記事のポイント
- 英国政府は6月23日、新たな森林破壊規制を導入する方針を発表した
- 木材、牛、パーム油、ゴムなど森林破壊につながる一次産品の取引を規制する
- 英国の規制の適用対象企業は、売上高が2億円以上の中小企業にも及ぶ
英国政府は6月23日、新たに森林破壊規制を導入する方針を発表した。木材、牛、カカオ、コーヒー、パーム油、ゴム、大豆、チョコレート、家具など、森林破壊につながる一次産品の取引を規制する。英国の場合は売上高が2億円以上の中小企業も適用対象となる。森林破壊防止規制の導入が広がる中で、企業は自社が調達する原料のトレーサビリティを高め、デューデリジェンスを実施することが求められるようになる。(サステナブル経営アドバイザー・足立直樹)

英国政府は2026年6月23日、ロンドン気候ウィークに合わせて、新たな森林破壊規制を導入する方針を発表しました。
2021年に成立した英国環境法などに基づき、森林破壊につながるコモディティ(一次産品)の取引を規制する制度を、グレートブリテン(イングランド・スコットランド・ウェールズ)に導入するというものです。今後、企業や関係者との協議を経て、2027年の実装を目指すとのことです。 英国は、2021年に環境法を改定する段階ではEUよりむしろ先行していたのですが、その後EUDR(EU森林破壊防止規則)の方が実施に向けて具体的に動き出しました。それが今回いよいよ、英国でも具体的な施策が動き出すのです。
そもそも、世界の森林破壊の多くは農地への転換によって起きています。そして、そこで作られた農産物を最終的に消費しているのは、しばしば私たち先進国の市場です。だからこそ近年は、生産国だけでなく、原料を買い、使う消費国側の企業にも責任を求める規制が広がってきました。今回の英国の動きも、その大きな流れの中にあるのです。
■森林破壊規制は「大企業だけの問題」ではなくなる
対象となるのは、木材、牛、カカオ、コーヒー、パーム油、ゴム、大豆、そしてチョコレートや家具といった派生製品です。これらを扱う企業に対し、原料が生産国の法令に適合して作られたことを確認する義務、いわゆるデューデリジェンス(供給網の調査・確認)を求めます。あわせて、産地を特定する位置情報の収集なども求められる見込みです。
ここで注目すべきは、対象となる企業の範囲です。今回の案では、年間売上高100万ポンド(約2億15百万円)超の企業が対象とされました。 従来案では5,000万ポンド(約107億円)超に限られていたため、森林リスクのある原料を扱う企業の多くは対象外でした。100万ポンドへの大幅引き下げは、一部の巨大企業だけでなく、年商2億円規模の小規模な企業までを広く巻き込むことを意味します。今回の発表で実効性を最も高めたのは、この点だと言ってよいでしょう。
日本企業にとって、これは「合法か違法か」ということ以上に重い話です。英国に拠点を持つ販売子会社や、英国の小売・メーカーに製品を納める日本企業は、これまで「規模が小さいから関係ない」と考えていたとしても、新制度では規模にかかわらず確認を求められる立場になりえます。森林破壊規制を一部の大企業だけの問題とする時代は、もう終わりつつあります。
■英国案はEUDRより弱いのか
この分野で先行しているのが、EUのEUDRです。木材、牛、大豆、パーム油、カカオ、コーヒー、ゴムなどについて、EUで売られる、あるいはEUから輸出される製品が、近年森林破壊された土地に由来しないことを企業に証明させる制度で、大・中規模事業者への適用が2026年12月30日に始まります。
英国案は、EUDRと比べると一見ゆるく見えます。EUDRが合法・違法を問わず森林破壊由来の製品を排除する「森林破壊ゼロ」を掲げるのに対し、英国案は当面、現地の法令に違反した「違法森林破壊」に焦点を絞っているからです。
しかし、これを「英国が手を緩めた」と考えるのは早計です。英国はもともと2021年の環境法改正の段階から、違法な森林破壊への対処を出発点としていました。最初から段階的なアプローチだったのです。 しかも今回、英国はEUDRと足並みをそろえる姿勢を明確にしています。企業に求める情報や確認の手順をEUDRに近づけ、将来的には「森林破壊ゼロ」基準へ移行する意向も示しました。そのことは、今回の英国政府のリリースにも明示されています。当面の入口は「違法森林破壊」でも、最終目的地はEUと同じなのです。
ここで日本のクリーンウッド法も見ておきましょう。正式には「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」で、違法に伐採された木材の流通を抑え、合法的な木材の利用を促す制度です。2016年に成立、2017年に施行され、2023年の改正を経て、2025年4月からは川上・水際の事業者に合法性確認が義務づけられました。日本でも規制は着実に強まっています。
ただ、EUDRや英国案と比べると、日本の制度はまだ限定的です。対象は基本的に木材や木材製品(家具・紙などを含む)にとどまり、それ以外の農畜産物には及んでいません。森林破壊そのものを排除する制度でもありません。性格としては英国案に近い「合法性確認」型ですが、対象範囲ではさらに狭いのです。
■日本企業はEUDRを基準に備えるべき
ここから見えてくる、日本企業への示唆は明確です。国内法への対応だけを見ていればよい時代は、終わりつつあります。EUや英国を含む欧州市場では、森林破壊にかかわる原料について、より高度なトレーサビリティとデューデリジェンスが求められます。海外規制が先に厳しくなり、それがグローバル企業全体の調達基準を押し上げていく――そういう構図です。
ですから、英国規制がEUDRより弱く見えるからといって、対応を緩めるのは危険です。合理的なのは、最も厳しいEUDRを基準にサプライチェーン管理を整え、英国や日本などの規制はその上に重ねて管理していくことです。EUに対応すれば英国にも自動的に対応できる、とまで言い切れない点には注意が必要ですが、EUDRを土台に据えるという大きな方向は揺るぎません。
今回の英国の発表は制度設計の方針を示した段階であり、細部は今後の協議で固まります。とはいえ、向かう先はもう十分に見えています。森林破壊規制は、欧州だけの特殊な環境規制ではなく、グローバル市場で取引を続けるための基本的な「入場条件」になりつつあるのです。
日本企業に求められるのは、個別の規制に場当たり的に反応することではありません。木材だけでなく、パーム油や大豆、カカオ、コーヒー、ゴム、畜産関連の原料まで含めて、自社製品とこれらの原料との関係を洗い出し、どこで、誰が、どう作った原料なのかを把握することです。
その上で、問題がある原料へは適切な対処をしていく必要があります。私たち日本企業もまた、そうした原料を買い、使う消費国側の一員です。森林破壊への対応は、もはや単なるコンプライアンスではなく、サプライチェーンの信頼性と市場へのアクセスを守る経営課題になったと言っていいでしょう。ネイチャーポジティブへの第一歩として、この課題にしっかり取り組む企業が増えることに期待したいと思います。
※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)542(2026年6月30日発行)をオルタナ編集部にて一部編集したものです。過去の「サス経」はこちらから、執筆者の思いをまとめたnote「最初のひとしずく」はこちらからお読みいただけます。



