記事のポイント
- 中央大学は日本聴覚障害学生高等教育支援で受賞実績がある
- 同大学では学生スタッフ「SA」が、授業の情報保障や移動支援などを担う。
- 学生同士が支援の経験を共有することで、互いに支え合う関係が育っている
中央大学は2025年秋、第21回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウムでグッドプラクティス賞を受賞した。同大学では、ステューデント・アシスタント(SA))と呼ばれる学生スタッフが、授業中の情報保障や移動支援などを担う。筆者自身、視覚障がいの当事者としてSAの支援を利用する立場から、支援の仕組みや学生同士が関わる意義について、中央大学ダイバーシティセンターの田中真理子コーディネーター、権藤真由美コーディネーターに話を聞いた。(聞き手=オルタナユース・飯田健剛)
■学生の提案が、支援の新たな可能性を開く
――グッドプラクティス賞の受賞につながった取り組みについて教えてください。
田中コーディネーター:2025年、初めてSAの学生が、日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)のシンポジウムで発表しました。きっかけは学生からの提案です。学生が中心となってポスターを作成し、授業やイベントで情報保障を担当した学生も参加しました。学生と相談しながら支援方法を決める取り組みなどを紹介し、今後への期待も込めて賞をいただいたのだと思います。
こうした活動の基盤となっているのが、ダイバーシティセンターです。センターが設立された2020年以前から聴覚障害のある学生へのノートテイクなどは行われていました。ノートテイクとは、授業で話された内容を文字にして伝える支援です。センター設立後、必要に応じてSAを活用する現在の形になり、2023年度からはイベントスタッフなどにも活動が広がりました。

学生が日々の出来事をつづる「Dスク交換日記」や、スタッフ紹介のボードなどが置かれている。
■学生のニーズが、支援を形にする
――SAの活動は、授業中の情報保障だけでなく、キャンパス内の移動など、大学生活全体にも広がっているのでしょうか。私自身も、白杖で歩く中で、目的地までの道順だけでなく、建物や通路の位置関係など、キャンパス全体の構造を把握する難しさを感じています。そうした課題を解消するため、学内の全体像を把握できる触地図を作成していただきました。このような授業以外の支援は、どのような経緯で形になっていったのでしょうか。
田中コーディネーター:学生のニーズに応じて支援を調整しています。例えば、建物や通路の位置関係を触って理解できる触地図は、飯田さんが学内の構造を把握できるよう、立体プリンターや麻ひもを使って制作しました。飯田さんが要望を出した茗荷谷キャンパスの学生だけでなく、多摩キャンパスの学生も協力しました。
このように、支援はあらかじめ決められた方法を提供するだけではありません。学生の要望を出発点に、必要なサポートを考え、実際に形にしていきます。その過程では、支援を利用する学生だけでなく、支援を担う学生も一緒に考えることになります。
■支援する側・受ける側を超え、互いに支え合う
――私自身、SAの学生に支援してもらう中で、友人にサポートしてもらうような感覚で、楽しく大学生活を送れています。専門の職員による支援とは異なり、同じ学生同士だからこそ生まれる関係もあると感じます。学生が支援に関わることには、どのような意義があるとお考えですか。
田中コーディネーター:「一緒につくる」という視点が大切だと思います。同じ学生の立場だからこそ関係を築きやすく、一緒に大学生活をつくっていけるのではないでしょうか。支援する学生にとっても、大学時代にこうした経験をすることが、社会に出た後の支え合う姿勢につながると期待しています。
権藤コーディネーター:大学に入るまで障がいのある人と接する機会がなかった学生も少なくありません。SA活動は、多様な人が一緒に学んでいることを知る機会にもなっています。
また、支援する側と受ける側は、必ずしも固定された関係ではありません。例えば、普段は支援を受けている飯田さんが、交流会でゲームの進行を担当してくれたように、支援を利用する学生も、支えられるだけの存在ではありません。利用する側と支える側を分けず、お互いに支え合う関係を大切にしています。
そのためには、必要な支援を気兼ねなく求められる環境も欠かせません。障がいのある学生の中には、サポートを受けることに申し訳なさを感じる人もいます。しかし、支援を受けることは権利です。SAを大学が雇用する形にすることも、必要なサポートを遠慮せずに求めやすくするためです。

学生2人が取り組みを発表し、後方には受賞ポスターや関連写真が掲示されている。
■学生同士の経験が循環する仕組みをつくる
――私自身、授業資料のテキストデータ化や移動支援など、さまざまな支援を受けています。こうした支援は、担当する学生の経験や工夫によっても質が変わると思います。支援を安定して継続し、学生同士で経験を引き継いでいくために、どのような取り組みや課題がありますか。
田中コーディネーター:学生同士が経験を共有できるよう、学期の中間にはフォローアップミーティングを開き、工夫していることや悩みを話し合っています。学期末には交流会も開催しています。ノートテイクでは経験者と初めて担当する学生を組み合わせ、音声ガイドや資料のテキストデータ化でも、経験者が新しい担当者に方法を伝えています。テキストデータ化とは、資料をパソコンの読み上げ機能でも扱える文字データにすることです。
権藤コーディネーター:こうした機会を通じて、学生同士で経験を共有し、後輩に伝えられるようになってきました。職員が助言するだけでなく、学生の間で学びが循環する形ができています。
一方、こうした仕組みを継続するには、活動する学生の裾野を広げることも必要です。
田中コーディネーター:2026年9月時点でSAの登録者は350人近くいますが、実際に活動している学生はイベントスタッフを含めて約70人です。関心があっても、活動内容が分からなかったり、参加するきっかけがなかったりする学生もいます。活動の様子が伝わる仕組みをつくり、参加しやすい環境を整えたいと考えています。
権藤コーディネーター:学生のスキルアップも課題です。外部講師を招いた研修会などを実施していますが、今後も学べる機会を増やしていきたいです。
■取材を終えて
学生の声を出発点に、一人ひとりに必要な支援をともにつくり、その経験を次の学生へ引き継いでいく。中央大学のSA制度は、障がいのある学生の学びを支えるだけでなく、学生同士が互いを理解し、支え合う関係を育てている。
私自身にとって、SAは大学生活を送るうえで欠かせない存在だ。授業資料のテキストデータ化や移動支援など、日々の大学生活のさまざまな場面で支えてもらっている。SAの支援は、私にとって大学生活を続けるためのライフラインでもある。
支援する人と支援を受ける人。その立場を超えて、学生同士が互いに関わりながら大学生活をつくっていく。SAの活動には、支援を一方的に提供するだけではない、共に学ぶ大学の姿が表れている。



