記事のポイント
- 近年米国では「DEI」に関する企業の取組への反動や揺り戻しが起きている
- 企業にとってDEI推進は人的資本経営の中核的要素であり、不可欠な取組みに
- 経営者はDEI推進の意義と目的、期待効果と実績を明確に伝えることが重要だ
近年米国では、DEI(多様性、公平性、包摂性)に関する企業の取組への反動や揺り戻しが相次いでいます。DEIに批判的な立場を取るトランプ政権への政治的な配慮からこの動きが加速しているようにも思われます。本来、企業にとってDEI推進は人的資本経営の中核的要素であり、不可欠な動きです。経営者は、明確なロジックやストーリーを通して、DEI推進の意義と目的、期待される効果と実績を投資家や従業員など幅広いステークホルダーに分かり易く説明することが重要です。(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)
■DEI推進は企業が社会的責任を果たすために不可欠な取り組み
DEIは、Diversity, Equity, and Inclusion の略で、組織や社会において重要とされる価値観や取り組みを指します。それぞれの意味は以下の通りです(国際労働機関(ILO)や世界保健機関(WHO)などの資料を参照のうえ、一部筆者が加筆)。
1) 多様性 (Diversity):異なる背景、視点、経験を持つ人々を受け入れること
年齢、性別、人種、国籍、文化、宗教、性的指向、価値観、知識、経験、能力など、様々な属性や考え方を持つ個人が共に存在し、それらの違いを認識し、尊重することを指します。
2) 公平性 (Equity):平等な結果を目指すために個々のニーズに応じた支援を行うこと
全員が同じ条件で成功できるように、必要に応じてシステムや制度の変革を含む異なる支援や配慮を提供することです。平等 (Equality)と違い、個々の状況に応じたアプローチを強調します。
3) 包摂性 (Inclusion):多様な人々が受容され、安心して活躍できる環境を作ること
単に「受け入れる」だけでなく、全員が安心して意見を述べたり、積極的に活動に参加したりできる心理的安全性の高い環境づくりが目的です。
■米マクドナルドやウォルマートが「DEI」の看板を下げた
これまでDEIは、企業の社会的責任の一環であるとともに、持続的な成長と中長期的な企業価値向上にとって重要な要件と見なされてきました。
しかし、近年米国では企業経営におけるDEI推進に対する保守層の反発(一部の投資家や活動家による圧力など)が強まり、反動や揺り戻しが起きています。この様な動きはDEIバックラッシュ(Backlash)と呼ばれています。この影響を受けて、DEI推進の取組を後退させる企業が相次いでいます。
1月6日、米マクドナルドが多様性確保に関連する目標の廃止、サプライチェーンでのDEI宣言の取り下げなどを発表しました。2024年11月には、米小売り最大手ウォルマートが多様性プログラムを推進する取引先への優遇措置の取りやめ、人種公平性に関する従業員向け研修の中止などを決めています。
同月ボーイングは、広範な業務改革の一環としてグローバルDEI部門を解体し、その機能を人事部門に統合しました。米フォード・モーターも2024年8月、DEIを評価する外部の企業調査への参加を取りやめることを表明しました。
この動きはテック業界にも及んでいます。1月10日、メタは採用面での多様性配慮の撤廃、多様性評価に基づく取引先選定方針の終了などを明らかにしました。アマゾンも多様性に配慮した取組の一部を中止すると報じられました。
日本企業も影響を受けています。トヨタ自動車や日産自動車は、多様性を重視する姿勢は変わらないとしつつ、米国でのDEI活動方針の一部を見直しました。
両社とも、性的少数者団体「ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)」が実施する性的少数者への取組を評価する「企業平等指数」への参加をやめるほか、LGBTQ+支援イベントへの協賛を中止しました。
■DEIバックラッシュはコーポレートガバナンスにも波及する
■これまで企業は本気でDEIを推進してきたのか
■企業経営におけるDEI推進は人的資本経営の中核的要素に
■DEI推進はコーポレートガバナンスでも重要に