記事のポイント
- 英医学誌の報告によると、2023年、暑さに関連して世界で71万人が死亡した
- そのうち、7割以上が気候変動に直接起因していたことが科学的に証明された
- 報告書は気候変動を「世界的な健康上の緊急事態」と警鐘を鳴らす
英医学誌ランセットは2026年10月28日、気候変動と健康に関する第10回年次報告書「ランセット・カウントダウン2026」を公開した。報告書によると、2023年に暑さに関連した死者数は世界で71万人に達し、そのうちの7割以上が、化石燃焼の燃焼がもたらす人為的な温暖化に直接起因して亡くなった。報告書は気候変動を「世界的な健康上の緊急事態」と警鐘を鳴らす。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

(画像は動画「The 2026 Global Report of the Lancet Countdown on Health and Climate Change」より)
■温暖化で毎日1300人が亡くなる時代に
2015年のパリ協定の採択から10年で、気候変動がもたらす健康被害は深刻化し、その拡大スピードも加速している。パリ協定が採択された2015年以前の10年間平均では、暑さ関連死亡者数は世界で約40万人だったが、2023年は年間71万人だった。この数は、マラリア(約59.7万人)、エイズウイルス(約63万人)による死亡者数を大きく上回った。
報告書は今回、新たに導入した解析手法で、これまで推計の域を出なかった健康被害の要因を特定できるようになった。その結果、71万人のうち7割以上に当たる約50万人が、人為的な温暖化に直接起因して亡くなったことを科学的に示した。日に世界で約1300人が温暖化で亡くなった計算だ。人類が温暖化を抑制できていれば亡くならずに済んだ命の数だ。

棒グラフのうち、緑色は人為的な気候変動に直接起因した死亡者数。
2023年は暑さ関連死者数71万人のうち、71.5%が人為的な温暖化に起因して死亡した。
パリ協定が発効して以降、気候変動に直接起因した死亡者数は累計300万人に上る。
(資料提供)Lancet
気候変動対策に取り組む医療従事者らの団体・みどりのドクターズの佐々木隆史代表理事は、オルタナの取材に対し、「今回、人為的な気候変動に起因する死亡の推計が追加された。日本でも熱中症で亡くなった人は2025年に2000人と言われるが、熱が影響して亡くなった暑熱関連死はその7倍との推計もある。暑熱関連死・暑熱関連疾患をいかに防ぐかが、医療機関の大きな役割の一つになってきている」とコメントした。
「健康と生存を守るためには、気候変動を新型コロナウイルス感染症と同様に、『世界的な健康上の緊急事態』として認識して対処しなければならない、との警告を報告書は出し続けてきた。気候変動の危険度が増していることは誰もが体感していると思うが、対応のペースは鈍く、被害も拡大し続けている。そこへの焦りが強まっていることを、報告書のメッセージから感じる」(佐々木代表理事)
「また『危険な状況にある』ことを強調するだけでは社会は変わらないので、コベネフィット(共通便益)も前面にしっかり出すよう、より多くの医療従事者らにメッセージを届けようとしている印象も受けた」(同)
■脱炭素化と大気汚染規制の強化が救った命は32万人
コベネフィットに関して、報告書は研究チームが個別に評価した77カ国(全体の半数以上)の内容をまとめた。
それによると、太陽光・風力などの再エネ投資・発電が進むなど脱炭素化が進み、大気汚染に関する規制も強化されたことで、化石燃料の燃焼に伴って発生していた大気汚染が改善し目に見える形で人命が救われているという。報告書は2016年に比べて、回避可能な32.3万人の死亡を防ぐことができたとし、特に中国でその成果が顕著だったとまとめた。
■暑さによる経済損失は25年に世界で約268兆円
報告書は、暑さの中での屋外労働や身体作業に伴い労働生産性が低下し、2025年に世界全体の経済損失が1.7兆ドル(約268兆円)に達したとまとめた。この規模は世界のGDPの0.9%に相当する。経済損失の38%は、農業セクターに集中している。また影響は途上国の方がより大きく、東南アジアではGDPの3.9%相当が減失した。
■化石燃料への補助金は廃止を
報告書はまた、パリ協定以降、世界で累計6.2兆ドル(約977兆円)を超える補助金が、温暖化を引き起こす化石燃料関連事業に充てられたと指摘する。世界の8割の国が依然として化石燃料関連に補助金を出しているが、なかでも、化石燃料への補助金額が国の保健・医療予算を上回っている国が10カ国あるという。日本もその一国だ。
再エネへの移行を進めることは、環境の側面だけでなく、人々の健康への便益も大きい。報告書は、人々の健康を守る視点からも、各国政府に対して化石燃料への補助金をやめるよう求めた。
■国別データ(日本)からわかること
英医学誌があわせて公開した国別データシートによると、2025年に日本で見られた熱波の71.7%が、直接、気候変動に起因するものだった。2016年から2025年までの10年間において、国内で屋外での適度な身体運動(早歩きなど)を行う際、暑さによる熱ストレスのリスクが中程度以上となる状況は年間720時間超に上り、1990年代に比べて180時間以上増えた。
また夜間気温が高いことから睡眠時間にも影響が出ている。2021年から2025年までの5年平均で、日本では年間推計38時間の睡眠時間が奪われた。1986年から2005年までの20年間平均に比べると、奪われた睡眠時間は3時間増えた。
■暑さによる日本の経済損失は約7.3兆円
■デング熱が伝播しやすい環境条件、日本でも
■病院の国際評価、「環境視点」の基準が加わる

