企業の人権尊重、コミュニケーションの視点で

現在、非常に遺憾な事態が発生していますので、紹介します。

2018年に大阪市生野区の交差点で聴覚障害を持つ小学生たち5名が死傷する大変痛ましい事故が発生しました。そして、3年経った現在、死亡した女児の両親は、加害者に対して損害賠償を求めた民事裁判で新たな差別を受けて、苦しめられ傷つけられています。

被告側は、死亡した女児が生まれつき聴覚障害を持っていることから、得られなくなったと想定される生涯の収入見込額である「逸失利益」について、一般女性の40%で計算すべきだと主張してきました。

この主張は、コミュニケーションバリアを正しく理解していません。被告側の弁護団の一人で聴覚障害を持つ田門浩弁護士は、こう語っています。

「今回の裁判では、被害者が将来就職したらどの程度の収入が得られる見込みがあったかが大きな争点となっています。障害のない人々の間では、過去に、裁判所が認める賠償額について、男女間で格差がありました。被害者が男子である場合と女子である場合とで裁判所が認める賠償額が違っており、これが男女差別ではないかという問題提起がなされていました。現在は、裁判官も、女子の就労をめぐる法制度、社会情勢等の変化を考慮するようになっていて、賠償額について男女格差は解消されつつあります。この考え方からいくと、障害者についても、現在、法制度、社会情勢や教育方法が変化しているので、これを考慮するのは当然ではないでしょうか」

逸失利益は性別・障害の有無などの属性によらず公平に算出すべきです。本来、逸失利益があろうがなかろうが、人の命の価値に差がある訳ではなく、障害の有る無しにかかわらず、等しく大切な命です。逸失利益がゼロと算定されたとしても、人の価値が無でないことは、いうまでもありません。

このような時こそ、人権を尊重した上で、正しい対応をとっていただけるよう望みます。それこそが、冒頭で紹介した「『ビジネスと人権』に関する行動計画」を実践する、責任ある企業の姿ではないでしょうか。

大阪市生野区の交差点で聴覚障害者を持つ小学生たち5名が死傷する大変痛ましい事故の詳細については、以下の記事をご参照ください。
https://agora-web.jp/archives/2051471.html

また、政府の「ビジネスと人権に関する国別行動計画」(National Action Plan)に市民社会の立場からエンゲージ(参画、協議)していくことを目指す市民社会組織により構成されている「ビジネスと人権NAP市民社会プラットフォーム」という団体があります。関心のある方は、是非ともウェブサイトをご参照ください。
https://www.bhr-nap-cspf.org/

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伊藤 芳浩 (NPO法人インフォメーションギャップバスター)

特定非営利活動法人インフォメーションギャップバスター理事長。コミュニケーション・情報バリアフリー分野のエバンジェリストとして活躍中。聞こえる人と聞こえにくい人・聞こえない人をつなぐ電話リレーサービスの公共インフラ化に尽力。長年にわたる先進的な取り組みを評価され、第6回糸賀一雄記念未来賞を受賞。講演は大学、企業、市民団体など、100件以上の実績あり。著書は『マイノリティ・マーケティング――少数者が社会を変える』(ちくま新書)など。執筆記事一覧

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キーワード: #SDGs#ビジネスと人権

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