第2部の最後に、国立環境研究所・生物生態系環境研究センターの五箇公一・生体リスク評価・対策研究室長は、「環境問題としての新興感染症」というテーマで講演した。
五箇室長はコロナの一因を、生物多様性の劣化によると考える。コロナなどの病原体にももともとの生息地があるが、人間の活動によってその生態系が破壊され、新興感染症が出現する。そして人間社会のグローバル経済にのり、感染は急速に拡大する。
不顕性感染事例が多いため、何も対策を取らなければ、蔓延が続く。そこでコロナと共生し、経済活動などを再開すべきなのではないかと提言する。そのためには、私たちの社会・生活ともに変容する必要がある。
五箇室長が人間と自然の正しい共生のあり方として挙げているのが、「ゾーニング」、つまり野生生物と人間社会の間に線引きをするべきという考え方だ。人も動物も生息域、資源の取り分をわきまえ、人も動物界もお互い過剰に侵食し合うことがないようにする。
自然共生社会を目指し、進んでいくには、1.資源搾取型グローバリゼーションからの脱却、2.ローカリゼーションと持続的社会へのパラダイムシフトが必要となる。五箇室長は、その第一歩として地域経済行動を確立すべく、「地産地消」に着手することを勧めている。
「人と動物、生態系の健康はひとつ」
WWFジャパンによる「人と動物、生態系の健康はひとつ～ワンヘルス共同宣言」は、ワンヘルス（One Health）の理念のもと、人と動物の医療や公衆衛生、環境保全に携わる機関・団体がそれぞれの力を集結、連携し、さらに政府との対話を通じ、1.生態系の健康を守ること、2.動物の健康を守ること、3.人の健康を守ることに取り組んでいくことを誓うものだ。
宣言は、人と動物の医療や公衆衛生、環境保全に携わる機関・団体が行うことができ、賛同者は約8000にも上っている。例を挙げれば、企業・団体ではANAホールディングス株式会社、一般社団法人エシカル協会、株式会社セブン-イレブン・ジャパン、パークハイアット東京など、個人では、石川義弘 横浜市立大学副学長、パラスイマーの一ノ瀬メイ氏、シンガーソングライターの福原みほ氏、自然写真家の高砂淳二氏などだ。
コロナのパンデミックが世界に広まって1年以上が過ぎている。コロナに限らず、人に感染しうるウイルスは最大で82万7000種類あると推測され、次にそのどれが私たちを襲ってくるかわからない。いまだ世界はコロナ禍にあるが、次の感染症への予防策を練り、いつ発現してもいいように備える必要がある。
予防策にかかるコストはパンデミックにより被る被害額の100分の1と考えられている。人命を守り、経済的損失を出さないためには予防策を講じなくてはならない。
WWFは2020年6月に、コロナの現状をまとめた報告書、『COVID 19：人と自然を守るための緊急の呼びかけ』を発表し、動物由来感染症のパンデミックを引き起こす要因を指摘している。そして現在、将来的なパンデミックの脅威を緩和するのに欠かせない自然環境・生物多様性保全を進めようと、ライフスタイル変革のカギを握る「ワンヘルス」の早期実現に向け取り組んでいる。
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