記事のポイント
- オーストラリアは世界有数のLNG輸出国で、日本が最大の輸出先だ
- 現地では、日本企業も関与するLNG事業の長期延長が承認された
- LNG開発に脅かされる先住民の暮らしを、現地取材で明らかに
オーストラリアは、2050年のネット・ゼロや2030年の再エネ電力比率82%を目標に掲げる。一方で、世界有数のLNG(液化天然ガス)輸出国であり、最大の輸出先が日本だ。北西部ではLNG事業の長期延長が承認され、日本企業も権益保有や調達を通じて深く関与している。脱炭素と化石燃料依存の間で揺れる豪州の現実を、3回に分けて報告する。第1回は、LNG開発によって脅かされる先住民の聖地と暮らしを、現地取材で明らかにする。(オルタナ副編集長=長濱慎)

◾️日本との関係が深いLNGプロジェクト
オーストラリアの主要なLNGプロジェクトは、北西部に集まる。その玄関口が、西オーストラリア州の州都・パースだ。ここにはオーストラリア最大の化石燃料企業であるウッドサイド・エナジー(ウッドサイド社)が本社を構える。
成田からパースには全日空(ANA)の直行便が飛び、街角では日本のビジネスマンの姿も見かける。ANAは就航理由の一つに天然資源などのビジネス需要を挙げており、LNGを通じた日豪両国の深い関係が伺いしれる。
パースからカンタス航空の国内便で約2時間飛ぶと、北部海岸沿いの街カラサ。その郊外に、オーストラリア最大規模のLNGプロジェクト「ノース・ウェスト・シェルフ」(NWS)がある。ウッドサイド社が操業し、沖合で採掘した天然ガスを陸上施設で液化・輸出するプロジェクトだ。
操業開始は1984年で、85年には日本の電力・ガス事業者8社とLNG売買契約を締結。89年から日本への輸出が始まった。三菱商事・三井物産の合弁会社であるJapan Australia LNG(MIMI)が約17%の権益を保有するなど、現在も日本との関係が深い。

◾️サンゴ礁に迫る新規ガス田開発
オーストラリア連邦政府は2025年9月、NWSの2070年までの操業延長を条件付きで承認した。LNGを脱炭素への「移行燃料」と位置付け、存続する方針だ。しかし、NWS周辺のガス田は減衰し、液化設備に余力が生じている。
そこで、新たな供給源として計画されているのがBrowse(ブラウズ)。これは北方沖にある3つのガス田を開発し、約900キロのパイプラインでNWSの陸上施設に送って液化する構想だ。ここにも三菱商事や三井物産が参画するほか、2026年9月に大阪ガスが権益取得に関する売買契約の締結を発表した。
ブラウズの計画海域には、希少なクジラやウミガメなどが生息するサンゴ礁「スコットリーフ」がある。環境NGOのグリーンピース・オーストラリア・パシフィックは2026年8月、開発に伴う大規模な流出事故が起きれば、インドネシアや東ティモールにまで深刻な被害が及ぶ恐れがあると警鐘を鳴らした。

◾️世界遺産の岩絵に劣化の懸念も
NWSの陸上施設が立地するムルジュガには、5万年以上にわたって先住民が刻んできた岩絵(ロックアート)が残る。ロックアートは2025年7月に世界文化遺産に登録されたが、そのわずか2カ月後にNWSの操業延長が承認された。
連邦政府は排出規制などによって、ロックアートを保護するとしている。しかし、LNG施設などから排出される窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)が岩の劣化を早めていると懸念する研究も複数ある。
ガス開発は海洋環境や世界遺産への影響だけでなく、この地で暮らしてきた先住民の文化、信仰、暮らしにも深い影を落としている。


◾️「聖地」の隣に巨大工業施設が
「ここはオーストラリアで最も神聖な地の一つ。ロックアートは生きる芸術であり、知識と歴史、生き続ける物語そのもの。それが開発によって冒涜されている」。先住民コミュニティの活動家・レイリーン・クーパー氏は、こう語気を強める。
クーパー氏は、カラサ近郊で生まれ、先住民組織の会長などを経て、現在はロックアート保護運動「Save Our Songlines」の中心人物として活動している。Songlines(ソングラインズ)とは、祖先の旅路や土地の記憶を歌や物語で受け継ぐ、オーストラリア先住民独特の概念だ。
「ロックアートは先住民にとって聖書のようなものであり『知識のギャラリー』でもある。今は開発のせいでこのあたりでは見かけなくなったが、カンガルーを食べる際にどう解体するか、その方法を描いたものもある」。クーパー氏は、一つひとつのロックアートに刻まれた物語を丁寧に語る。
クーパー氏は、連邦裁判所に裁判を起こしている。2022年には先住民文化遺産保護法に基づき、ロックアートの保護を政府に申請した。しかし、3年以上にわたって判断が示されなかったため提訴。25年8月、裁判所はクーパー氏の訴えを認め、政府の判断遅延を「不合理」と認定した。
25年7月には、UNESCO世界遺産委員会に合わせてパリに赴き、ロックアートの世界遺産登録を歓迎しつつ、LNG開発から守るための追加的な保護措置を訴えた。しかし「LNG産業の利益を最優先するオーストラリア政府の姿勢はほとんど変わっていない」と、不信感をあらわにする。
先住民にとってロックアートが失われることは、物理的な破壊にとどまらず、歴史や文化を奪われ、存在そのものを否定されることに他ならない。クーパー氏は、こう問いかける。
「LNGを輸入する日本には、富士山や神社がある。このような神聖な場所の隣に、巨大な工業施設が建設されるとしたら、どう感じるのか」

◾️開発の陰に先住民の困窮
◾️日本企業3社の見解は

