アクセシビリティの文化をつくる③「専門チーム」をつくらない理由

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記事のポイント


  1. KINTOの開発会社で働く辻勝利さんが社内文化づくりを推進する
  2. アクセシビリティの専門チームを設けず各部署への浸透を目指す
  3. 開発の初期から当事者が参加するインクルーシブデザインを進める

トヨタグループのKINTOテクノロジーズでアクセシビリティを推進する辻勝利さんは、あえて専門チームをつくらない。専門家だけに任せるのではなく、各部署が自ら考える文化にしたいからだ。毎週の「雑談」や、開発の初期段階から当事者と一緒につくる取り組みを通じて、社内への浸透を図る。(NPO法人インフォメーションギャップバスター理事長=伊藤芳浩)

取材に応じる辻勝利さん(右)と同席した「仲間」のメンバー

■「専門チーム」をあえてつくらない

辻さんは、アクセシビリティを推進するための専門チームをあえてつくらない。

「専門チームをつくって『この会社のアクセシビリティはこのチームで頑張るぞ』というのは、意気込みとしては素晴らしい。でも、そのチームの人たちだけが考えればいい、と他の社員に思われてしまう可能性があります」

これまでの職場では、専門チームと他部署との間に溝が生まれる場面も見てきたという。

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「僕は、みんなの隣にいるアクセシビリティの専門家でありたい。特別なことではなく、身近なアクセシビリティが大事なんです」

辻さん自身は、各部署の課題解決を支援する「Engineering Office」に所属する。アクセシビリティについて他部署に指示する権限はない。

「私が『こうしろ』と言ったから従わなければならない、ということもない。ただ、文化をつくるために、いろいろな部署へ顔を出す権限は持っていると思っています」

■「雑談」から始めるアクセシビリティ

社内への浸透策の一つが、毎週開く「アクセシビリティミーティング」だ。講義形式ではなく、あえて「雑談」の場にしている。

「講師が一方的に話す形式だと、やる側もネタが尽きるし、聞く側も眠くなる。だから、とにかく雑談でいいから、アクセシビリティを身近に感じてもらおうと思ったんです」

参加者はまだ限られるが、この場をきっかけに社内の案内ページが改善されるなど、変化も生まれている。

この「雑談の輪」に集い続ける仲間がいる。彼らは、どんな入り口からアクセシビリティに出会ったのだろうか。

エンジニアの谷郁弥さんは、前職でアクセシビリティについての書籍の輪読会をしていた。「エンジニアの世界では『こういう手法がいい』という定石のようなものが共有されています。でも辻さんに『それ、正しくないし、伝わっていないよ』と言われた。書籍やカンファレンスだけでは、絶対に届かない知識でした」という。

■開発の「最初から」一緒に

辻さんたちが重視するのは、完成後に当事者へ確認を頼むのではなく、開発の初期段階から一緒につくることだ。

「『聞きたいときにいつもそこにいる人』と『聞きたいことをまとめて聞く人』の違いです。同僚なら、質問したくなったその瞬間に声をかけられる」

デザイナーの守谷絵美さんは、この進め方をインクルーシブデザインとも重ねる。

「隣に障害のある人がいる状態で、最初から一緒につくっていく。それが、間違いなく使えるものにつながる。方法論としては知っていても、視覚障害の当事者と一緒に働くのは初めてで、ようやく『答え合わせ』のようにできています」

技術広報の村山結香さんも、AIを使ってサイトをつくり、途中段階から辻さんに確認してもらった。

「一人では気づけない視点を指摘してもらって、直したものをまた見てもらった。初めてアクセシビリティに関われた気がしました」

辻さんにとっても完成後の「チェック役」から関わり方が変わった。

「今は、自分が何か言えば、もっと良くなるかもしれないという段階で声をかけてもらえる。それがすごくやりがいになります」

■障害は「環境の側」にある

辻さんは今年1月、Engineering Officeなどのメンバーに「障害平等研修(DET)」を実施した。障害者自身がファシリテーターとなり、障害を本人ではなく社会や環境との関係から考える研修だ。

技術広報の竹中快さんに特に印象に残ったのが、「障害は環境の側にある」という考え方だった。

「実際に辻さんと街を歩くと、本当にバリアだらけで。問題があるのは本人ではなく、環境やインフラの側なんだと実感するようになりました」

障害を「その人の問題」ではなく「環境の側の、解決すべき課題」として捉え直す。この視点の転換はこれまでに辻さんが語った「困りごとではなく課題」という言葉ともつながっている。

では、障害のある同僚と「共に働く」とは、どういうことなのか。

(④に続く)

連載:アクセシビリティの文化をつくる はこちらからお読みいただけます
アクセシビリティの文化をつくる①
初回:アクセシビリティの文化をつくる①「なければ困る」を当たり前に

アクセシビリティの文化をつくる②
第2回:アクセシビリティの文化をつくる②AIを「秘書」に、自動運転にも期待
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伊藤 芳浩 (NPO法人インフォメーションギャップバスター)

特定非営利活動法人インフォメーションギャップバスター理事長。コミュニケーション・情報バリアフリー分野のエバンジェリストとして活躍中。聞こえる人と聞こえにくい人・聞こえない人をつなぐ電話リレーサービスの公共インフラ化に尽力。長年にわたる先進的な取り組みを評価され、第6回糸賀一雄記念未来賞を受賞。講演は大学、企業、市民団体など、100件以上の実績あり。著書は『マイノリティ・マーケティング――少数者が社会を変える』(ちくま新書)など。執筆記事一覧

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キーワード: #アクセシビリティ

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