脱炭素目標、2月10日の国連提出期限に間に合わない国が続出

記事のポイント


  1. 温室効果ガスの国別削減目標(NDC)の国連への提出期限は2月10日だ
  2. しかしすでに提出した国は、ブラジル、英国など10カ国に過ぎない
  3. UNFCCC事務局長は、中身の「質」が重要だとして提出の遅れに理解を示す

各国が国連に提出する温室効果ガスの国別削減目標(NDC)の提出期限は2月10日だ。しかし、日本時間の2月10日正午現在、提出した国の数は10カ国に過ぎない。日本もまだ提出していない。UNFCCC(気候変動に関する国際連合枠組条約)のサイモン・スティル事務局長は、中身の「質」が重要だとして、各国の提出の遅れに理解を示す。(オルタナ副編集長=北村佳代子)

クライメート・ウォッチ・データのNDCトラッカーは
NDCを提出した国(青)とその国の排出量を紐づけて示す
(上記画像は、日本時間2025年2月10日正午現在)

各国が国連に提出する、2035年度までの温室効果ガスの国別削減目標(NDC)は、2月10日が提出期限だ。

しかしこれまでにNDCを提出した国は、2月10日日本時間正午現在、UAE、ブラジル、米国、ウルグアイ、スイス、英国、ニュージーランド、アンドラ、エクアドル、セントルシアの10か国だ。

温室効果ガス(GHG)の排出量で見ると、提出した国々は世界のGHG排出量の16%に相当する。中国、インド、EUや日本も現時点では提出していない。

米国はバイデン政権下の2024年12月16日、「2035年にGHG排出量を61~66%削減(2005年比)」とするNDCを提出した。2025年1月20日にトランプ政権が発足すると、米国のパリ協定からの離脱を宣言した。正式な脱退までは、意思表明から約1年かかるとされる。

一方で、米国経済の約6割を代表する24の州・準州の知事らによる連合「米国気候同盟」は、国家としてはパリ協定を離脱しても「引き続きパリ協定の目標達成を目指す」とする書簡を国連に提出している。

参考:英、35年までにGHG排出量「90年比81%削減」へ
参考:米国、2035年までにGHGを2005年比で61~66%削減へ
参考:米の24州・準州が「パリ協定の目標達成目指す」と国連に書簡

■日本は年度内に閣議決定の方向へ

日本は、2024年12月末に「2035年度までに2013年度比で60%削減」とするNDC案をまとめた。この政府案については、その目標水準はもちろん、委員構成も含めた決め方問題などについて、さまざまなセクターの声とともにオルタナでも報じてきた。

政府は、NDC案についてのパブリックコメントを2024年12月27日から受け付けた。そして締切日の2025年1月27日0時の1か月の間に、3000件超のパブリックコメントが集まったという。

浅尾慶一郎環境大臣は2月7日の会見で、2月10日の期限内での提出は困難との認識を示した。パブリックコメントについては現在精査中だという。NDC案については、年度内での閣議決定を目指すとも発言した。

参考:揺れるGHG目標(4)「国民は蚊帳の外」と専門家嘆く
参考:揺れるGHG目標(3)「下に凸」「上に凸」「直線的」から選択
参考:揺れるGHG目標(2)問われる審議会のガバナンス
参考:揺れるGHG目標(1)「結論ありき」の審議会に疑問の声相次ぐ
参考:政府の次期NDC案は「極めて低い」、若者が1万人の署名集め
参考:「1.5℃目標に沿わない日本は健康を軽視」と世界の医師ら
参考:野心欠く気候政策で日本経済は50年までに952兆円の損失被る
参考:野心的なNDCを求める声、医療やアウトドアなど各方面からも
参考:「35年に60%減は不十分」、若者が石破首相らに署名提出へ
参考:日本のNDC案は1.5℃目標に整合せず、国内外から批判相次ぐ

■「今世紀、最重要な政策文書は『質』が最優先」

各国の提出が遅れる中で、UNFCCC​のサイモン・スティル事務局長は、各国が慎重にNDCを検討していることに理解を示した。

今年11月にCOP30(気候変動枠組条約第30回締約国会議)を開催する予定のブラジルで2月6日に演説したスティル事務局長は、「今回のNDCは今世紀、各国政府が作成する最も重要な政策文書」であり、「最優先事項はその質」だと強調した。

その上で、「各国が、もう少し時間をかけることは理に適う」と理解を示し、遅くとも9月までに提出するよう求めた。

参考:UNFCCCスティル事務局長の演説(英語)はこちら

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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キーワード: #気候変動

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