「入管法の問題点」公表に、難民支援団体が抗議

出入国在留管理庁(入管庁)は12月21日、外国人の「送還忌避」などに関する「現行入管法上の問題点」を公表した。これを受け、認定NPO法人難民支援協会(東京・千代田)は12月22日、「難民申請者を含む外国人に対する差別や偏見を助長する内容だ」として抗議文を発表した。同協会は、日本で生活している難民への法的・生活支援活動などを行うNPOだ。全文は次の通り。

2021年12月21日、出入国在留管理庁(入管庁)より「現行入管法上の問題点」と題する資料(以下「本資料」とする)が公表されました。2021年の通常国会で成立が見送られた「出⼊国管理及び難⺠認定法及び⽇本国との平和条約に基づき⽇本の国籍を離脱した者等の出⼊国管理に関する特例法の⼀部を改正する法律案」(以下「入管法改正案」とする)の再提出が報じられる中、法改正の必要性を訴える入管庁の意向が背景にあると考えられます。

本資料は、犯罪歴がある方による難民申請や、難民申請の誤用・濫用の可能性を強調するなど、情報が恣意的に引用されており、難民申請者を含む外国人に対する差別や偏見を助長しうる内容となっています。当会は、日本国内で難民支援を行う立場より、以下の通り強く抗議します。

1.難民申請者を含む外国人への差別や偏見の助長につながる恣意的な表現

難民や難民申請者を送還することは、国際法上の原則により禁止されています。本資料では、難民申請者の一部を「送還忌避者」と形容していますが、難民申請者として当然の権利の行使を「忌避」と表現することは、難民申請者に対する偏見や誤解を助長するものであり、不適切です。

実際に、2008年から2020年に難民と認定された390人のうち、72人(約19%)には退去強制令書が発付され、人道配慮による在留許可を得た者については、2,187人中695人(約32%)に退去強制令書が発付されていました。

難民にとって、迫害などのおそれがある地への送還を拒むことは当然であり、庇護を求める者に対して退去強制令書が発付されてしまう現行制度こそが、「法の不備」として見直されるべきです。

また、難民申請の誤用・濫用の可能性がある事案が強調されていますが、そもそも難民の定義が不当に狭く解釈されている日本において、誤用・濫用が多いとの入管庁の主張は説得力に欠けます。

さらに、本資料では、難民申請者の一部に犯罪歴があることが強調されていますが、保護を求めて逃れた者に対する偏見を助長するものとして強く懸念します。

難民の定義において犯罪歴が問題になるとすれば、避難した先の国の外で重大な犯罪(政治犯罪を除く)を行った人などを保護の対象外とする、難民条約の除外条項についてのみであり、犯罪歴と関連付けることは、入管庁による印象操作と言わざるを得ません。また、犯罪歴の強調や「前科者」といった表現を政府が用いることは、犯罪をした人の立ち直りを支える政府方針にも反するものであると考えます。

2.不適切な難民認定基準を前提に難民申請の誤用・濫用を強調

日本の難民認定制度には多くの課題があり、難民申請者の増加に関わらず、難民として認定されるべき人が認定されてきませんでした。送還忌避者を含む難民申請者の増加が難民認定業務に支障をきたしているとの分析は不適切であり、現行制度に対する国内外からの指摘の本質をとらえないものです。

このような課題の1つとして、不適切な難民認定基準が挙げられます。本資料では、入管庁が「難民条約上の理由に直ちに該当するとは思われない」とする申請理由が複数挙げられていますが、そのうちの1つである「本国の治安に対する不安」は、諸外国では、紛争等による無差別暴力を理由に国際保護の対象と認められうる申請理由です。

また、「知人、近隣住民、マフィア等とのトラブル」や「親族間のトラブル」については、例えば、性的マイノリティであることを理由に親族や近隣住民から迫害を受けるおそれがあるケースが考えられ、「トラブル」の内容や理由に関する慎重な判断が求められる事案類型です。

さらに、「本邦での稼働希望」については、日本での稼働を希望しているからといって、本国に帰れない事情をもたないわけではありません。稼働希望の背景にある本人の事情を十分に汲み取った判断が必要です。

このような現行制度の課題に目を向けることなく、一辺倒に難民申請者の送還を促進する政府方針を強く懸念します。難民保護を目的とする法律の作成など、「国内における包括的な庇護制度の確立」の実現に向けた改善がまずは行われるべきです。

3.難民の送還ではなく保護を:複数回申請で認定等された事例を示さず、犯罪歴を強調

本資料では「過去3回目以降の申請で難民と認められた事例は無し」とされていますが、3回目の申請中に裁判により難民と認められた事例や、3回目以上の申請によって人道配慮による在留許可が認められた事例が確認されています。また、送還停止効の例外に関する諸外国法制の比較では、初回申請における難民認定状況の違いに言及しておらず、情報を恣意的に用いていると言わざるを得ません。

2021年に政府が提出した入管法改正案では、3回以上にわたり難⺠申請を⾏っている者などを対象に、難民申請中の送還を停止する規定(送還停止効)の例外が設けられていました。しかし、上述の通り難民として保護するべき人を保護することができていない現行制度において、このような規定を設けることは、迫害を受けるおそれがある出⾝国に難⺠が送還される可能性を⾼めるものとして許されません。

さらに、初回申請者のうち一定の犯罪歴がある者等を送還停止効の例外とする入管法改正案の規定に対して、UNHCRは「自動的な送還停止効に対する何らかの例外の導入を決定するのであれば、それはきわめて限定された事案に限られなければならず、初回の申請者が含まれてはならず、かつ適正な措置を整備する必要がある」との見解を示しています。

「決定的要因は、難民が行った犯罪の重大性または罪種ではなく、犯罪および有罪判決に照らして当該難民が社会にとって今後危険な存在となるか否か」であり、一定の犯罪歴がある者に対する国際保護の必要性を一律に否定するかのような本資料の論旨は、難民条約の理念を踏まえないものであり、不適切です。

4.おわりに:日本で暮らす全ての人が共に生きる社会を目指して

共生社会とは、出入国や難民保護に関する国際的に合意されたルールと照らし合わせて妥当な法制度のもとに実現されるべきものです。

しかし、現行の難民認定制度では、国際基準に基づかない審査により、難民として保護されるべき人が、難民申請を繰り返さざるを得ない状況が発生しています。収容については、国連の専門機関より、国際的な義務との整合性を確保するための法改正が要請されています。

さらに、本資料では「適正な法的地位」の保持が共生社会の前提とされていますが、非正規の手段による庇護希望者の入国や滞在は難民条約において予定されているものです。そして、国際人権法によって認められた権利は、法的地位の有無に関わらず、誰にでも保障されなければなりません。

本資料には、在留資格を持たない特定の外国人に対する政府の偏見や差別的な意識が明確に表れています。そのような意識に基づいて策定される入管法改正案には、重大な懸念を抱かざるを得ません。

当会は、日本で暮らす全ての人が、尊厳と安心が守られ、ともに生きることができる社会に向けた法制度の確立を求めます。

認定NPO法人難民支援協会

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #ビジネスと人権

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