記事のポイント
1.ツムラCOOにパーパスの社内浸透やサステナ経営について聞いた
2.生薬の調達先は中国が9割、気候・生物多様性リスクへの備えを急ぐ
3.AIを活用し漢方薬の効果の科学的根拠を積み上げる
ツムラは、医療用漢方製剤の価値向上に向け、伝統医学と先端技術の融合を進める。杉井圭COOは「漢方薬とAIの親和性は高い」とし、現在ある漢方薬129処方の科学的根拠の充実を図る考えだ。気候リスクを踏まえた生薬の安定供給や供給網の高度化にも取り組む。(聞き手=オルタナ副編集長・京正裕之)

(写真)宮下真季
■杉井圭(すぎい・けい)氏
ツムラ代表取締役COO(最高執行責任者)・医療用医薬品カンパニープレジデント
すぎい・けい ツムラ代表取締役COO。1969年生まれ。三菱油化エンジニアリング(現・三菱ケミカルエンジニアリング)、アクセンチュアを経て、2009年にツムラ入社。物流企画部長、SCM企画部長などを歴任。18年、深圳津村薬業有限公司董事長・総経理。20年、ツムラ執行役員生産本部長、22年、取締役Co―COO。26年6月から現職。医療用医薬品カンパニープレジデントを兼務する。
――「一人ひとりの、生きるに、活きる。」をパーパスに設定しています。事業開発や経営判断にどう影響していますか。
2012年に理念経営を本格的に始め、22年にパーパスを制定しました。医療用漢方製剤を製造・販売する当社にとって、患者さま、お客さまのウェルビーイングへの貢献はパーパスそのものです。
当社の事業は患者さまへの価値提供と直結しているため、従業員にとってもパーパスを理解しやすい環境にあります。19年1月に「ツムラアカデミー」を設置し、パーパスや経営理念などを学ぶ「理念浸透」や「経営人財の養成」など、さまざまな社内プログラムを実施しています。7年ほど続けており、アカデミーの卒業生は執行役員クラスにもいます。
今年4月からは私が学長を務めています。数十人単位で選抜した従業員に対し、1回1時間程度の講義を年に約10回担当しています。

(写真)宮下真季
――西洋医学が中心の現代で漢方医学はどのような価値を提供できるのでしょうか。
日本は医師が漢方医学と西洋医学の両医学の下、診療できる唯一の国です。漢方医学と西洋医学を組み合わせた診療は、患者さま一人ひとりにより適した医療の提供に貢献できると考えています。
現代の医療において、西洋医学だけでは十分に対応できない医療ニーズに対し、漢方医学が得意な力を発揮する場面があります。漢方医学には「心身一如」の考え方があり、患者さまを病状だけでなく、心と体の両面から捉える特徴があります。
そのため、西洋医学を補完する選択肢として、アンメットニーズ(未解決の医療ニーズ)への貢献が期待できると考えています。
■気候リスクが生薬調達に直結
――漢方薬に使用する生薬の調達先は中国が9割です。気候変動の原料調達への影響をどう見ていますか。
漢方薬の原料となる生薬は、気候変動の進行や生物多様性の損失による影響が調達リスクに直結します。ただ、水害や干ばつなどの懸念は今に始まったことではなく、以前から事業継続上の重要なリスクでした。
気候変動リスクへの対応として、生薬栽培地の分散化・複線化などに取り組んでいます。例えば、気温上昇を想定して、暑さに弱い作物は標高の高い地域で栽培するなどの対策です。2030~2050年を見据えた中長期的な対策の検討も進めており、昨年度は全執行役員によるワークショップを開催して議論をしました。気温上昇に強い品種の開発なども重要な選択肢ですが、短期間で実施できるものではありません。中長期計画に織り込んで着実に手を打っていきます。
――一方で、機会についてはどう考えていますか。
例えば、暑気あたりや暑さによる食欲不振などに処方する「清暑益気湯」という漢方薬があります。清暑益気湯の売上高と猛暑日との相関が確認されており、この夏も売上高が増加しています。
また、気温上昇により感染症が流行しやすくなる可能性も環境省の「気候変動影響評価報告書でも開示されています。未知の感染症の発生時には、患者さまの症状に応じて漢方薬が処方される場面があります。新型コロナウイルス禍においても需要が高まりました。

