記事のポイント
- 気候変動でメンタルヘルスを損なうと適応能力も低下する可能性がある
- 若者の間に広がる気候不安の原因は弱さではなくガバナンスの問題だ
- 自治体や企業もメンタルヘルスを考慮した気候変動対策を取るべきだ
今夏も記録的な猛暑となる中、気候変動のメンタルヘルスへの影響に注目が集まっている。東京大学大学院工学系研究科の龍吟(ロン・イン)准教授らの研究チームは、自治体や企業が取り組む気候変動の適応策にメンタルヘルスを組み入れるべきだと提言する。龍准教授は、若者の間で顕在化する「気候不安」についても「精神的に弱いからと捉えるべきではない。政府や社会が十分に対応していないガバナンスの問題だ」と指摘する。(オルタナ副編集長=京正裕之)

龍吟(ロン・イン)
東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻准教授
東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻博士課程修了。2019年東京理科大学理工学部助教、20年東京大学未来ビジョンセンター特任助教、21年同大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻助教、22年から現職。環境学、気候変動経済学などが専門
――気候変動とメンタルヘルスの関係に着目したのはなぜでしょうか。
これまで地理空間情報システムやインフラ、災害対策といった気候変動の物理的・経済的な影響を中心に研究してきました。最近は暑熱にさらされる農業従事者のリスクを定量化する研究の中で、精神的な負担の重要性も考えるようになりました。
例えば、猛暑時に警報や避難情報が出たときにその意味を正しく理解できるか、気候変動の影響でライフスタイルを変えることができるか、という点では認知や心理状態とかかわります。つまり気候変動の適応策にはメンタルヘルスの視点を無視できないわけです。
――7月に発表した提言では、メンタルヘルスが気候変動への適応において「結果」と「決定要因」という二重の役割を担うと指摘しています。どういう意味でしょうか。
一つ目は、気候変動によってメンタルヘルスが損なわれるという「結果」としての側面です。例えば、極端な暑さや災害、環境の変化などが、不安や心理的な苦痛につながります。
二つ目が、メンタルヘルスの状態そのものが、気候変動に適応できるかどうかを左右する「決定要因」になるという側面です。心理的な負担が大きくなると、リスクを正しく認識して情報を処理したり、適切に判断して行動したりする力が弱まる可能性があります。
つまり、メンタルヘルスは気候変動の影響を受ける「結果」であると同時に、その後に人々が適応行動を取れるかどうかを左右する「要因」でもあるということです。
また所得や雇用、健康格差などの不平等が重なると、気候リスクへの脆弱性はさらに増幅します。例えば高齢者が電気代を節約しようとしてエアコンを使わなかったり、昔の気候感覚のまま「少し我慢すれば大丈夫」と考えたりすることもあります。こうした状況で、気候変動への適応策を個人だけに求めるのは不十分で、社会全体の仕組みとして考える必要があります。

■若者の「気候不安」をどう考えるか
■クーリングシェルターをメンタルヘルス視点で評価
■企業は従業員が実際に使える適応策を

