記事のポイント
- 政府は、社会・経済の課題を成長戦略と結び付け、新市場の形成を狙う
- 企業は自社のパーパスと政府のミッションの「交差点」を見出すことが必要に
- 一方、単に政府の方針に追従する経営戦略をつくればよいわけではない
政府は、社会・経済の課題を成長戦略と結び付け、新たな市場の形成を産業政策で後押ししています。企業はこの変化を見極めて、政府のミッションと自社のパーパスの「交差点」を見出すことが必要になります。ただし、単に政府の方針に追従する経営戦略をつくればよいわけではありません。(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)
日本の産業政策が、大きく変わりつつあります。政府は、社会・経済の課題を成長戦略と結び付け、その解決に向けた政策の方向性を示しています。さらに、関連する戦略分野への官民投資やイノベーションを促し、新たな市場の形成を後押ししています。
こうした政策の変化は、社会的な課題の解決を起点に産業の成長を促す「ミッション志向」の考え方と重なるものです。では、企業はこの変化をどう経営に生かせばよいのでしょうか。
■なぜいま、「ミッション志向」の産業政策なのか
近年、政府が明確な目標を示し、産業・技術への公的支援や投資を通じて民間投資を誘導し、市場形成に関与する動きが世界で広がっています。その背景には、グローバル化と市場原理を前提とした従来の産業政策だけでは対応しにくい環境変化があります。
ロシアのウクライナ侵攻や米中対立などを背景に、半導体や重要鉱物、エネルギーの安定確保が経済安全保障上の重要課題となりました。さらに、気候変動への対応やAIなどの戦略技術をめぐる国際競争も加わり、政府が一定の方向性を示し、民間投資を後押しする必要性が高まっています。
その理論的背景の一つに、英国の経済学者マリアナ・マッツカートらが提唱する「ミッション志向」の考え方があります。
この考え方は、単純な「政府による市場介入」ではなく、政府が目指す社会的な方向性を「ミッション」として示し、民間とともに新しい市場やイノベーションを創出するところに特徴があります。
EUでは、欧州グリーン・ディールを基盤として、脱炭素を環境政策にとどめず、産業競争力や経済安全保障と結び付ける方向が強まっています。2025年に公表された「Clean Industrial Deal(クリーン産業ディール)」は、脱炭素と産業競争力を一体的に進める成長戦略として、EU域内のクリーン製造への資金動員や需要創出を打ち出しました。
米国でも、バイデン政権下でのCHIPSおよび科学法やインフレ削減法(IRA)を通じ、半導体生産や気候変動対策に民間投資を誘導する政策が展開されました。トランプ政権では、脱炭素政策の見直しが進む一方、半導体、AI、重要鉱物、造船など経済安全保障に関わる戦略産業への関与が強まっています。
■日本も17の戦略分野に官民投資を集める
この動きは、日本でも具体化しています。
経済産業省は2021年、産業構造審議会に「経済産業政策新機軸部会」を設置しました。新機軸部会は、社会全体として解決すべき課題と目指す方向性を「ミッション」として設定し、長期的・計画的な政策支援によって民間投資を呼び込む「ミッション志向の産業政策」を掲げ、検討を重ねてきました。
新機軸部会が2026年6月に公表した第5次中間整理では、AI・半導体、量子、バイオ、宇宙など17の戦略分野を念頭に、グローバルで優位に立つための勝ち筋(産業・製品・技術)にまで踏み込みました。この流れを受けて、同年7月には政府が「日本成長戦略」を閣議決定しています。
そこでは、17の戦略分野における62の主要な製品・技術等について、官民連携の危機管理投資・成長投資を進め、2040年度までの官民投資額を累計370兆円超とする方向が示されています。
日米欧でアプローチは一様ではありませんが、共通しているのは、従来の「市場の働きを基本とし、政府は市場の失敗を補う」という考え方から、「政府が社会課題と目指す方向性を示し、官民で新たな産業や市場を形成する」という方向へと、産業政策の重心が移っていることです。
■政府方針に追従して経営戦略をつくる必要はない
■補助金に頼らずとも自走できるビジネスモデルを
■パーパスとミッションの「交差点」を新たな成長機会に

