企業の人権尊重、コミュニケーションの視点で

通訳オペレーターが「手話」または「文字」と「音声」とを通訳することで、双方向につなぐ「電話リレーサービス」

周囲の人との自由なコミュニケーションが保障されることは、人が人として生きるうえで必要不可欠なことであり、人権の根本的な部分になります。コミュニケーション保障は、従来は、福祉サービスの視点で考えられ、多くは、各自治体が提供する手話通訳や文字通訳などの意思疎通支援サービスを指していました。

しかし、人々が社会で生きていく上では、企業が提供するサービスを利用する機会は少なくありません。これらのサービスにおいて、ユニバーサルデザインを適用して誰もがコミュニケーションの支障なく使えるようにすること、また、企業がお客様とコミュニケーションをするときに、支障なく行えるようにすべきでしょう。

具体的な例としては、「電話リレーサービス」という聴覚や発話に困難のある方(以下「聴覚障害者等」)と聴覚障害者等以外の者との会話を、通訳オペレーターが手話・文字と音声を通訳することにより電話で双方向につなぐサービスがあります。今年7月から法律に基づき開始されようとしています。

1869年(明治2年)の10月23日に、東京―横浜間の電信線架設工事が始まったことにちなみ、10月23日は、「電信電話記念日」と定められています。この時から150年以上もの間、聴覚障害者等は、電話を使えない、または、使いづらい状態が続いていました。ですが、今後はこれらの不便さが解消される見込みです。

ただし、電話リレーサービスを使用して、手続きなどを行う時に、第三者であるオペレーターが通訳に入るため、企業側が本人確認を受け付けないという問題が残っています。このような時こそ、企業には、電話リレーサービスが公共サービス化されたことを認識し、オペレーターを介しての手続きなどで本人確認を行う場合、円滑に実施されることを望みます。

なお、「コミュニケーション保障」と類似する項目として、「情報保障」があります。「コミュニケーション保障」は、通話やディスカッションなどの会話や対話をサポートする意味があるのに対し、「情報保障」は、講演やセミナーで手話通訳や文字通訳を付けたり、テレビや映画で字幕を付けたりすることで、情報を公平に提供するという意味があります。

■人権尊重の事例(2):コミュニケーションバリアに対する正しい理解

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伊藤 芳浩 (NPO法人インフォメーションギャップバスター)

特定非営利活動法人インフォメーションギャップバスター理事長。コミュニケーション・情報バリアフリー分野のエバンジェリストとして活躍中。聞こえる人と聞こえにくい人・聞こえない人をつなぐ電話リレーサービスの公共インフラ化に尽力。長年にわたる先進的な取り組みを評価され、第6回糸賀一雄記念未来賞を受賞。講演は大学、企業、市民団体など、100件以上の実績あり。著書は『マイノリティ・マーケティング――少数者が社会を変える』(ちくま新書)など。執筆記事一覧

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キーワード: #SDGs#ビジネスと人権

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