■小林光のエコめがね(12)

COP26が丸1日の延長の上で閉会した。会議の合意事項を取りまとめて「グラスゴー合意」(COP決定)が採択された。熱心な欧米と比べてコミットメントが弱い中露印などとの間の世界の分断を取り上げ、あるいは、その象徴として石炭火力発電所からの撤退に向けた姿勢の各国の違いを批判する報道が多かった。けれども、私は、議長国英国は、現時点での世界の合意を精いっぱい前向きにまとめることができたと思い、高く評価している。

私が評価することは2つである。

一つは、途上国の主張にも留意して、国境を超える削減クレジット取引のルールを合意できたことである。環境保全の十全性だけを追い求めていて、途上国のやる気を削ぐのは、いわば、途上国は環境が守れなければ発展しなくてよい、とでもいう、先進国エリートの傲慢だ。これでは、悪く言えば、先進国の産業上の既得権を擁護する人々の手先きに等しい。途上国にもビジネスのチャンスを与えよう。

第二に評価することは、「1.5度目標」への自主的な賛同を増やしたのみならず、その実現に向けた対策上の裏打に関する国際合意を数多く紡ぎ出したことである。京都議定書の交渉時にも「ダブル・バインディング・アプローチ」という発想がフロートされた。

これは、目標も、その実現のための国際共通対策も、共に法的拘束力のあるものとして約束に盛り込もうとするものである。結局、京都の場合は、目標は強制的に担保されるのだから対策は自由でよいではないか、という議論が勝った。

けれども、パリ協定は、肝心な目標が各国の自主性に委ねられているのである。であれば、対策に関する国際合意を強めよう、となることは自然の流れである。ヨハネスブルグでの地球サミットでも、そうした対策の自主的コミットメントを束ねる試みが行われたが、良い方向と思う。日本もデファクトを狙ってどしどしと国際ルールの底上げをして競争力を確保すべきだろう。

いよいよパリ協定の実行が始まった。環境を良くしつつ経済的な利益も確保する知恵の出し時である。いわば、世界大の環境経済政策競争の開始である。そこに焦点を合わせ、私の参加する日本経済研究センターでは、11月下旬、『カーボンニュートラルの経済学 2050年への戦略と予測』(日本経済新聞出版)を上梓する。

『カーボンニュートラルの経済学 2050年への戦略と予測』(日本経済新聞出版)

日本の現実に合った炭素税や排出量取引とのポリーシーミックスなどの政策提案をしているだけでなく、脱炭素の投入産出関係を詳細に推定し、デジタル・トラスフォーメーション(DX)を脱炭素が加速化し、マクロ経済の生産性を高める過程をシミュレーションしている。

私としては、経営者が個社の利害に拘泥するのではなく、こうしたマクロの大局観を共有してその中に自社の利益を位置付けることこそが経済全体のエコシステムの変化を支えるのだと思う。他国には負けたくない。是非多くの方々に、お目通しを賜りたい。