記事のポイント
- ブリヂストンは、循環型ビジネスモデルへの転換で社会価値と顧客価値を生む
- 天然ゴムの調達リスクや小規模農家支援などを自社の課題として捉える
- サステナ人材の育成には役割管理と、社内への「翻訳力」が不可欠だ
オルタナは10月14日、サステナ経営塾22期下期第1回を開いた。第1講にはブリヂストン サステナビリティ戦略統括部門統括部門長の稲継明宏氏が登壇し、「企業事例: ブリヂストンのサステナビリティジャーニー~サステナ人財をどう育てるか~」をテーマに講義した。稲継氏は、同社のサステナビリティ経営の変遷やサステナビリティビジネスモデルの実践事例、社内での人材育成・組織づくりのポイントについて紹介した。

・ブリヂストンは2050年を見据え、「サステナブルなソリューションカンパニーとして社会価値・顧客価値を持続的に提供している会社」を目指すビジョンを掲げている。商品を「創って売る」「使う」、原材料に「戻す」というバリューチェーン全体において、カーボンニュートラル化、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブへの取り組みを経営戦略・ビジネスモデルと連動させて進めている。企業コミットメントである「Bridgestone E8 Commitment(ブリヂストン・イーエト・コミットメント)」を価値創造の軸として位置付ける。
・同社が推進する循環型ビジネスモデルの代表例が、使用済みタイヤのトレッド(接地面)を貼り直して再利用する「リトレッド」事業だ。単なるタイヤの単品販売ではなく、タイヤ使用や車両運行サポート、メンテナンス、リトレッドをサブスクリプション型のパッケージとして提供することで、顧客の安心・安全な運行やトータルオペレーションコストの削減、経費平準化といった顧客価値と、資源使用量・CO2排出量の削減という社会価値を同時に創出し、競合他社との差別化によるシェアの拡大につなげている。
・原材料調達における大きな課題が、タイヤの主原料である天然ゴムの持続可能性だ。生産地の偏在による病害・地政学リスクや、生産の約8割を担う小規模農家の経済的安定・森林破壊防止といった課題に対し、ブリヂストンは自社農園の技術提供やマルチステークホルダーでの「持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム(GPSNR)」立ち上げ、代替植物「グアユール」の研究開発などに取り組む。これらの取り組みは単なる社会貢献にとどまらず、原材料の安定調達や長期的な事業継続基盤の確保(信頼の醸成)に不可欠な経営戦略と位置付けている。
・探索事業においては、使い終わったタイヤを熱分解して油分やカーボンブラックに還元しタイヤに戻す水平リサイクルの社会実装を見据えた検証(岐阜県関市でのパイロット実証プラント建設)や、空気充填が不要でリサイクルが容易な次世代タイヤ「AirFree(エアフリー)」の実証実験を進めている。
・社内でのサステナビリティ推進の歩みを振り返り、稲継氏は「CSR(企業の社会的責任)からサステナビリティ(社会課題解決を通じた価値創造と企業価値向上)への概念転換」を強調した。また、専門用語の安易な使用を避け、社内での誤解を防ぐため「マテリアリティ」という言葉を使わず、日本語で例えば「持続的な企業価値向上の実現に向けて重点的に取り組むべき課題」と噛み砕いて説明する姿勢を紹介した。
・「サステナ人材」の育成と組織管理においては、1人の人に全てのスキルを求めるのではなく、「開示・評価対応(アナリスト)」「専門領域(環境・人権)」「社内外との連携・推進(コミュニケーター/ファシリテーター)」「全体戦略(ストラテジスト)」といった特性に応じた役割のポートフォリオを意識し、部門間ローテーションを通じて人材をプール・育成していく重要性を説明した。
・最後に稲継氏は、サステナビリティ機能の社内での存在価値として「翻訳力」と「長期的視点(インテリジェンス機能)」を挙げた。社外で起きている動向や社会からの期待・要求などを、現場のビジネス担当者が理解・共感できる社内文脈(地産地消、地政学リスク軽減など)に置き換えて伝えること、そして短期的視野になりがちな事業部門に対して「あさって以降の時間軸」を提示しサポートすることが、サステナビリティ推進部門の鍵になると語った。



