ホルムズ海峡封鎖: なぜ日本は6月に詰まなかったのか

記事のポイント


  1. ホルムズ海峡が封鎖された当初、「日本は6月に詰む」との報道も出た
  2. しかし実際に、6月に日本が詰むことはなかった
  3. 経産省や石油連盟の統計から、ホルムズ危機に日本がどう対応したかを考察する

2026年3月に、米国・イスラエルへの対抗手段としてイランがホルムズ海峡を封鎖した当初、原油やナフサの大半を当該地域から輸入していた日本は「6月に詰む」と報じられた。しかし実際に、6月に日本が詰むことはなかった。経産省や石油連盟の統計から、ホルムズ危機に日本がどう対応したかを考察する。(オルタナ客員論説委員=財部明郎)

ホルムズ危機に日本はどう対応したのか

中東での紛争は2026年2月、米国とイスラエルが突如イランの首都を爆撃したことから始まった。イランは対抗として3月にホルムズ海峡を封鎖したが、2026年9月22日現在、まだ続いている。

■一部マスコミが「ナフサ不足で6月に日本は詰む」と報道

日本は国内で精製される原油の93%と輸入ナフサの約半分がホルムズ海峡を通過するから、ここが封鎖されると日本にとって、まさに存亡の危機である。あるマスコミは「2026年6月に日本は詰む」とまで報道した。

しかし、実際に6月に日本は詰むことはなかった。これはどうしてだろうか。経済産業省や石油連盟の統計を見ると、ホルムズ海峡封鎖という事態に対して、日本がどのように対応したのかが分かってくる。

まずナフサである。ナフサには原油のような戦略的な備蓄もないことから、日本にある輸入ナフサの流通在庫を使い果たせば、すぐにナフサ不足の影響がでてくる可能性があった。

ナフサは日本に輸入されたあと、国内に12カ所あるエチレンセンターに送られて、エチレンやプロピレンなどの基礎化学品となり、これを原料としてプラスチックや合成ゴム、合成繊維、塗料、溶剤などさまざまな石油化学製品が作られる。

■国内で生産されるナフサだけでは足りない

ナフサが何かは知らなくても、ナフサから作られるプラスチックや合成繊維、塗料などを知らない人はいないだろう。これらのナフサから作られた製品はもちろん、私たちの生活になくてはならない。さらに日本の主要産業である自動車や機械類、電気製品、建築その他の工業製品の材料や部品としても、ナフサから作られた製品が多く使われている。

したがってナフサが不足して工業生産用部品の供給が止まれば、日本の製造業の多くが停止してしまうことになる。一部のマスコミは、それが流通在庫を使い果たす6月ころになると予想し、6月に日本は詰むと報道したわけである。

ナフサは原油を蒸留して作られる。原油を蒸留すると原油のだいたい10%くらいの割合でナフサが取り出せる。しかし、日本の石油化学産業は規模が大きいので、国内で生産されたナフサだけでは足りず、不足分はナフサ自体を輸入している。というか、むしろ輸入品の方が国内で生産されるナフサより多く、国内で使用されるナフサの約6割が輸入品である(2025年実績)。

図1はホルムズ封鎖前(2026年2月)のナフサ輸入先の割合を示したものである。

図1 ホルムズ海峡封鎖前の日本のナフサ輸入先

このうち、上位3カ国、カタール、クウェートおよびアラブ首長国連邦(UAE)がホルムズ海峡経由で輸入されている。だから海峡が封鎖されると、この3カ国からの輸入ができないことになる。

さらに4番目のナフサ輸入先である韓国だが、同国も日本と同様に中東から原油を輸入してナフサを生産している。このため、ホルムズ海峡が封鎖されると韓国でもナフサが生産できなくなり、ナフサの輸出余力もなくなってしまう。

これら上位4カ国を合わせると、わが国はナフサ輸入先のうち、4分の3を失うことになる。では日本はこの危機にどう対応したのだろうか。

■ペルーやアルジェリアからのナフサ輸入が急増

図2は経済産業省が公開している貿易統計をグラフにしたものだ。ナフサの輸入国の推移を示している。これから分かるように、ホルムズ海峡封鎖の影響が現れる2026年4月は、日本の主なナフサ輸入先であった中東と韓国からの輸入が大幅に減っている。

しかし、日本が輸入するナフサの総量を見てみると、これはそれほど大きくは減ってない。それどころか5月になると総輸入量は増え始め、むしろ海峡封鎖前を超えるくらいの輸入量となっている。

図2 わが国のナフサ輸入先の推移(2026年)

これは、これまでの主要輸入先であった中東、韓国からの輸入量は確かに減ったものの、それ以外の国々からの輸入が増えたからである。2026年4月以降の輸入先で多いのは、米国、ペルー、アルジェリア、欧州、その他アジア諸国である。

このうち、欧州についてはイタリア、スペイン、ノルウェー、ポルトガルなど、その他アジア諸国についてはインド、マレーシア、タイ、シンガポールなどが含まれる。

つまり、2026年3月にホルムズ海峡が封鎖されたあと、日本は様々な国々からナフサをかき集めたのであり、そしてその効果は4月には早々と現れて、5月以降も続いてきたというわけである。これによって6月に日本は詰むという説は回避されたことになる。

では今後どうなるのだろうか。興味深いのは7月である。7月になるとナフサの輸入先として再び中東が増え、その代わり米国と欧州からの輸入がゼロとなっている。

7月に中東からのナフサ輸入が復活したのはもともとホルムズ海峡の外にあるオマーンからの輸入が増えたこともあるが、クウェートやUAEのような、日本が従来からナフサを輸入してきた国々からの輸入量も増えてきている。これは海峡封鎖が完全なものではなく、かなり緩んできているからだと考えられる。

2026年7月6日付のダウ・ジョーンズの記事によると、日本へ向かうナフサタンカーの予約が海運契約書に現れ始めているという。また、クウェート石油公社は大型船がホルムズ海峡を通ることは危険と考え、小型タンカーでホルムズ海峡を通り、海峡を抜けたあと大型タンカーにナフサを積み替える作業を行っているといわれる。

ホルムズ海峡封鎖とはいいながら、実際には一部のタンカーは封鎖を破って航行しているわけで、これが常態化すればナフサの輸入は従来の形に少しずつ戻って行く可能性がある。

■原油輸入減に対して日本はどのように対応したのか

以上はナフサ輸入についての状況である。ではナフサと同様にホルムズ海峡経由で輸入されてきた原油についてはどうなのだろうか。日本の対応はナフサの場合とは少し異なっている。

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財部 明郎(オルタナ客員論説委員/技術士)

オルタナ客員論説委員。技術コンサルタント。九州大学大学院工学研究科応用化学専攻修了後、1978年に三菱石油(現ENEOS)入社。本社、製油所、研究所、技術調査会社等を経て2019年退職。技術士(化学部門)。工学修士。ブログ「世界は化学であふれている」を公開中。石油産業誌に『明日のエコより今日のエコ』連載中。著書「バイオディーゼルとSAFの話」、「バイオエタノール」、「カーボンニュートラル燃料」、「E10ガソリンの基礎知識」等

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