「食費は1日1人500円未満」: 子どもの貧困解消に企業ができることとは

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記事のポイント


  1. NGOが経済的に困難な世帯の子ども1.5万人の「食と生活」実態調査を実施
  2. 約9割は食費が足りず、1日当たりの食費は1人500円を下回る
  3. 子どもの貧困問題や学校給食の役割について詳しい有識者に話を聞いた

公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(東京・千代田)は2026年7月、「経済的に困難な子育て世帯の子ども1.5万人の食と生活の実態調査」を公開した。それによると、約9割は食費が足りず、1人当たりの1日の食費が500円を下回るという。子どもの貧困問題や学校給食の役割について研究する跡見学園女子大学の鳫(がん)咲子教授に、日本社会の構造的な問題と企業が取り組める対策などについて話を聞いた。(聞き手=オルタナ輪番編集長・北村佳代子)

跡見女子学園大学 鳫咲子教授

跡見女子学園大学
鳫咲子(がん・さきこ)教授

<プロフィール>
跡見学園女子大学マネジメント学部教授(行政学)。博士(法学)。参議院事務局に調査員などとして27年間勤務。子どもの貧困・DV などに関する調査研究を行う。主な著作に『子どもの貧困と教育機会の不平等――就学援助・学校給食・母子家庭を めぐって』(明石書店)、『給食無償化–子どもの食格差とセーフティネットの構築』(明石書店)、『給食費未納――子どもの貧困と食生活格 差』(光文社)など。

(参考)「経済的に困難な子育て世帯の 子ども 1.5 万人の食と生活の実態調査報告書」(2026年版)

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■食費が「絶対的貧困ライン」を下回る家庭は日本にも

――今回の調査は、給食のない長期期間中の食支援としてセーブ・ザ・チルドレンが実施している「子どもの食 応援ボックス」に申し込んだ約8700世帯を対象に実施したものです。調査結果をどのように受け止めましたか。

鳫:経済的に困難な家庭は、災害時に被災された方々が直面するような食事やライフラインについて不安・心配を抱える状況に365日置かれており、いつか収束するだろうという出口すら見えない状態にあります。

今回、「子どもの食 応援ボックス」への申し込み世帯数が過去最大となりましたが、そうした方々からの「生の声」を、世の中に伝えなければいけない貴重なデータとして集められた意義はとても大きいと思っています。

今回の調査では、1人当たりの1日の食費が500円を下回る実態が明らかになりました。主な貧困ラインには、その国や地域の平均的な生活水準と比べて低い状態を指す「相対的貧困ライン」と、低所得国において人間が生命を維持するために最低限必要な水準を指す「絶対的貧困ライン」があります。絶対的貧困ラインは、世界銀行の基準によると1日3ドル*(約480円)です。

*「3ドル」は低所得国の基準で、食費以外のすべての生活費を含む。日本が分類されている高中所得国の基準は8.3ドル(約1328円)。

先進国であるはずの日本で、絶対的貧困ラインにも近い食費であるという事実は、非常に大きな衝撃であり、重く受け止めなければなりません。

背景には、昨今の物価高騰の影響も大きな要因としてあります。あらゆる食品の値段が上がる一方で、困窮世帯の収入はそれに見合うほど増えておらず、生活困難度が高まっています。その結果、食べることを切り詰めてしまう傾向が見られます。

子どもの食に関しても、安くておなかがいっぱいになる炭水化物や脂質の多い食品に偏る傾向が出ることは、過去の研究でも指摘されてきました。栄養価が十分なものや、給食並みのものを家で食べさせるのは難しいという実態があります。

1日の食費は1人あたり500円を下回り、2025年の同調査よりも減少傾向に
(資料提供)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

■「栄養のある食事をとらせてあげたい」

――子どもの食に関しては、今回の調査結果の中で、「栄養のある食事をとらせてあげたい」「おなかいっぱい食べさせてあげられずにいる」との回答も見られました。

鳫:給食は、義務教育期間中の子どもたちにとって唯一保障された食事の場です。それがなくなる長期休暇中は、家庭の経済力がダイレクトに子どもの栄養に直結します。

こども家庭庁でも、学童保育での昼食提供などを進めていますが、小学生がいる調査世帯の学童保育利用率は約3割にとどまり、支援が必要なすべての子どもたちに届いている状況にはありません。情報を自ら取りに行くことすら困難な状態にある世帯も多く、公的支援から取り残されやすいという課題があります。

