記事のポイント
- 日本の若者がCOP27の2週間、現地に滞在しドキュメンタリーを撮影
- 「損失と損害」に苦しむグローバル・サウスのリアルな声を記録した
- 今なお化石燃料の開発を進める日本などの先進国に厳しい目が向けられる
昨年11月のCOP 27(第27回国連気候変動枠組条約締約国会議)を若者の目線で記録したドキュメンタリー「気候危機が叫ぶ Recording The People Voice」が、このほど公開された。先行のYouTube版に続いて、4月29日には未使用映像を追加したディレクターズカット版が完成した。約100分の映像には、化石燃料にしがみ付く先進国に向けたグローバル・サウスの叫びが凝縮されており、日本の支援のあり方も厳しく問われている。(オルタナ副編集長・長濱慎)

◾️化石燃料プロジェクトは「新たな植民地支配」
「COP27ドキュメンタリー 気候危機が叫ぶ Recording The People Voice」は、気候正義に声を上げる若者グループ「フライデーズ・フォー・フューチャー・ジャパン」で活動していたメンバーが中心となって制作した。プロジェクトの共同代表を務める大学生の中村涼夏(すずか)さんと山本大貴(だいき)さんを含む5人のメンバーがエジプトに赴き、約2週間カメラを回し続けた。
注目を浴びない人々の声を、現場のリアルな「熱」と共に記録するという方針にもとづき、映像の大部分はデモやアクション、会場に集まったさまざまな市民へのインタビューで構成されている。出身地域やバックグラウンドを問わず多くの人々が口にするのが、化石燃料からの即時撤退だ。
気候危機の被害を最も被っているグローバル・サウスの人々は、先進国による石炭や石油、天然ガスの開発を「新たな植民地支配」と断罪する。日本パビリオンを訪れたウガンダの若者が三菱UFJ銀行の幹部に対し、東アフリカ原油パイプライン(※)へ資金提供しないよう訴える一部始終も映像に収められた。
※東アフリカ原油パイプラインの詳細
海外金融機関が逃げた「東アフリカ原油計画」に邦銀が関与も
COP恒例のサイドイベント「化石賞」は、3年続けて日本が受賞した。米NGOオイル・チェンジ・インターナショナルによると、JBIC(国際協力銀行)や JICA(国際協力機構)が海外の化石燃料プロジェクトに投入した公的資金は、2019年から2021年の3年間で世界最高額の318憶ドル(約4兆7700億円)に達した。
映像からは、日本の若者が加害者的な側面を自覚しながらも、グローバル・サウスとの連帯を模索しようとする様子が伝わってくる。

◾️COPに参加することはグリーンウォッシュか
COP27に参加すること自体を、グリーンウォッシュと批判する声も上がった。気候正義ムーブメントの象徴的存在とされるスウェーデンの環境活動家・グレタ・トゥーンベリさんは、エジプトの人権侵害を理由に参加を見送った。
エジプトでは強権体制の下、市民運動が弾圧を受けている。政治犯として拘束された活動家やジャーナリストは6万人に上るという。過去のCOPで問題視されなかった会場外でのデモは、一部エリアに制限された。
開催地がエジプト屈指の高級リゾート地・シャルムエルシェイクだったこともあり、COPの場にいること自体が「特権」という側面も強かった。中村さんや山本さんも、日本政府が発行するバッヂ(許可証)を受け取って参加を許された。
山本さんは葛藤を抱えながも、こう語る。
「自分の中でまだはっきりした答えは出ていないが、COPの全てをグリーンウォッシュと切り捨てることはできない。長く気候変動交渉を追ってきた方々の話を聞くと、世界は少しずつながら前進しており、訴え続けてきた市民の声があったのだと気付かされた」
中村さんは、こう振り返る。
「『気候危機に立ち上がる若者』とメディアに一括りにされ、グレタさんの言動が全てを代弁するかのように報じられてしまうこともある。今回はグレタさんが来なかったからこそ、多様な声があることを伝えるドキュメンタリーにしたかった」
渡航費を含む制作費はクラウドファンディングで賄い、約1カ月で目標額650万円を上回る672万9000が集まった。ディレクターズカット版は6月24日の広島を皮切りに各地で上映会を行う予定で、詳細は随時下記サイトやSNSで告知される。
YouTube版はこちらから。