バルセロナの葛藤: サグラダ・ファミリア完成で観光客はさらに増加へ

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記事のポイント


  1. 世界で最もオーバーツーリズムに悩まされている都市がスペインのバルセロナだ
  2. サグラダ・ファミリアの主塔「イエス・キリストの塔」も完成し、観光客はさらに増加へ
  3. 同市の宿泊税は2029年に1泊最大約2700円まで上がる予定だが、効果は不透明だ

世界屈指の観光都市バルセロナが「オーバーツーリズム」に悩まされ続けている。人口約160万人の街に、2025年に訪れた観光客は約1600万人。ホテル宿泊客だけでも約900万人に達した。2024年7月には「バルセロナは売り物じゃない」と訴える市民デモもあった。世界的な注目を集める街を訪れた。(写真家・山口 勉)

サグラダ・ファミリアの「生誕の門」などは石造りだったが、完成を急いだため、コンクリートを多用した。正面の「生誕の門」と左手奥とは明らかに色が違う(2026年9月28日筆者撮影)

スペイン北東部カタルーニャ州の州都バルセロナ。1992年のバルセロナ五輪を機に空港やビーチが整備され、格安航空会社の乗り入れも進んだことで観光客数は右肩上がりに増えていった。

問題が顕在化したのは10年あまり前とされる。公共空間や交通機関の混雑、観光客のマナー悪化、物価の高騰、宿泊施設急増に伴う不動産価格の上昇、住民の立ち退き、地域コミュニティの変容といった「生活の質」の低下が進み、観光客への反発、いわゆる「観光恐怖症」が散発的に起きてきた。

「なぜ地元民が注文を変えなければならないのか」

オーバーツーリズムとは単に「人が多い」という問題ではない。観光客の消費行動に合わせて店やサービスが変わり、住民が慣れ親しんだ街の日常そのものが変質していく問題でもある。

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バルセロナ大学に通うアレッシア・テッタマンズィさんは、地元民としての違和感をこう語る。

「カフェラテはバルセロナでは伝統的に氷を別で出すのですが、最近は観光客向けに最初から氷を入れた状態で出され、値段も上がりました。『氷は別で』とわざわざ細かく注文すれば地元価格にしてもらえる。なぜ地元民がそんな交渉をしなければならないのか」

象徴的なのがグエル公園周辺だ。公園へ向かう市バス「116番」は観光客で混雑し、住民、とりわけ高齢者が乗れない事態が常態化した。2024年にはグーグルやアップルの地図アプリから路線表示が消え、利用者の混雑が緩和されたと英紙ガーディアンが報じた。

騒音対策も課題だ。背景にあるのは、観光と市民生活を両立させる必要性だ。

サグラダ・ファミリアなどの人気スポットでは、ガイドの拡声マイクが騒音として苦情の的となった。市は観光ガイドに対し、公共空間で拡声マイクを使わず、イヤホンを利用した「whisper system(ささやき装置)」などを推奨している。

市では、深夜23時から翌朝7時までは昼間より厳しい騒音基準が設けられている。それでも23時以降の騒音も多く、近隣住民はすぐ通報するほど神経質になっているという。観光客が集中する旧市街などでは、住民の睡眠や生活環境を守るため、テラスの営業時間短縮など、地区独自の対策を取っている。

グエル公園の波打つモザイクベンチも観光客でいっぱい(2026年9月28日筆者撮影)

深刻なのは「住めない街」になること

地元住民にとって最大の問題点の一つが住宅だ。アレッシアさんは「Airbnb(エアビー)のような民泊を始めようとしても、今は許可がほとんど下りない」と話す。住宅の観光用短期賃貸「観光フラット」は2011年から2014年のわずか3年で824件から9609件へ激増し、不動産価格を押し上げて住民を街から追い出す一因となった。

アレッシアさんも「土地は限られているのに、無制限に増やせば地元民が住めなくなる。無許可の違法営業が後を絶たないのも問題」と指摘する。市の統計では、この10年間で家賃は名目で50%以上上昇した。 一方、無許可民泊も課題で、市は2016年以降、1万1500件以上の制裁を科してきた。

それでも観光は「悪」ではない

ただし、観光客を排除すれば解決するほど単純ではない。

2024年、観光関連産業は市内で約16万3000人の雇用を支え、観光客による直接消費は103億ユーロ(約1.8兆円)に達した。市民の70%が観光をおおむね街に利益をもたらすと評価した調査もある。

アレッシアさんもメリットとして「文化交流」を挙げる。かつては英国やドイツ、北欧からのバカンス旅行者が目立ったが、近年は韓国、中国、アラブ諸国など訪問者の出身地も多様化したという。

「中国系住民は昔から多く、街の文化に溶け込んでいます。日本の印象も良いですね。電子機器やアニメ、漫画などの影響も大きいと思います」

観光客は街に負担を与える存在であると同時に、新しい文化や価値観を運ぶ存在でもある。

行政は「量より質」への転換を急ぐ。ジャウマ・コルボニ市長は2028年までに旅行者向け短期賃貸を全面禁止し、1万戸を地元住民向け賃貸に戻す方針を掲げ、宿泊税もさらに引き上げる計画だ。

バルセロナは2012年に初めて宿泊税を導入して以降、5回以上も税率を上げ続けた。2029年にかけて、市税の独自上乗せ分を毎年1ユーロずつ追加で値上げする。最終的に市税だけで8ユーロ、合計で1人1泊あたり最大15ユーロ=約2700円(5つ星ホテルの場合)に達する予定だ。

2026年6月にはサグラダ・ファミリアの主塔「イエス・キリストの塔」が完成した。観光客のさらなる増加も見込まれるため、主要施設は事前予約制の徹底が進んでいる。

「観光客を増やす」から「観光を管理する」へ

バルセロナが今後問われるのは、観光客を受け入れ続けるか否かではない。「どれだけ来てもらうか」から「市民生活を守りながら、どう受け入れるか」への転換だろう。

市は観光客の集中する地域から他地域への分散、宿泊施設の規制、公共空間の混雑・騒音対策などを進めている。

観光は街に利益をもたらす。しかし、街は観光客のためだけに存在しているわけではない。バルセロナが直面する葛藤は、京都やベネチアなど世界の観光都市にも共通する。

観光客にとって魅力的な街であり続けるためには、まずそこが住民にとって「暮らしたい街」であり続けなければならない。そのバランスをどこに置くのか。バルセロナはいま、世界の観光都市が避けて通れない問いの最前線に立っている。

大手IT企業や制作会社で販促・ウェブマーケティングに携わった後独立。2008年から3年間自転車活用を推進するNPO法人グリーンペダル(現在は解散)で事務局長/理事を務める。米国留学中に写真を学びフォトグラファーとしても活動する。 執筆記事一覧

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