国連ミレニアム開発目標(MDGs)達成には企業のCSRが不可欠――下田屋毅の欧州CSR最前線(9)

在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅氏

「安全な飲料水を利用できない人々の割合を半減する」という国連ミレニアム開発目標(MDGs)の一部が、2015年の目標達成期限より前倒しで達成された。3月26日にユニセフと世界保健機関(WHO)が合同報告書「飲料水と衛生施設における前進(2012)」で発表した。

報告書によれば、2010年の終わりに世界の人口の89%が改善された水源を利用するというターゲットを達成。2015年までには、その割合は、92%となると見込まれている。
ここで取り上げている国連ミレニアム開発目標(MDGs)とは、以下の8つの目標とそれ以下のターゲットで構成され、2015年までに国連の189加盟国が達成することを約束している。

目標1:極度の貧困と飢餓の撲滅  目標2:初等教育の完全普及の達成  目標3:ジェンダー平等の推進と女性の地位向上  目標4:乳幼児死亡率の削減  目標5:妊産婦の健康の改善  目標6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病のまん延防止  目標7:環境の持続可能性確保  目標8:開発のためのグローバルなパートナーシップの推進

8つの目標、21のターゲットが設定されており、今回の達成は、目標7のターゲット7-C「2015年までに、安全な飲料水と衛生施設(トイレ)を継続的に利用できない人々の割合を半減させる」というターゲットの一部である。ミレニアム開発目標は、目標に向けて進展しているものや、進展が大きく遅れ、達成不可能とみられているものまである。

このターゲットの中の「飲料水」の分野は達成しているとはいうものの、サハラ以南の最貧の開発途上のアフリカを中心として7億8,000万人がいまだに安全な飲料水を確保できず、毎日、3,000人以上の子どもたちが下痢性疾患によって命を落としている事実がある。

そして、「衛生施設(トイレ)」の分野においては、世界人口の63%しか改善された衛生施設(トイレ)を利用しておらず、75%という数値を下回っており、2015年までの達成は見込めないとされる。

それでは国連ミレニアム開発目標に関して、企業としてどのように関与したらよいのだろうか。

ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向け、国連開発計画や国連グローバルコンパクト、オーストラリア政府などの財政支援のもと、企業が発展途上国の社会的課題解決をしながら商業的成功も目指すイニシアチブとして「ビジネス・コール・トゥ・アクション(ビジネス行動要請)」が2008年に立ち上げられている。

企業は自社の強みを活かしたビジネスにより発展途上国における社会的課題解決をするイニシアチブを取ることが求められ、専門家から助言を受けたり、事例研究やビジネスモデルの提供を受けることができる。

また、国連開発計画(UNDP)では、「ミレニアム開発目標(MDGs):エブリワンズ・ビジネス( Everyone’s Business)」を2010年に発行した(日本語版要旨は2011年6月)。

「ミレニアム開発目標(MDGs)を達成するために重要なビジネスの6つの役割」や、「コアビジネスを通じた企業のミレニアム開発目標(MDGs)への貢献とその支援機関」「包括的ビジネスモデル」を紹介、「ビジネス・コール・トゥ・アクション」参加企業の事例研究もターゲット別に提供、ウェブで定期的にアップデートされている。

スイスの食品大手ネスレは、国連ミレニアム開発目標(MDGs)の「極度の貧困の撲滅」、「栄養不良の改善」「乳幼児死亡率の削減」という発展途上国の課題の解決にビジネスとして取り組んでいる。

ネスレは「共通価値の創造(Creating Shared Value)」を、事業成功を目指すための事業戦略の基本原則に掲げた。栄養食品を提供することが自社の強みであり、共通価値を創造する主領域と位置付け、「栄養」とそれに関連する「水」「農業・地域開発」と伴に途上国を中心にCSVプロジェクトを実施している。

日本の中小企業の取り組み事例として有名なのは、日本ポリグル(大阪市)だ。納豆の成分であるポリグルタミン酸から水質浄化剤を開発、安価で水を飲料水に変えることに成功した。

この技術は、日本国内では主として産業排水の浄化に利用しているが、途上国ではバングラディシュで安全な飲料水の供給に役立てられている。

国連開発計画では、国連ミレニアム開発目標の達成には、民間セクターの積極的な関与が不可欠であると述べている。

自社のコアのビジネス(自社の強みを活用したビジネス)を通じて社会的課題の解決をめざす企業が増え、少しでも多くの国連ミレニアム開発目標のターゲットが達成できるようになることを望む。(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)

 

shimotaya_takeshi

下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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