間違いだらけのエコカー選び(4 号・第二特集)

日本で排出されるCO2のうち、自家用自動車の排ガスは6%を占める。ガソリン高騰もあって、次のクルマは「エコカー」でと考える人も多いだろう。だが、 エコカーを巡ってはさまざまな誤解や俗説もあるようだ。その真偽を探ってみた。

× ハイブリッドは当面の「つなぎ」
○ 数十年はハイブリッド車の時代に

究極のエコカーといえば「燃料電池車」の存在が知られる。だが市販(リース)車は普及していない。月のリース料が100万円前後と高いうえ、エネル ギー供給源となる水素スタンドがまだ関東・関西などに10カ所あまりしかないからだ。

20年後には燃料電池車の普及が期されるものの、気軽に買える時代はすぐには来ない。早稲田大学理工学術院の大聖泰弘教授は「市販車レベルでは今後 数十年、ハイブリッドの時代が続く」と予測する。

むしろ、技術革新とともにハイブリッド車市場が拡大していくとの見方が一般的だ。例えばプリウス(トヨタ自動車)など現行のハイブリッド車はニッケ ル水素電池を搭載しており、より充電容量が大きく小型化にも適しているリチウムイオン電池の搭載が待たれる。

残念ながら、現状ではリチウムイオン電池を搭載したハイブリッド車は当面期待できない。パソコンでしばしば発火事故を起こすなど、安全性が完全に確 立されていないからだ。09年初頭にも発売予定である第三世代のプリウスも、リチウムイオン電池が搭載される見込みは極めて不透明だ。

「ターニングポイントは2010年ごろ」と自動車評論家の国沢光宏氏は見る。「このころになるとリチウムイオン搭載車が期待できるほか、プラグイ ン・ハイブリッドや『シリーズ(直列式)・ハイブリッド』なども普及しているのではないか」。

プラグイン・ハイブリッドとは、家庭用電源などから自動車内の電池に充電し、モーター走行に使う方式。現行のハイブリッドに比べて2―3倍の容量の 電池を搭載し、夜間に家庭で充電する。エンジン走行の時間を減らすことができ、燃費も飛躍的に良くなる。

直列式ハイブリッドは、走行のための動力源はモーターだけで、エンジンはあくまで発電用。直列式やプラグイン式になるとほぼEV(電気自動車)に近 い存在だ。 独オペルは9月のフランクフルト・モーターショーでコルサのディーゼル・ハイブリッド車のコンセプトカーを発表した。ディーゼル・ハイブリッ ドの開発競争も進む。

× ディーゼル車は環境に良くない
○ クリーンなディーゼル車が増加

現在、乗用車として新車登録できるディーゼル乗用車は、昨年メルセデスベンツが日本で発売した「E320CDI」だけ。一方、日本の自動車メーカー はこの数年間、国内向けのディーゼル乗用車の新たな投入を見合わせてきた。

それは、ユーザーのディーゼル車離れが定着していたからだ。きっかけは99年、東京都の「ディーゼル車NO(ノー)作戦」。ディーゼル車の排気ガス に含まれるNOx(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)が大気汚染の元凶だとして、基準に達しないディーゼル車を締め出した。

だが、E320CDIを発売したダイムラー・クライスラー日本は「現在のディーゼル技術は、NOxやPMを90年代前半と比べて80―90%も低減 した。それまでのディーゼルとは全く別のエンジンと見てほしい」と説明する。

欧州では、排気ガス性能に優れるコモンレール式ディーゼルエンジンが環境に良いクリーンエンジンとして普及し、いまや新車に占める割合は5割を超え た。ディーゼルエンジンのCO2の値はガソリンエンジンに比べて1―2割程度少ないとされる。

この流れに日本車メーカーも乗らないわけにはいかない。日産自動車は今年8月、「日本の新しい排気ガス基準に合ったクリーンエンジンのディーゼル SUV『エクストレイル』を08年秋に発売する」と発表した。新しい排気ガス基準とは「ポスト新長期規制」と呼ばれるもの。本田技研工業の福井威夫社長も 09年をメドにディーゼルエンジン車の投入を表明したほか、他のメーカーも開発を進める。

日産が開発中の新しいディーゼルエンジンは排気ガス臭さの主因である「HC」(炭化水素)は、人間の鼻が感じる6ppm程度を大幅に下回る 0~1ppm。「大気が臭うような汚染の激しい地域なら、空気清浄機になってくれるのだから驚く」(国沢氏)。

