企業の人権尊重、コミュニケーションの視点で

周囲の人と自由なコミュニケーションを行うためには、本人のコミュニケーションスキルを身につける努力だけでなく、コミュニケーションバリアについての社会側の理解と、バリアをなくすための努力が必要です。

前者は、「自助」と呼ばれるもので、自分自身の努力で解決することです。

その一方で、後者は、「共助」または「公助」と呼ばれるもので、周りの人や社会の理解と支援により解決することです。この2つは両輪として一体的に推進していく必要があります。

人間の本質は、相互依存(互いに関わり合い、作用し合う)なしに語ることはできず、人間らしく生きることの根源は、コミュニケーション(伝え、受け取り、共有し、関わること)にあります。この人権の根本的な部分である人が人として生きるうえで必要不可欠なコミュニケーションは、「自助」「共助」「公助」の三位一体で作り上げていくものなのです。

企業は、ステークホルダーとのエンゲージメントを高めていくために、十分なコミュニケーションを図っていく必要があります。そのため、コミュニケーションバリアについて正しく理解し、だれにも公平に接していくことはビジネスにおける人権尊重の一つと考えられます。

具体的な例としては、損害保険会社において、交通事故(人身事故)が起きた場合、損害賠償の対象となるものに「逸失利益」を算定する場合があります。この逸失利益とは、「事故がなければ得られたはずだった収入」のことです。

被害者が死亡したり、後遺障害を負ったりした場合、逸失利益が生じ、損害賠償額の算定基準に加えられます。この算定を行う上で、コミュニケーションバリアを正しく理解しなければ、人権侵害に等しい判断がされてしまう恐れがあります。

■聴覚障害児の「逸失利益」が4割減に

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伊藤 芳浩 (NPO法人インフォメーションギャップバスター)

特定非営利活動法人インフォメーションギャップバスター理事長。コミュニケーション・情報バリアフリー分野のエバンジェリストとして活躍中。聞こえる人と聞こえにくい人・聞こえない人をつなぐ電話リレーサービスの公共インフラ化に尽力。長年にわたる先進的な取り組みを評価され、第6回糸賀一雄記念未来賞を受賞。講演は大学、企業、市民団体など、100件以上の実績あり。著書は『マイノリティ・マーケティング――少数者が社会を変える』(ちくま新書)など。執筆記事一覧

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キーワード: #SDGs#ビジネスと人権

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