手術室から出る医療ゴミを追ってみた: 医療・介護はGHG全体の約5%

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記事のポイント


  1. 医療現場で出るごみは、感染性か非感染性かでも処理が異なり、全容把握は難しい
  2. 手術室のごみを分類・記録したところ、半数超はリサイクルの可能性があるものだった
  3. 医療分野はサステナ黎明期だからこそ、今後、SCM全体で変革できる余地がある

人の健康と同時に地球環境の健全性も追求する一般社団法人みどりのドクターズによる連載では、前回、手術室から大量にごみが出ることを紹介した。今号では、実際に手術室から出る医療ごみを分類・記録した、みどりのドクターズのメンバーで看護師兼保健師の寺田絢咲(あやさ)氏に寄稿してもらった。(オルタナ編集部)

手術室から出たごみは、手袋が多い(撮影:寺田絢咲)

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連載:「プラネタリーヘルス」への挑戦(7)
医療現場から出たごみを分類・記録してみた

■医療ごみの全体像の把握は難しい

病院では、毎日たくさんのものが捨てられています。

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患者さんや医療従事者の安全を守るために使われた手袋や注射器、輸液バッグなどの医療資材も、その役割を終えれば「ごみ」になります。

医療現場から出るごみは、すべてが同じように処理されるわけではありません。血液や体液の付着などによって感染のおそれがあるものは「感染性廃棄物」、感染のおそれがないものは「非感染性廃棄物」として扱われます。さらに、素材や性状などによって、産業廃棄物と一般廃棄物に分けられます。

では、こうした医療現場のごみは、全国でどのくらい排出されているのでしょうか。

環境省の公表資料によると、2023年度に全国で排出された感染性産業廃棄物は、年間約57万2000トンに上ります。ただし、これは医療現場から出るごみの総量ではなく、病院や診療所のほか、衛生検査所や医学・薬学などに関係する研究機関等からの排出分も含まれています。

また、血液などが付着した紙やガーゼ類の一部は「感染性一般廃棄物」に分類されるため、「感染性産業廃棄物」の統計には含まれません。

日本の廃棄物統計は、廃棄物処理法上の区分や業種別に集計されています。

医療・福祉業から排出される産業廃棄物の推計値はありますが、この統計からは、一般廃棄物を含めた医療現場由来のごみの全体量や、製品・素材ごとの内訳までは確認できません。さらに、感染性廃棄物は密閉した容器で処理されるため、廃棄後に中身を詳しく調べることも困難です。

感染性廃棄物の保管の様子(撮影:寺田絢咲)

■手術室のごみ406点を分類・記録した

そこで私は、医療現場で実際に何が捨てられているのかを明らかにするため、医学部生の粟岡里菜氏と共に、手術室のごみを一つずつ分類し、記録する調査を行いました。

婦人科手術で発生した廃棄物を、鋭利な物を除いて保管してもらい、一点ずつ素材や汚染状況を確認しながら分類しました。

調査で確認した廃棄物は合計406点で、そのうち最も多かったのは手袋の80点でした。

さらに分類すると、プラスチック、紙、鉄、アルミニウムなど、体液や薬液による汚染がなく、リサイクルできる可能性があると考えられたものは226点ありました。これは、全体の半数を超える数です。

このように、一点ずつ分類することで、ひとまとめに「医療ごみ」と呼ばれているものの中にも、分別や処理方法を見直せば、焼却以外の処理が可能なものが多く含まれていることが分かりました。

調査で確認した廃棄物の半数以上は、リサイクルできる可能性も(撮影:寺田絢咲)

■感染性廃棄物の多くは容器ごと燃やされる

しかし、現在、感染性廃棄物の多くは容器ごと焼却されています。

そのため、中にリサイクルできる可能性のあるプラスチックや金属が含まれていても、処理施設に届いてから一つひとつ取り出し、再分別することはできません。

感染性廃棄物が燃やされたあと(撮影:寺田絢咲)

医療ごみが焼却されるのか、埋め立てられるのか、資源として生かされるのかは、病院内での分別に加え、その後の回収や処理の仕組みによっても大きく左右されます。

■ごみの捨て方は、処理に携わる人の安全にもかかわる

廃棄物処理法では、事業活動によって生じた廃棄物について、排出した事業者が責任を持って適正に処理することが定められています。これを「排出事業者責任」といいます。

廃棄物の処理を業者に委託した場合でも、排出事業者の責任がなくなるわけではありません。

産業廃棄物が最終処分されるまで適正に処理されるよう、必要な措置を講じることが求められています。

つまり、医療ごみが病院の外へ運び出されても、医療機関の責任が終わるわけではないのです。

ごみの捨て方は、処理に携わる人の安全にも影響します。

感染性廃棄物を詰め込みすぎると、容器を十分に密閉できず、運搬中に血液などが漏れることがあります。また、焼却後の燃え殻に残った注射針によって、処理に携わる人がけがをすることもあります。