× ハイブリッドなら取りあえずエコ
○ 重いハイブリッドはメリット減少

ガソリン車に比べて燃費が高いことで知られるハイブリッド車。だが、車重が1.5トンを超えると燃費のメリットは大きく減ってしまう。トヨタ方式の ハイブリッドでは低速時はモーター走行で、トルクやスピードが足りなくなると自動的にエンジンが動き出す。重たいクルマはエンジンが早めに駆動するので不 利になる。

トヨタのハリアーやエスティマのハイブリッドの燃費は、プリウスが同サイズ車に対するほどの優位性はない。国沢氏は「エネルギー効率や製造コストを 考えると、1.5トン以上のクルマはディーゼル。1―1.5トンはハイブリッド車が優位」としている。

× 「バイオガソリン」は環境に良い
○ バイオ燃料の割合低く、看板倒れ

今年4月27日、首都圏50カ所のガソリンスタンドで、「バイオガソリン」の販売が始まった。スタンドでは「環境に優しい」と書かれたポスターが貼 られているが、本当にそうだろうか。

今回のバイオガソリンは、フランスから輸入したETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)を7%(うちバイオエタノールは3%)、レギュ ラーガソリンに混合したもので、価格は従来のレギュラーガソリンと同じだ。

バイオエタノールの含有率が3%以下になったのは03年、「揮発油等の品質の確保等に関する法律」(品確法)の改正で「エタノールの混合率は3%ま で」と新たな規制を盛り込んだからだ。

石油元売りで構成する石油連盟のホームページには「植物を原料とするバイオ燃料を燃焼させた場合、次の世代の植物が光合成によって二酸化炭素を吸収 して育つため、大気中の総量を増加させない」とカーボンニュートラル効果を強調している。

だが、これは「わずか3%の」カーボンニュートラルでしかない。米国やカナダの一部州ではガソリンに10%程度のバイオエタノール混入を義務付けた ほか、ブラジルではバイオエタノールとガソリンを無制限に混合給油できるフレックス車も普及している。

× バイオ燃料はクルマに悪い
○ 言われているほど悪影響はない

ひところは「バイオエタノールを高濃度で混入させると火災の原因になる」との説が広がったが、今では根拠が乏しいとの見方が大勢だ。品確法を再度改 正して、エタノール3%との基準を10―20%まで高めることが必要だろう。バイオエタノールはエンジンに悪いとの説もある。だが、ブラジルのフレックス 車は燃料センサーで噴射機を自動制御する仕組みで、その他はほぼガソリン車と同じだ。
廃食油から再生したバイオディーゼル(BDF)についても同様に品確法で5%規制があるが、これも根拠が乏しい。ごみ収集車220台全車両や市バス車の一 部で100%のBDFを使用する京都市の中村一夫・環境局施設整備課担当課長は「この10年の経験でもBDFによる大きなトラブルはなく、BDF100% でもほぼ問題なく利用できる」と指摘する。

× 軽自動車はエコだが安全性が心配
○ 普通車並みの安全性を持つ「軽」も

軽乗用車は、燃費もよく環境にやさしいとされていたが、いったん大きな事故を起こすと車体へのダメージが大きく危険だとして二の足を踏むユーザーも 少なくなかった。しかし最近では、普通乗用車並みの安全性を確保した軽乗用車も増えてきた。
自動車アセスメント(国土交通省による衝突安全性評価)で、運転席での衝突安全性が五つ星なのがR2(富士重工業)、アルト(スズキ)、ライフ(ホンダ) など。助手席の衝突安全性は、エブリイ(スズキ)とミラジーノ(ダイハツ)などが最高評価の六つ星を獲得した。R2は乗用車部門で六つ星を獲得したフォレ スターと同じ『新環状力骨構造』というボディ構造を採用している。

× エコカーは買った方が良い
○ 買わなくても、借りる手もある

エコカーを買わなくても、まずは借りて試すという手もある。横浜市磯子区に6月開店した「ECOレンタカーKOEI」は、ハイブリッド車や電気自動 車などだけを扱う。おそらく全国唯一のエコ専門レンタカー店だ。

プリウスやシビック・ハイブリッド以外にも、ハイブリッド・ワゴン車「アルファード」や、アイドリングストップ機能を搭載した「ステラ」や「ヴィッ ツ」、2トントラック「エルフ」などを用意している。

利用者には、「エンジンブレーキを積極的に使う」「やさしい発進を心がける」などの「エコドライブ宣言書」に同意のサインをもらう。  面白いのは、これらエコカーのレンタル料金がすべてガソリン代込みということ。プリウスは9450円。ステラなら6300円。「近郊へのドライブ程度な ら、当社の採算は十分合う」(KOEIの遠藤勝彦氏)という。

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