アクティビストの排除? 株主提案権の要件見直しが「改悪」となる理由

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記事のポイント


  1. 会社法改正の審議で、総会での株主提案権の行使要件も議論の俎上にある
  2. 時価総額1兆円企業に提案できるのは100億円超保有の投資家とする案も
  3. 中長期的視点で環境・人権に資する株主提案も減るだろう

法務省での会社法改正に向けた審議の中では、株主総会での株主提案権の行使要件を変更する方向で議論が進んでいる。株主提案権の行使要件の改正案の問題点について、気候変動・エネルギー・環境分野に取り組む国際的な法律の専門家集団であるクライアント・アース(東京・港)の山下朝陽代表理事に寄稿してもらった。(オルタナ編集部)

山下朝陽(やました・あさひ)氏
一般社団法人クライアント・アース代表理事

弁護士として約30年にわたり、投資・ファイナンス、企業法務、規制分野を中心に国内外の案件に携わる。2026年4月、一般社団法人クライアント・アース代表理事に就任。2021年から英国ClientEarthの法律顧問を務め、気候変動対策や脱炭素社会への移行に向けた法制度・政策面での活動を推進している。現在は、会社法、金融商品取引法、コーポレートガバナンス・コード等における気候変動・サステナビリティを専門とし、株主提案などのスチュワードシップ活動やサステナビリティ開示、持続可能な企業統治のあり方に取り組む。アフラック生命保険で副統括法律顧問、執行役を歴任。米法律事務所オリック・ヘリントン&サトクリフの東京オフィスの創設にも参画し、パートナーとして10年以上同オフィスを率いた。東京大学法学部卒。

法務省の法制審議会会社法制部会で、会社法改正に向けた審議が大詰めを迎えつつある。改正案の内容は多岐にわたるが、このうち株主総会における株主提案権の行使要件に関する改正案は、株主の権利を大きく制限するとともに、株主総会の形骸化を促進させるものであり、筆者としては容認できない。2026年7月22日に開かれた同部会でも、上記テーマについて議論がなされたが、関係者には慎重な審議を求めたい。

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■改正案は、「株主提案」をしづらくする

まず、株主提案権の行使要件に関する改正案の概要を見ていきたい。

現行の会社法は、取締役会設置会社では、「株主の総議決権の1%以上の議決権」または「300個以上の議決権」を6か月前から引き続き保有する株主に対して、株主提案権を認めている。

これに対し、2026年3月に取りまとめられた改正案の中間試案では、「300個以上」という議決権数の要件を廃止し、「1%以上」のみとする案(A案)と、議決権数の要件は残すものの「300個」を一定の個数(例えば「500個」「1000個」「1500個」等)まで引き上げる案(B案)が示された。

このほか、定款の定めによって、実質的にA案もしくはB案の内容を実現するという考え方も記された。 いずれも、株主提案権の行使要件を現行の規定より厳しくする内容だ。

■「物言う株主」を排除したい企業側に寄り添う

こうした改正案が議論されてきた背景には、近年において増加傾向にある株主提案への対応コストを負担する企業側の要請がある。

改正が実現されれば、「物言う株主」として知られるアクティビストファンド等による短期的な利益追求を目的とした提案や、個人株主による軽薄な提案等の制限につながり、株主総会の効率的な運営に資するというわけだ。

■A案は、機関投資家ですら株主提案することが極めて困難に

しかし、仮にA案が実現すると、少数株主からの株主提案は、現状に比べ80%減少するといわれる。

時価総額上位企業(1兆円以上)では、株主提案権の行使に100億円以上の投資が必要となることから、機関投資家ですら株主提案をすることが極めて困難になるだろう。

外国投資家に至っては、上場会社に対して議決権1%以上となる場合、外為法における事前届出が必要となるなど、会社法以外の手続的制約が加わる。このため、外国機関投資家による株主提案は消滅するかもしれない。 つまり、濫用的な株主提案の防止、企業の負担軽減が今回の改正の狙いであるならば、A案は目的に対して、著しく過剰な手段といわざるを得ない。

■B案では、株主提案に必要な投資額が今の3~5倍に

B案であっても、保有が必要な議決権数の要件を「1000個」ないし「1500個」に引き上げるのであれば、株主提案に必要な投資額は現在の3〜5倍となり、個人株主やNGО株主等への影響は大きい。

B案の論拠としては、「300個」要件が定められた1981年に比べて、現在は株主提案に必要な投資額が減少している事実がある。ただ、その是正を図るのであれば、現時点で1981年当時の300個分の投資額に相当する「441個」への引き上げにとどめるのが合理的である。

■環境・人権などの中長期視点の株主提案も駆逐しかねない

改正案に対する賛成論には妥当な面もあるだろうが、筆者らが協働してきたようなNGО等による株主提案は、賛成派が批判対象とするような短期的な株主の利益を目的とする提案とは無縁である。

むしろ中長期的視点に立ち、企業に対して、環境への配慮や対策、人権の尊重、地域社会との共生といった社会的な責任を適切に果たすよう求めるものがほとんどだ。こうした提案の多くは、広く社会の利益に資するだけでなく、企業自身の価値を高めるものでもある。

NGO等はこれまで、多大な時間と費用、労力をかけて、上記のような株主提案を続けてきたが、今回の改正は、NGО等による多様で有意義な提案も駆逐しかねず、結果として極めて富裕な株主らがさらに利益を追求する提案だけが残る。

■株主提案権の過度な制限はコーポレートガバナンスの低下につながる

また、A案の支持者からは、議決権数1%未満の少数株主からの提案は、1%以上の株主の提案に比べて、可決の可能性や他の株主からの支持が有意に低いという調査結果を指摘する声も上がる。

だが、株主提案の価値は、必ずしも可決の有無のみによって決まるものではない。株主提案には経営課題を可視化するという重要な機能があり、可決されなくても、相当程度の支持があった提案は取締役の行動変容をもたらす可能性がある。

社会的意義が大きい提案であれば、支持は少なくても、メディアによる報道等を通じて、社会一般の関心を高めることも期待できる。このような株主提案の価値を軽視すべきではない。

さらに、社会的な影響力が大きい上場企業に対して、多様な立場から経営方針を監視・検証することは、市場の強靭さと健全性を保つ意味でも不可欠だ。株主提案権は、外部からの監視・検証のための重要な手段の一つである。我が国の株式市場のコーポレートガバナンスに対する国内外の信頼低下を招かないためにも、株主提案権の過度な制限につながる改正案は、認めるべきではないだろう。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #アクティビスト

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