モンゴル草原火災、生態系への影響をどう見るか: 専門家が解説

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記事のポイント


  1. モンゴル草原火災の生態系への被害は、面積だけでは判断できない
  2. 火災範囲と、植生や土壌が受けた損傷は分けて評価する必要がある
  3. 餌や隠れ場所を失った野生動物の越冬への影響も懸念される

2026年10月8日、KDDI子会社が関連する形でモンゴル東部のヌムルグ自然保護区で大規模な草原火災が生じた。この火災による生態系への影響をどう見るか。モンゴルの草原生態系や永久凍土、水資源の変動に関する研究を長年牽引してきた、国立研究開発法人・国立環境研究所の王勤学特命研究員に寄稿してもらった。(オルタナ編集部)

モンゴル草原火災
火災発生後のヌムルグ自然保護区の様子
(モンゴルメディア「エグーア・ニュース」が共有した市民による撮影動画より)

(寄稿)

モンゴル草原火災、生態系への影響をどう見るか――焼失面積の先にある、回復と変化

2026年10月8日にモンゴル東部で発生した大規模火災は、ヌムルグ厳正保護区の広い範囲に及び、同16日に鎮火した。政府の暫定集計では、火災が及んだ面積は全体で約5288平方キロメートル、うち保護区内は約4690平方キロメートルで、保護区総面積の約80%に相当する。出火原因や詳しい経緯は関係当局が調査している。

この規模は重大である。しかし、面積だけで生態系被害の程度は判断できない。火災が及んだ範囲と、植生や土壌が受けた損傷は分けて評価する必要がある。衛星で把握した焼失域も、その全域で同じ程度の損傷が生じたことを意味しない。

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■焼失したのは河川・湿地もある多様な生息環境

ヌムルグは典型的な乾燥草原だけではない。中国との国境に位置し、大興安嶺(だいこうあんれい:中国の内モンゴル自治区と黒竜江省の境界を南北に走る大山脈)につながる森林、草原、河川・湿地などが混在する。既往調査や文献を統合した2023年の研究では、哺乳類57種が記録されている。多様な生息環境がまとまって残されていることが、この地域の生物多様性を支えている。

火災はモンゴルの自然にとって新しい現象ではない。ただし、「草原はどこでも頻繁に燃えてきた」と理解するのは正確ではない。植物の量、放牧、気候、地形、着火の機会によって、火災の起こり方は異なる。東部草原では春と秋が危険期となりやすい。ドルノド県の研究では、夏の降水で草がよく育つと、枯れ草が蓄積し、秋から翌春の火災活動が大きくなる関係が示されている。乾燥だけでなく、それ以前の植物の生育にも目を向ける必要がある。

■緑が戻っても、土壌まで回復とは言えない

影響は草原と森林でも異なる。東部モンゴルの研究では、調査した火災地で、火災年には前年より草本の被覆が低下し、裸地が増えた。ただし、この短期変化だけで長期的な劣化は判断できない。一方、翌年に緑が戻っても、植物の種類や土壌の状態まで回復したとは限らない。森林では、生き残った成木や種子供給源を確認し、新たな実生が育つかを追う必要がある。

鎮火後の影響も重要だ。ドルノド県では、秋から翌春の火災活動と春の砂塵嵐の日数との関連が報告されている。植物被覆の喪失は、風による土壌の侵食・運搬を起こしやすくする可能性がある。ただし、砂塵嵐は風や降水、土壌水分にも左右され、今回の火災後に必ず増えるとはいえない。

■懸念される野生動物の「越冬」

野生動物では、直接的な死亡に加え、餌や隠れ場所の減少による越冬への影響が懸念される。その程度は、焼け残った場所や動物の移動状況によって異なる。河川・湿地への灰や土砂の流入も、現地で検証すべき課題である。

■被害の評価と回復支援に向けて

今後は、焼失域を草原、森林、河畔、湿地などに分け、火災前の状態や条件の似た未焼失地と比較する必要がある。越冬後、翌年の生育期、さらに複数年にわたる追跡が欠かせない。

どの生息環境が残り、生物が移動でき、土壌と水が保たれ、植生が再生するのか。その過程を確かめることが、被害評価と回復支援の基礎になる。同時に、保護区への立ち入りや車両利用、作業時の防火対策を検証し、再発防止につなげる必要がある。

王勤学氏

王 勤学(おう・きんがく/Wang Qinxue)氏
国立環境研究所 地域環境保全領域 特命研究員。博士(地球環境学・北海道大学)。専門は環境動態解析、地球人間圏科学、生態系モデル。長年にわたりモンゴルの草原生態系や永久凍土、水資源の変動に関する研究を牽引し、その功績からモンゴル環境・観光省名誉賞や同国教育科学省「科学功労者」勲章を受賞。また、環境省の砂漠化対処条約関連事業検討委員なども務め、国内外の環境政策や乾燥地研究に深く寄与している。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #生物多様性

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