【連載】「森を守れ」が森を殺す
私は以前から、スギやヒノキなど針葉樹ばかりの林業では行き詰まる、広葉樹にも注目すべきだと主張してきた。
ここ数年、急に広葉樹林業が持て囃(はや)され始めた。いくつもの自治体が「広葉樹林業によるまちづくり」や「広葉樹材の増産」を唱えるようになり、国の研究機関でも広葉樹林の施業や広葉樹材の利用をテーマにする動きが目立つ。(田中淳夫=森林ジャーナリスト)
私の意見が取り入れられたのか。残念ながらそうではなさそうだ。そもそも私が広葉樹に目を向けろと主張した理由は、まず針葉樹材に多い建築材需要が縮小しており、価格も世界的に下落傾向であること。
針葉樹の単相の森は環境面で脆弱であること。一方で広葉樹材は、家具や内装材、デッキなどエクステリアに人気で需要が伸びているうえに価格も高い。ざっと針葉樹材の4倍、ときに10倍以上することもある。
しかも現在はほとんどを海外に頼っているが、資源枯渇が心配されて輸入しづらくなってきた。ところが日本では里山林や天然林に未利用の広葉樹が多くある。また様々な樹種が混交している森は、人工林より生物多様性が高く災害にも強い。もし広葉樹林業を成り立たせれば、伐採量は少なくても山元の収入は増え、環境も防災もよくなる─と見立てたからだ。