に定着してきた。

サラヤの廣岡竜也・広報宣伝統括部統括部長は、「コロナをきっかけに、感染症は世界共通の問題だと改めて認識した。どこか一部の地域だけが衛生的でも意味はない。世界全体の公衆衛生レベルが上がらなければ、人々の健康は守れない」と語る。

「キベラキベラA-GOALリーグの取り組みは、サラヤが掲げる衛生・環境・健康という理念と合致している。単なる慈善活動ではなく、長期的な社会基盤づくりへの先行投資だと捉えている」(廣岡部長)

キベラキベラA-GOALリーグでは、これまで各地のサッカークラブと連携しながら活動を広げてきた。

岸代表は「子どもたちが成長してもサッカーを続けられるように、今後は16歳以上のチームも継続的に支援できる仕組みを整えたい」と展望を語る。

サッカーを通じて将来の可能性を広げる

さらに、「日本とケニアが一つのチームのように支え合う関係を築くことに意味がある。日本も震災や高齢化といった課題を抱えている。50年後、100年後にはアフリカの方が発展している可能性もある。そのとき、ケニアやアフリカが日本を支えるような関係が生まれるかもしれない」と話す。

実際、2024年の能登半島地震の際には、キベラの関係者が現地で寄付を募り、日本へ送ったという。岸代表は「そうした双方向の助け合いの関係を、これからも築いていきたい」と意気込んだ。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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