記事のポイント
- 映画『魂のきせき』は男性監督と性暴力サバイバーらが歩んだ9年の記録だ
- 監督は満州からの引き揚げ家族である両親から面前DVを受けて育つ
- 性暴力の背景には連鎖する戦争トラウマと家父長制が潜むと提起
ドキュメンタリー映画『魂のきせき』はベテラン男性監督と性暴力サバイバーらが歩んだ9年の記録だ。監督は満州からの引き揚げ家族である両親から面前DVを受けて育つ。撮影を続ける中で過去と対峙することを決意し、被写体として故郷の墓石の前に立った。当事者たちと向き合うと同時に自身の傷にも対峙した監督は、性暴力の背景には今なお連鎖する戦争トラウマと家父長制が潜むと提起する。(エシカルライター=宮野かがり)

「性暴力をテーマとしたドキュメンタリー映画」と聞いてどんなストーリーが思い浮かぶだろうか。涙ながらに語る性被害者たちの姿だろうか、あるいは刑罰の厳重化を求めるアクティビストたちの姿だろうか。
この世界から性被害は根絶されるべきだと多くの人々が願う一方、当事者やその周囲の人間以外は自身や社会との接点を見出しづらい一面もある。「男性である自分が目に見えない性被害をどうやって撮るか」。そう問い続け完成した『魂のきせき』は、性暴力サバイバーを映すことに留まらない。満州から引き揚げた両親が繰り広げる激しい夫婦げんかを見て育った小林茂監督自身の幼少期の体験も語られている。
虐待の被害者としての立場から提示される私的な体験は、「高齢男性かつベテランの映画監督」というラベリングを解放し、何者でもない一人の人間としての言葉となる。それが観る者の心理的・社会的な距離を引き寄せる。
マスコミ試写で本作を観た2026年7月末の蒸し暑い日、本作が編み上げる世界をどうしても言葉にすることができなかった。確かなことは、サバイバーたちや小林監督の魂の記録から、私たちの心に「小さな希望という灯」を手渡してくれる作品であるということだ。

公式サイト:https://aggie-films.jp/tnk/
参考:https://www.yidff.jp/interviews/2025/25i105.html



