ペレット対日輸出急増のインドネシア、熱帯林1000万ha危機に

記事のポイント


  1. インドネシアからのバイオマス発電用ペレットの輸入量が急増している
  2. 需要拡大にともない、1000万ヘクタールの熱帯林が伐採の危機に
  3. 経済的・技術的な支援を通してペレット利用を後押しする日本の責任は重い

発電用木質バイオマスの供給国として、存在感を増しているのがインドネシアだ。同国の木質ペレットの対日輸出量は、4年間で8倍以上に増えた。さらに、インドネシア政府は自国内の石炭火力のバイオマス混焼を進めようとしている。現地NGOはこれらの需要増によって、約1000万ヘクタールの熱帯林が伐採の危機にあると警鐘を鳴らす。日本は経済協力や技術支援を通してペレットの利用拡大を後押ししており、環境破壊に関与する責任は重い。(オルタナ副編集長・長濱慎)

輸出用ペレットの一大産地となったスラウェシ島ゴロンタロ州。すでに1000ヘクタール以上が伐採された(写真:Auriga Nusantara)

日韓2ヵ国で需要の99%

木質バイオマス発電は、木質ペレット(木材を砕き、圧力をかけて円筒形にした燃料)を燃やしてタービンで発電する。日本政府はFIT(固定価格買取制度)に対応する再生可能エネルギー発電に位置付ける。

ペレットは大部分が海外産で、FIT制度が始まった2012年の輸入量は7万2000トンだったが、24年は約90倍の638万トンに増えた。輸入先はベトナム、カナダ、米国で9割以上を占めるが、近年になって存在感を増しているのがインドネシアだ。

2024年の輸入先内訳を見るとインドネシアは5%程度(31万5000トン)に過ぎないが、輸入量は21年からの4年間で8倍以上に増えた。

インドネシア側から見ると、輸出先は韓国(61%)と日本(38%)の2カ国で99%を占める。韓国政府は2024年12月、輸入バイオマス発電への補助金を停止・削減する方針を打ち出した。その先行きはまだ不透明だが、今後は日本への輸出量が増える可能性も大きい。

しかし、輸入ペレットはトレーサビリティなどの持続可能性を担保する仕組みが十分に確立されておらず、生産のために森林破壊を引き起こす。すでにカナダでは原生林伐採による生態系破壊や森林火災が顕在化しているが、同じ問題がインドネシアでも起きている。

ゴロンタロ州で2025年3月に操業を開始した輸出用ペレット工場。大部分が日本と韓国向け(写真:Auriga Nusantara)

参考記事:カナダの事例)
「マザーツリー」森林学者、輸入木質バイオ発電の中止訴え

トレーサビリティはほぼ確保されず

5月末にはインドネシアの熱帯林伐採の実態を伝えるため、現地の環境NGO「Auriga Nusantara(アウリガ・ヌサンタラ)」代表のティマー・マヌルン氏が来日した。

「インドネシアでは過去20年間に20%以上の熱帯林が失われた。原因はパーム油農園の開発や火災など複数あるが、2021年以降はペレット用の伐採が増えている。これによって生物多様性が脅かされ、オランウータンをはじめ絶滅危惧種の数も世界最多の1300以上になった」とティマー氏は指摘し、こう続ける。

「日本政府には森林破壊由来のペレットへの助成と輸入をやめるよう、購入する事業者にはサプライチェーンを監視する透明性あるシステムを構築するよう求めたい」

森林破壊由来のペレットがどの発電所でどのぐらい使われているのか、詳細に示すデータはない。国際環境NGO「FoE Japan」が2024年に全国146のFIT認定発電所に行った調査では「伐採された森林までトレーサビリティを確認できる」は2件、「生産地情報を自社サイトで公開している」と回答したのも2件にとどまった。

「自分たちが森林破壊由来のペレットを使っていることさえ知らない事業者も多いのではないか。日本の企業や金融機関には、対話を通して実態を伝えていきたい」とティマー氏は話す。

都内で講演するティマー・マヌルン氏。約20年にわたってインドネシア政府へのアドボカシー活動を行っている

■「脱炭素」にバイオマス混焼を推進

日韓への輸出に加えて、インドネシア国内のペレット需要増加も見込まれる。2060年までのネット・ゼロを掲げるインドネシア政府は、脱炭素政策の一環として電源構成の約6割を占める石炭火力のバイオマス混焼を進める方針だ。

ティマー氏が2024年10月に複数の環境NGOと共同で発表したレポート「インドネシアと東南アジアの熱帯林を脅かす森林バイオマス」は、必要な量を満たすために1000万ヘクタール以上の熱帯林が伐採の危機にあると試算した。

1000万ヘクタールは北海道の約1.2倍に相当する。その中には、400万ヘクタール以上におよぶ127の生物多様性重要地域(KBA)が含まれる。

そして、インドネシアのバイオマス混焼推進に、経済協力や技術支援を通して関与しているのが日本だ。

4年間で急速に進む熱帯林伐採の事例(「インドネシアと東南アジアの熱帯林を脅かす森林バイオマス」)

(この続きは)
AZECの覚書はバイオマス関連が最多
■アジアの石炭火力延命に加担する日本

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S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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キーワード: #脱炭素

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