グローバル化が進んだ今日、日本企業はさまざまな場面で人権課題に直面し始めています。特に海外でのサプライチェーンの末端で強制労働や児童労働等の問題が指摘されれば、取り引きへの影響に留まらず、ブランドも傷つきます。もちろん、日本企業もそのようなリスクを回避するために大いに努力しています。今回は、ビジネスと人権について、コミュニケーションの面から2つの事例を紹介したいと思います。(NPO法人インフォメーションギャップバスター理事長=伊藤芳浩)
■なぜビジネスと人権が注目されるのか
近年、企業における人権尊重の必要性について国際的な関心が高まっています。2015年9月に国連で採択された国際社会共通の目標である「SDGs(持続可能な開発目標)」には、17目標・169ターゲットがあります。どれも「人が生きること」と関連しており、人権尊重の考え方がベースにあります。
このSDGsの達成に向けて、世界でも国内でもさまざまな取り組みが進められています。また、2011年の国連人権理事会において、「ビジネスと人権に関する指導原則」が全会一致で支持されました。
こうした背景の下、各国政府は、指導原則を実施するために国別行動計画(NAP)を策定することが推奨され、日本政府もようやく2020年10月に「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」が策定されました。同計画では、今後政府が取り組む各種施策や企業活動における人権デュー・ディリジェンスの導入・促進への期待が表明されています。
この行動計画の実施や周知を通じて、責任ある企業行動の促進を図ることで、日本企業の企業価値と国際競争力が向上するとともに、SDGsで掲げられた「誰一人取り残さない」社会の実現へとつながることが期待されます。
「『ビジネスと人権』に関する行動計画」には、「法の下の平等(障害者、女性、性的指向・性自認等)」があり、ユニバーサルデザイン等の推進、障害者雇用の促進、女性活躍の推進、性的指向・性自認への理解・受容の促進、雇用分野における平等な取り扱い、公衆の使用の目的とする場所での平等な取り扱いなどが掲げられています。