記事のポイント
- タイのスタートアップが、AIを活用し微生物肥料の研究開発を加速している
- 化学肥料を半減させながら、トウモロコシの収量を平均約3割増やす結果も
- インドやインドネシアなどへも展開し、小規模農家の所得向上と土壌再生を図る
タイの山岳地帯で微生物由来の肥料を開発する再生農業スタートアップのリビング・ルーツが、海外へ事業を拡大している。AIエンジニアから転身した創業者は、膨大な土壌データをAIで分析して有機肥料を開発する。化学肥料の価格が上昇する中、農家に肥料の切り替えを促し収量拡大と所得向上を支援している。(オルタナ副編集長・京正裕之)

タイ北部の山岳地帯チェンマイ県を拠点とするリビング・ルーツは、米ニューヨークの大学でAIを学びエンジニアとして働いていたバンコク出身のアビ・アガルワル氏が2020年に立ち上げた。
自らが20代で慢性的な健康問題を抱え、食と健康について掘り下げるうちに農業に行き着いた。「エンジニアと農業は複雑な『エコシステム』を理解する点で似ている」
約8ヘクタールある試験農場では、常時15種類ほどの作物を栽培し、微生物由来の肥料の効果を試している。
同社は昨年までに100種類以上の在来微生物を収集し、3種類の肥料を開発してきた。
ここ1年では、自ら開発した複数のAIの導入で、開発速度が飛躍的に上がった。
一つ目のAIは200万件以上の科学論文やたんぱく質構造モデル、自社農場で収集した120万件のデータを基に、酵素や栄養素、収量とのつながりを解析する。別のAIでは、作物の生育段階に合わせてどの肥料を投入するかを設計することができる。
トウモロコシ栽培では、通常量の化学肥料を使う区画と、化学肥料を半減し有機肥料を使う区画を比較した。計12ヘクタールの実験で、平均収量は約3割増えた。土壌が悪い農地ほど改善幅が大きく、農家の投資対効果は1ドル当たり12ドルに上った。
■インドなどへ海外展開も
こうした成果を背景に、リビング・ルーツの農業資材を使う農家は約1千軒と1年前から倍増した。
タイに加え、インドやインドネシア、ナイジェリアでも販売している。インドでは、現地での原料調達体制を整え、本格的に生産を始める。インドネシアでは現地酪農企業と飼料用のトウモロコシ栽培に取り組んでいる。
解決を目指すのは、小規模農家が化学肥料に費用をかけても、いずれ農地が悪化して収量の向上につながらないという問題だ。
アガルワル氏は「熱帯地域のアジア諸国では、潜在的な収量の40~60%しか収穫できていない」と指摘する。タイでは既に世界平均の2倍程度の化学肥料が使われているという。
一方、世界の化学肥料の価格は中東情勢の悪化を受けて再び上昇している。「農家は土壌や作物の状態を測り、必要な有機肥料を使うことで、コストを抑えて収量を高める必要性がある」と説く。
大気汚染や温室効果ガスの排出源となる野焼きの抑制も課題だ。稲わらやトウモロコシの茎などを分解し土壌の再生を図る製品で、野焼きを減らしたい考えだ。
アガルワル氏は「今後10年で再生農業を熱帯アジアの小規模農家の標準にしたい」と語った。



