記事のポイント
- 気候変動に伴う猛暑や自然災害への「適応」は企業にとって人権課題だ
- 労働者の生命・健康への影響は喫緊に対応すべき人権リスクである
- サプライチェーンの脆弱な立場にある人々への対策も欠かせない
今年の夏も各地で猛暑が続いた。毎年のように最高気温を更新するようになり、暑さが及ぼす影響もますます深刻となっている。ニュースでも連日のように「冷房をつけるように」と警告がある。しかし、適応は個人だけの取り組みでどうにかなるものではなく、企業による取り組みの重要性も増している。(弁護士・佐藤暁子)

気候変動の問題は「環境部門」に振り分けられていることが多いが、人権と関連する課題も多くある。その一つが「適応」だ。そもそも「適応」とは気候変動に関する影響を減少させるための取り組み、すなわち「緩和」だけでは抑え切れない気候変動の影響に対して実施すべき対策を指す。
これを事業活動に当てはめてみる。例えば、日中の気温が上がったことにより、建設現場や工場といった作業現場の労働環境における健康リスクが上昇する。あるいは、流通現場でトラックなどの運転手の労働環境も同様だ。
人権リスクの「深刻度」の考え方によれば、このような状況で侵害されうる人権とは、生命・健康など、①その規模は重大、②範囲も広くなり、③是正困難度も高いものである。すなわち、顕著な人権リスクとして、喫緊に対応すべき人権侵害リスクである。
加えて、気候変動がもたらす自然災害リスクの増加に対する「適応策」も重要である。例えば、豪雨による洪水リスクが高まることにより、その地域にある工場や農園で働く労働者の生命・健康に対するリスクも、同様に高まる。ガバナンスギャップの大きい国においては、水害リスクに対する国としての対策が不十分であることも多い。企業は、自身の責任として事業活動に関連する人権リスクとして対策を講じることが求められる。
まず、何をすべきか。人権デューデリジェンス(DD)として、人権リスクの特定と評価が最初のステップとなる。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)など気候変動に関する施策をメインで担当する部門との協議が欠かせない。すでに自社に関連するデータがあれば、それを人権リスク評価にも活用できる。
その上で、予防・軽減策として機能する施策を検討する。上述の状況を例にとると、休憩時間の増加や勤務時間の変更といった体制から、冷房設備の完備や休憩室の設置をはじめとする物理的な対策まで多岐にわたる。
さらに、このような課題は自社内でも起きるが、発生可能性がさらに高まるのはサプライチェーン上のより脆弱な立場にある当事者である。指導原則は、取引先で生じる人権リスクについては、「助長」もしくは「直接関連」という関わりになると示す。「助長」であれば、直接的な予防・軽減策を講じる必要がある。
例えば、契約内容が短期間での長時間労働を求める内容となっていることが、暑さが厳しい日中の作業をやむなくしているかもしれない。あるいは、必要な対策に十分な費用をかけることができない契約条件となっているかもしれない。
気候変動の影響は、残念ながら止めることができないフェーズに来てしまった。だからこそサプライチェーン全体、社会全体が全力で適応に取組む必要がある。「ビジネスと人権」の視点は、気候変動による影響を人権のレンズで捉え、必要な施策を議論する上で有益かつ必要不可欠である。



