デモより議決権、環境NGOは反企業から「株主」へ

■オルタナ85号(2026年3月発売号)特集「アクティビストとESGと企業価値」から転載

記事のポイント


  1. 国内外で、環境NGOが関与する気候変動関連の株主提案が広がっている
  2. 当初は目標設定や情報開示を求めるものから、近年はガバナンスを問うものに
  3. NGOはデモを行う存在から市場参加者へ、役割を広げつつある


ここ約10年で、環境NGOが関与する気候変動関連の株主提案が広がっている。欧州や米国ではNGOが投資家と連携して企業に脱炭素を求める動きが定着し、日本にも流れが波及した。その内容も、当初は温室効果ガス削減の目標設定や情報開示を求めるものから、近年は取り組みの実効性やガバナンスを問うものにシフトしている。NGOはデモを行う反企業的な存在から市場参加者へ、役割を広げつつある。(オルタナ副編集長=長濱慎)

◾️米国では61%賛成を獲得した提案も

2015年、英国の投資家連合が英BPおよびシェルに対し、株主提案を通じて気候変動が事業に及ぼすリスクの開示強化を求めた。提案は両社とも9割を超える賛成を獲得。化石燃料企業による気候リスク開示を加速させる出来事となった。

この際に、投資家へのブリーフィング資料作成などを通して株主提案を支えたのが、ロンドンに本部を置くNGO「シェア・アクション」だ。05年設立の同団体は、調査・分析や投資家への情報提供を通じて、企業への働きかけを続けてきた。

 21年には、英HSBCが石炭火力発電や石炭産業への融資を段階的に縮小・廃止する方針を盛り込んだ取締役会提案を株主総会に提出し、99.7%の賛成で承認された。この方針転換を後押しした一因が、シェア・アクションが中心となって進めた株主提案や投資家との対話だった。

オランダの「フォロー・ディス(Follow This)」のように、自ら株主となって提案を行うNGOもある。同団体は16年以降、シェルやBPなどの化石燃料企業に特化し、パリ協定と整合する排出削減目標、とりわけスコープ3を含む野心的な目標の設定を求める株主提案を続けてきた。 

21年の米シェブロンの株主総会では、スコープ3削減を求める決議が61%の賛成を獲得。気候関連の株主提案が過半数支持を得た出来事として、大きく報じられた。 

米国の「アズ・ユー・ソー(As You Sow)」は、気候変動に限らずプラスチック削減や生物多様性、人権、ダイバーシティなど、ESG領域全般をカバーするアドボカシー活動を展開する。

19年には投資家とともに、米アマゾンに温室効果ガス削減目標の策定や適切な管理方針を求める株主提案を提出。気候株主提案が巨大IT企業にも広がる象徴的な事例となった。
 

英シェア・アクションは「金融システムが地球と人々のために機能する世界を築く」というメッセージを発信(団体HPより)

◾️気候変動は倫理問題から財務問題に

このように海外では、株主提案や投資家との対話に主軸を置く「金融型NGO」とも呼べる団体が目立つ。

「かつてのNGOは反企業の旗振り役のような存在だったが、今では上場制度や会社法、取引所ルールの内側でレバレッジをかける事例もみられるようになった。
実際に、海外NGOは元投資銀行員や元アセットマネージャー、元企業弁護士といった実務家で構成されるようになっている」

国内外の株主アクティビズムに詳しいプロキシ・ウォッチャーの松木耕代表はこう指摘した上で、海外特有の3つの背景をあげる。

1)米国では、SEC(米証券取引委員会)のルールにより、比較的少額の株式を一定期間保有しているだけで株主提案が可能。欧州も同様に株主の権利が行使しやすい仕組みが整っており、日本よりもNGOの参入障壁が低い。

2)米国の株主アクティビズムは1960年代の反アパルトヘイト運動からの蓄積があり、世代を超えてプレイヤーが生まれる土壌がある。

3)NGO単独で主張するのではなく、Climate Action 100+などのイニシアティブを通して資産運用会社が議決権行使を通じて投資先のマテリアルリスクの管理を行うようになり、NGOと機関投資家の利害が一致するようになった。  

続けて松木氏は、この10年の変化について説明する。

「2015年のパリ協定などが契機となり、気候変動が倫理問題から企業価値を左右する財務マテリアリティへと転換した。これにより、機関投資家がNGO提案に賛成票を投じる経済合理的な根拠が生まれた」

NGOによる株主提案は欧州から米国、日本へと広がる(表:2015年以降の事例から、オルタナ編集部が主だったものを抜粋)

◾️ 日本でも対話が変化を後押し

一方の日本は、会社法など制度上のハードルによってNGOが株主提案を行うのが難しく、投資家と同じテーブルに付く文化も希薄だった。 それが「責任ある機関投資家」の諸原則(日本版スチュワードシップ・コード)の浸透もあり、次第に気候変動が財務リスクと認識されるようになった。

こうした流れの中、2020年に気候ネットワークがみずほフィナンシャルグループに対し、気候変動に関する国内初の株主提案を行った。パリ協定と整合する投融資を行うための経営計画の開示を求めるもので、石炭火力発電などへの融資の見直しが焦点となった。提案は否決されたものの、34.5%という高い支持を獲得した。

同団体の鈴木康子プログラム・コーディネーターは、こう話す。

「当時、日本でNGOが株主として企業と直接対話を持つことは一般的でなく、そもそも株主となることのハードルも高かった。そこで海外の事例を聞き、株主提案の経験がある国外NGOの知恵を借りつつ、巨額の資金を石炭関連に投じていたみずほFGの株を購入し、対話を始めた」

鈴木氏は「当初は何をどう話すかなど、全てが試行錯誤だった」と振り返り、こう続ける。

「現在では対話が平行線になるにしても企業がNGOの意見を聞く姿勢を示してくれるようになった。世界的に機関投資家が気候変動対策の強化を求める動きが強まる中、日本企業もそれを意識する必要があると伝えてこられたことは意義深い」
 

その後はマーケット・フォース、FoEジャパン、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)などのNGOも加わり、株主提案の対象を広げてきた。

具体的には、三菱UFJ、三井住友、みずほのメガバンク3行に加え、三菱商事、三井物産、住友商事の大手商社、JERAや東京電力などの電力会社に対しても、石炭火力や化石燃料事業に関する株主提案を行ってきた。

現在では、新規の石炭火力プロジェクトへの投融資に一定の歯止めがかかり、まだ不十分であるとはいえ気候変動に関する情報開示も進んだ。こうした変化に、NGOによる株主提案や対話が一定の役割を果たしてきたことは間違いない。

鈴木氏は、こう話す。

「批判から対話へと、デモやスタンディングだけを行っていた頃と比べるとNGOのアプローチ方法も変わっている。我々が株主となることで、企業も対話の相手として見てくれるようになったのではないか」

2025年の株主提案。FoEジャパン、気候ネットワーク、マーケット・フォース、RANの4団体が東証プライム7企業に行った

◾️現在は取締役の責任を問うフェーズへ
◾️法廷闘争などのバックラッシュも

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S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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キーワード: #脱炭素

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