医療現場でごみを捨てる行為は、日々の業務の中のほんの一瞬です。

しかし、その先には、ごみを回収する人、運ぶ人、処理する人がいます。

病院内の医療安全だけでなく、病院の外へ運び出された後の安全まで含めて考える必要があります。

■「白は清潔」のイメージが再生材の使用促進を阻む

こうした安全を確保しながら、廃棄物容器そのものの環境負荷を減らす製品もあります。 一般的な白い感染性廃棄物容器には、石油由来のバージン材が使われています。

通常の感染性廃棄物容器「ミッペール」(撮影:寺田絢咲)

一方、とある廃プラスチックを再利用した黒色の容器は、再生材を使用することで、製造時の二酸化炭素排出量を一般的な製品の約3分の1に抑えられるとされています。

しかし、こうした容器は十分に普及していません。

再生材は、さまざまな色のプラスチックが混ざるため黒色に仕上げられますが、「白は清潔」というイメージが根強い医療現場では、黒色が敬遠される傾向にあります。

ピンク色などに着色した製品もあり、婦人科系の医療施設でも取り入れやすいようにデザイン面での工夫もされています。しかし、着色によって価格が上がると、従来の白い製品が選ばれやすくなります。

再生材を使用した感染性廃棄物容器の一例
左はパートナーズコーポレーション社(東京・中央)の「REPAIL ECO(リペール・エコ)」、右はハイピュアトレーディング社(福岡)の「CLEAN PAIL(クリーンペール)」
(撮影:寺田絢咲)

環境負荷を減らせる製品があっても、色や価格、これまでの慣習が普及の壁になるのです。

医療現場では、安全性や使いやすさ、コストを慎重に検討することが欠かせません。

その一方で、長く使われてきたという理由や、清潔に見えるという印象が、製品選択に影響している場合もあります。

新しい技術や環境配慮型の製品をつくるだけでは、医療廃棄物の問題は解決しません。

製品の設計や調達、使用、分別、回収、処理に関わる人や組織が、ごみの流れ全体を理解し、それぞれの立場から選択や仕組みを見直していく必要があります。

■医療資材を扱う看護職の役割に期待

その中でも、私は、変化を医療現場に根付かせるうえで、看護職の役割は大きいと考えています。

看護職は、患者さんのそばで多くの医療資材を扱います。手袋を着け、包装を開け、点滴を準備し、処置を行い、使い終えたものをルールに従って捨てます。日々の業務を通じてごみの発生に関わると同時に、そのごみを分別し、管理する立場でもあります。

だからこそ、何がどれだけ捨てられているのか、そのごみがどこへ運ばれ、どのように処理されるのかを知り、日々の分別や製品の選択、仕組みの見直しといった行動につなげていくことが重要です。

■医療廃棄物の問題解決は、サプライチェーンでの連携が不可欠

一方で、医療廃棄物の問題を、医療従事者一人ひとりの意識や努力だけに委ねることには限界があります。海外では、医療機関、製品メーカー、回収・リサイクル事業者などが連携し、製品の設計から使用後の分別、回収、再利用までを一つの流れとして捉える取り組みも進められています。

日本でも、医療機関だけでなく、製品をつくる企業、調達を担う部門、廃棄物を回収・処理する事業者などが連携し、現場で無理なく続けられる仕組みをつくることが必要です。

日本における医療分野のサステナビリティは、まだ黎明期にあります。だからこそ、変えられる余地も多く残されています。

私自身もこれから、医療機関や企業、廃棄物処理に携わる方々など、さまざまな立場の人と連携しながら、医療廃棄物の実態を明らかにし、得られた知見を現場で実行できる仕組みにつなげていきたいと考えています。

※本記事には、公表資料に加え、医療機関・廃棄物処理事業者・製品事業者への取材や、筆者が行った調査をもとにした記述が含まれています。

参考)連載記事:「プラネタリーヘルス」への挑戦(6)

寺田絢咲(てらだ・あやさ)
看護師、保健師。SPRING MEDICAL EXCHANGE(SME)代表。

2002年、石川県金沢市生まれ。石川県立看護大学を卒業後、病棟看護師として勤務。

現在は、予防医療サービスを提供する民間企業で保健師として働く傍ら、学生時代からのライフワークとしてSMEの活動に取り組む。大学での演習や病院実習で、大量に廃棄される医療資材を目の当たりにし、命と健康を守る医療が、環境負荷を通じて新たな健康被害を生み出す一因となっていることに矛盾を感じ、2024年5月にSMEを立ち上げた。医療廃棄物やサーキュラーエコノミーに関連する記事をnoteで発信するほか、医療現場・企業・研究をつなぎ、持続可能な医療と看護を実現させる社会実装に力を入れている。学生時代からのモットーは「看護×〇〇で新しいチャレンジを!」

みどりのドクターズ

みどりのドクターズ

気候変動をはじめとする環境問題を考慮した健康・医療のあり方を考える医療者を中心に、2022年5月に任意団体として結成。2023年8月に一般社団法人みどりのドクターズを設立し、医療従事者が主体的に気候変動対策を推進する日本最初の団体となる。2026年1月時点で130名を超える医師、薬剤師、看護師(保健師)、医療系学生およびヘルスケアに関わる職種が集う。グループ内外での勉強会や情報発信に加えて、ヘルスケア領域からの気候変動対策を推進するために活動する。

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