記事のポイント
- KINTOの開発会社で働く辻勝利さんが対等に働ける組織を目指す
- 障害者を「助ける対象」でなく対等な同僚として受け入れる
- 後継者を育て、アクセシビリティを組織の文化として残す
トヨタグループのKINTOテクノロジーズで働く辻勝利さんが目指すのは、障害のある人を「助ける対象」とせず、一人の同僚として共に働く組織だ。必要なときには互いに頼り、アクセシビリティを一人の専門家の仕事で終わらせない。最終回では、後継者の育成や、自らもKINTOのユーザーになる未来について聞いた。(NPO法人インフォメーションギャップバスター理事長=伊藤芳浩)

■「助ける」のではなく「共に働く」
辻さんは、障害のある人を同僚として迎えるために必要なのは「フラット」な関係だと話す。
「あらかじめ配慮すべきことを決めておくのではなく、ありのまま受け入れて、一緒に働くなかで柔軟に変わっていく。それが最低限だと思います。私が入社のときにお願いしたのは、点字ディスプレーを一つ買ってほしいということだけでした」
辻さんをKINTOテクノロジーズに誘ったデザイナーの守谷絵美さんは、入社時にこう伝えた。
「私は辻さんのお手伝いはしません。本当にできないことがあれば言ってください、私にもできないことはあるので、そのときはお願いします、と。そういう関係です」
例えば、辻さんがAIで作った資料の文字が画面上で潰れていないかは守谷さんが確認する。一方、守谷さんがデザインしたものをスクリーンリーダーで正しく読み上げられるかは辻さんが確かめる。
「障害のある人が長く、誇りを持って働き続けたいと思える組織をつくりたい。これは『困りごと』ではなく、『課題』として感じています」
■「自分がいなくなったら終わり」にしない
辻さんがいま「一番に意識している」というテーマが後継者の育成だ。
「定年まで、あと7年ほど。自分がいなくなったら、アクセシビリティもやめた、となっては困る。だから今は、後を継ぐ人を育てることを一番に意識しています」
辻さんは毎週の「アクセシビリティミーティング」に加え、社内向けコラムや勉強会などを続けている。同社の「Tech Blog」にも「Accessibility」のタグを設け、社外への発信を始めた。
一方、コーディング規約や自動チェック、アクセシビリティの価値を測る指標など、仕組みづくりはまだ道半ばだ。
■自分がKINTOのユーザーになる日
辻さんには、もう一つ実現したい未来がある。
「自分が定年する頃には、自分もKINTOのユーザーになれていたらいいなと思うんです。行きたいところに、自由に行きたい。自分が関わってきたプロダクトが、それを実現してくれるなら、こんなにうれしいことはありません」
ただし、「視覚障害者専用」の乗り物にはしたくないという。
「移動手段として自動運転を使いたい人のなかに、当たり前のように視覚障害者が含まれている。そういう未来でなければ、技術の発展そのものが遅れてしまう気がします」
■後輩に「プレーヤー」のバトンを
辻さんが特に思いを寄せるのは、視覚障害のある後輩たちだ。
「私の後を引き継いで、『プレーヤー』として活躍してほしい。『誰もがプレーヤーになれる』というのは、ワクワクし続けることだと思うんです」
そして、第1回でも語った言葉に戻る。
「技術で解決可能なことを、運用でカバーしない。これは私の永遠のテーマです。私たちはあまりにも多くのことを、運用でカバーし続けて生きてきました。それを、なんとかしたいんです」
辻さんは今回の話について、「一人の全盲の男の個人的な意見」として受け止めてほしいとも付け加えた。
「支援される存在」ではなく、「共に価値を創る同僚」として――。辻さんと仲間たちの物語は、まだスタートラインに立ったばかりだ。