私は、学校給食の取り組みが先進的な韓国でも研究を行いました。韓国はいち早く、高校までの給食無償化を実現しています。また物価が高騰すれば、それに見合う給食費の予算を確保しています。給食を農業政策や環境政策と連動させ、自治体レベルで「給食市場」を安定したマーケットとして活用する工夫もなされています。

また社会全体として、韓国では「子どもが十分な食事を食べていない状態を改善すべきである」というコンセンサスがあります。「ご飯を食べましたか」という言葉が、挨拶代わりに使われており、「食」が生活の基盤として重んじられているようにも感じます。日本よりも戦争が終わるのが遅かった分、「食べられない」という課題を解消しなければいけないという気持ちや連帯が強いのかもしれません。

対して日本は、「武士は食わねど高楊枝」という言葉もあるように、食べられていないことを表立って言うのを避ける傾向があります。公立小学校の給食無償化がようやく始まりましたが、私立高校の無償化の陰に隠れ、政治家の関心も低いままでした。

2026年4月からの「学校給食費の抜本的な負担軽減」(いわゆる給食無償化)については、半数以上が肯定的に捉えた。対象拡大を望む声や、給食の量・質の低下を懸念する声も。
(資料提供)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

■シングルマザーの貧困解決がカギ

――日本で子どもの貧困が生じていることの構造的な問題をどのようにお考えですか。

鳫:日本の税制や社会保障、さらには企業の福利厚生などを見ても、その多くがいまだに「昭和の標準的な家族」、つまり、「夫が正社員で、妻が専業主婦で、子どもが二人」というモデルを前提として設計されています。

社会のセーフティネットからこぼれ落ちてしまう方々の多くは、このモデルから外れている方々です。象徴的なのが、ひとり親家庭の貧困率です。日本では特に、シングルマザーの2人に1人が貧困状態にあります。

養育費をもらっているシングルマザーが全体の3割くらいしかない中、収入も少なく、なかには病気で働けない状況にある方もいます。今回の調査の回答者も、多くはひとり親家庭、それもシングルマザーの方々でした。

養育費に関しては、海外のように相手の給与から強制的に養育費を差し押さえる制度もあります。いろいろな手立てはすべきだと思いますが、相手の支払い能力の問題もある中では、それだけでは根本的な解決にはなりません。

女性が一人で子どもを育てると貧困に陥りやすくなるという、この構造そのものを変えなければなりません。

また、生活保護受給者などに対して、バッシングしがちな世論も、支援を阻む要因です。経済的に困難な世帯の実態を知らない人々による心ないコメントが、本当に助けを必要とする人々の声を封じ込めてしまっている側面もあります。

■誰もが「ケア」を担いながら働ける仕組みを

――「子どもの貧困」の解決に向けて、企業としてはこの問題にどう向き合うことが大事でしょうか。

鳫:フードバンクなどを通じた食の支援をはじめ、企業が「子どもの貧困」解消に向けて行う取り組みには価値があると考えています。

同時に、自社での雇用を通じて、貧困を再生産しない構造を作っていくことも大事です。今回の調査に回答した女性の保護者の中で、正社員の方はわずか12.4%で、7割以上が非正規雇用や無職の方でした。

雇用に関して企業にまず直視いただきたいのは、自社の中にある正規・非正規の格差です。企業の多くは、正社員を中心に福利厚生や処遇を設計していますが、当然ながら、非正規の人たちにも暮らしがあります。この処遇の差を是正していくことが、企業にできる最大の解決策の一つです。

企業の中でも、育児や介護など、会社から離れた場で「ケア」の役割を担っている従業員の方はいらっしゃいます。ひとり親家庭は、一人で子どものケアを担いながら働かなければならず、その制約が、時に正社員としての採用につながりにくい構造になっています。

家族の形はいろいろなことで変わり得るものです。ケアを自己責任とするのではなく、誰もがケアを担いながら働いていることを前提とした仕組みづくりを行うことが重要です。また従業員一人ひとりの意識の中にも、そうした考え方を浸透させていくことも欠かせません。

障がい者の雇用に関しては、企業に対して一定の雇用が法制度上求められています。私は、ひとり親の方の正規雇用についても、企業が責任を持って行う仕組みがあっても良いと思います。

そして、働き方そのものを変えていくことも大切です。日本でも働き方改革が進んできてはいますが、結婚することのリスク、子どもを持つことのリスクなどもあって、女性にとってはまだ生きづらい面があることは否めません。北欧などでは、女性一人でも子どもを育てられることへの安心感から出生率が回復していた事例も過去に見られています。

何より、「子どもが食べられない」ということを他人事として考えないことが大事だと思います。

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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