記事のポイント
- 辻勝利さんは障害者に無償の協力を求める慣行や「配慮」に疑問を持つ
- AIを「秘書」として読めない資料の確認や作成を自力で進める
- 自動運転に移動手段を自分で選べる未来への期待を寄せる
KINTOテクノロジーズで「アクセシビリティ・アドボケート」として働く辻勝利さんは、障害当事者としての知識や経験を無償で求められる「やりがい搾取」や、「配慮」が善行として語られることに違和感を抱いてきた。一方、AIは仕事を手助けする「秘書」となり、自動運転には「移動の自由」への期待を寄せる。技術によって働き方や暮らしはどう変わるのか。(NPO法人インフォメーションギャップバスター理事長=伊藤芳浩)

■「みんなの辻さん」をやめる
アクセシビリティの分野で長く働いてきた辻さんは、業務とは関係なく「スクリーンリーダー(画面上の文字を読み上げるツール)を使うところを見せてほしい」といった依頼を何度も受けてきた。
「それは仕事ではなくて、相手がアクセシビリティを学ぶのを手伝うようなものです。お金は発生しないのに、やりがいだけは搾取される。都合よく利用されていると感じることがとても多かった」
辻さんは「配慮」という言葉にも危うさを感じている。
「『障害者に配慮した』と言えば善行になり、世の中もその人を持ち上げる。でも、それは当然やらなければならないことであって、『いいことをした』と錯覚してしまうんです」
買い物や書類の確認、アプリの操作など、障害のある人にとって日常生活そのものにバリアがある。
「私たち障害のある利用者は、誰かが『いいことをした』と示すための『証拠品』ではありません」
辻さんは、障害当事者としての経験や知識を無償で提供することを当然視されるような依頼からは、距離を置くことにした。
「もちろん、身近な人の役に立つのなら全力を尽くします。でも、そうでないものは、もう引き受けないと決めました」
■「AI秘書」と働く
その一方で、仕事を支える存在になったのがAIだ。辻さんは現在、生成AIを使った開発支援ツール「Claude Code(クロードコード)」を毎日のように使う。
文章を書くとき、漢字の変換候補は読み上げを聞いて確かめるしかない。急いでいるときは確かめきれないまま確定してしまい、同音異義語を取り違えることがよくあるという。そこで文章の確認に使い始めたのがAIだった。今では、自分では読めない資料の読み取りにも使っている。
「『この資料は何を伝えたいのか』とAIに投げれば内容を説明してくれる。100%は信用しませんが、専門の秘書がついて手伝ってくれているような感覚があります」
当初はスクリーンリーダーとの相性が悪かったが、AIに自分の特性を伝えることで使いやすくなった。
「一度『目が見えない』と教えると、それ以降は情報の出し方に気を配ってくれるんです」
ただ、AIのほうから「視覚障害者に配慮して」といった表現が出てくることもある。
「社会が『障害者には配慮しなければならない』という価値観をAIに与えてきた結果だと思います。AIは社会の鏡なんですよ」
AIの活用で、自らセミナーを設計し、資料もつくれるようになった。
「見栄えはAIに任せて、私は『何を伝えるか』という意思決定に集中できる。仕事がこんなに楽しいと思ったのは、初めてかもしれません」
■自動運転で「移動の自由」を
辻さんがKINTOテクノロジーズを選んだ背景には、自動運転への期待もある。生まれ育った長崎県佐世保市では、実家からバス停が遠く、家族の運転がなければ自由に外出できなかった。
「基本的に、両親が興味のない場所には行けませんでした。好きなバンドのコンサート、気になったレストラン、女性との二人きりのデートもそうです」
その後、SNSで全盲のカップルが自動運転タクシーだけでレストランに向かう動画を見た。スマートフォンからクラクションを鳴らし、乗る車を音で確認できることにも驚いたという。
「視覚障害者専用でもなさそうな機能が、自分の乗る車を見つける手がかりになる。斬新で面白いと思いました」
辻さんは現在も移動にはタクシーが欠かせない。
「不自由なのは『行けない』ことではありません。移動の手段が毎回一つに決まってしまうこと。『自分のやり方』を選べないことなんです」
一方、自動運転には事故時の責任など解決すべき問題もあるとみる。
「機械がやったことだから責任は取れません、では済まない。責任の所在をきちんと定義できるようにしないといけないと思います」
さらに、自動運転で目的地まで行けても、そこで障害を理由にサービスを利用できなければ目的は達成できない。例えば、子どもと遊園地へ行っても、障害を理由に入園を断られれば、目的は達成できない。
「自動運転は手段であって、目的ではないんです」
(③に続く)



