原田勝広の視点焦点:中村哲医師はなぜ死んだのか?

アフガンでは、折しも米国の歴代政権が軍事作戦が米国に有利に進んでいるかのように見せかける情報操作をしていたとする内部文「ワシントン・ペーパー」が暴かれました。米軍が撤退を余儀なくされるほどの混乱した情勢にもかかわらず、中村さんを前線に立たせたものは何だったのか。

本人のアフガンにかける強い思いはもちろんあったでしょう。ひょっとするとアフガンの土になる覚悟を固めていたのかもしれません。しかし、周囲に様々な思惑や過度の期待感がなかったか。中村さんはそのすべてを黙って引き受けたかに見えます。

やさしさ、責任感、そして勇気、それが彼の美点でした。その美点ゆえに命を落としたのだとすれば、これ以上の悲劇はありません。

中村さんの殺害犯にどんな正義があるのかわかりませんが、犯人を許すことはできません。中村さんの遺志を受け継ぎ、社会に貢献しようとしている若者たちのためにも、私たちは、ここに、ひとりの善の実践者がいたことを後世の人にしっかり伝える義務があると肝に銘じたい。(完)

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原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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キーワード: #NGO

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