「成長の道筋」を描く前に、「成長とは何か」を問い直そう

記事のポイント


  1. 改訂版CGコードでは、持続可能な成長に向けた「道筋」を重視した
  2. 存在意義と長期ビジョンを起点に戦略を描くことが求められる
  3. 売上高や利益は重要だが、成長とは何かという根本的な問いを考える機会に

金融庁が2026年7月に改訂したコーポレートガバナンス・コード(CGコード)では、「成長とは何か」という根本的な問いを企業に投げかけています。企業にとって、売上高や利益を伸ばすことは重要です。しかし、中長期的な視点に立てば、問われるのは「社会にどのような価値を提供し、その価値をどのように自社の成長につなげるのか」という問いです。(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)

改訂版CGコードが重要視したテーマは「成長投資」の促進です。問われているのは、企業がどこへ向かい、どのように成長するのかという「成長の道筋」です。サステナ経営の視点からは、これを社会価値と経済価値の同時創出を目指す「価値創造ストーリー」として描くことが重要です。

■「成長投資」の前に、「成長の道筋」がある

今回の改訂版では、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて、経営戦略に基づく事業の選択と経営資源の活用が重視されています。

こうした取り組みの前提となるのが、企業がどこへ向かい、どのように成長するのかという「成長の道筋」です。

改訂版では、「会社の目指すところ」に向けた成長の道筋を構築し、事業ポートフォリオの見直しや成長投資などを通じて、経営資源を適切に配分することの重要性を示しています。

取締役会には、こうした成長の道筋を構築・提示するとともに、その道筋に沿った経営資源の配分が適切に行われているかを監督し、株主に説明する役割が求められます。

成長投資とは、単に投資額を増やすことではありません。会社の目指すところと経営戦略に基づき、将来の成長につながる事業の創出・育成や技術開発、人材育成などに経営資源を戦略的に投入することです。

このように考えると、成長の道筋は次のように整理できます。

  • 会社の目指すところ: どのような企業を目指すのか
  • 経営戦略: その実現に向けて、どのような戦略を描くのか
  • 事業ポートフォリオの見直し・経営資源配分・成長投資: どの事業を伸ばし、どの事業を見直し、限られた経営資源をどこに投入するのか
  • 持続的な企業価値の向上: その結果として、どのように企業価値を高めていくのか

重要なのは、これらを個別の施策として捉えるのではなく、会社の目指すところから企業価値の向上までを、一貫した道筋として「つなぐ」ことです。

■サステナ経営の視点から「成長の道筋」を考える

では、この成長の道筋を、サステナ経営の視点から考えるとどうなるでしょうか。

サステナ経営では、まず「会社は何のために存在するのか。何を大切にし、どのような価値観に基づいて経営を行うのか」という存在意義・価値観を明確にすることが重要です。

その上で、「将来、どのような企業になりたいのか。社会や市場の中でどのような役割を果たし、どのような価値を生み出すのか」という長期ビジョンを描きます。

CGコードでは、「原則3-1.情報開示の充実」、「原則4-1.取締役会の役割・責務I:企業戦略等の大きな方向付け」において、「会社の目指すところ(経営理念等)」という表現が用いられています。

また、「原則2-1.中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定」では、「上場会社は、自らが担う社会的な責任についての考え方を踏まえ、様々なステークホルダーへの価値創造に配慮した経営を行いつつ中長期的な企業価値向上を図るべきであり、こうした活動の基礎となる経営理念を策定すべきである」としています。

本稿では、これらの記述を踏まえつつ、分かりやすさの観点から、「会社の目指すところ」を存在意義・価値観と長期ビジョンの2つの側面から捉え、成長の道筋を考えていきます。

この視点から成長の道筋を整理すると、次のようになります。

存在意義・価値観 → 長期ビジョン → 経営戦略 → 事業ポートフォリオの見直し・経営資源配分・成長投資 → 持続的な企業価値の向上

■経営戦略を「価値創造」の視点から捉える

では、持続的な企業価値の向上に向けた経営戦略とは、どのようなものであるべきでしょうか。

サステナ経営では、社会や顧客が抱える課題・ニーズを、経営戦略を構想する重要な起点とします。

気候変動、資源・エネルギー問題、人口減少・高齢化、医療・介護の担い手不足、人権侵害、食料安全保障、サイバーセキュリティなど、社会にはさまざまな課題が存在します。これらは企業にとってリスクである一方、その解決に向けた新たなニーズや市場を生み出す可能性も持っています。

例えば、医療・介護の担い手不足を考えてみましょう。医療機関や介護事業者、自治体などには、限られた人材で必要なサービスを維持し、医療・介護の質を確保したいというニーズがあります。

そのニーズに応える手段として、生成AIによる診療記録や文書作成業務の効率化、センサーを活用した介護現場の見守り支援、オンライン診療による医師不足地域での医療提供支援などが考えられます。

こうした取り組みは、医療・介護の現場が抱える課題の解決に貢献します。同時に、企業にとっては、社会や顧客のニーズに応える製品・サービスを開発し、事業を成長させる機会にもなり得ます。

重要なのは、社会課題の存在を確認するだけでなく、そこにあるニーズを具体的な事業へと結び付けることです。そのためには、課題を抱える人々や顧客のニーズを的確に把握し、自社の技術や人材などの強みを生かして、解決に役立つ製品・サービスを開発する必要があります。

ただし、社会課題の解決に役立つ製品・サービスを開発しても、それを継続的な事業として成立させられなければ、持続的な成長にはつながりません。提供する価値に見合った対価を得て、継続的に収益を生み出せるビジネスモデルを構築することが求められます。

社会課題の解決を起点にニーズを捉え、それに応える事業を通じて社会価値と経済価値の同時創出を目指す。これが、サステナビリティ経営における価値創造型の経営戦略の基本となります。

■「成長投資」を戦略実現の手段に
■「成長の道筋」を投資家との対話につなげる
■社会課題解決を起点に、「成長」を問い直す

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遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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キーワード: #サステナビリティ

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