老舗酒造が水田でソーラーシェアリングを実践する理由とは

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記事のポイント


  1. 吉田酒造店(石川県白山市)は原料米の8割を地元産に切り替えた
  2. 省エネ・再エネ導入とソーラーシェアリングで酒造りを脱炭素化
  3. 酒造ビジネスを地域のレジリエンス向上につなげる

■小林光のエコ眼鏡(56)■
最初の関心は「稲作水田の真ん中に垂直の両面PVパネルが立っている」という大胆な発想のパフォーマンスについて知ることだった。そして、現場を訪れて老舗酒造の若社長の話を聞いた結果、これは農業のCO2削減の枠には収まらない、もっと重要な取り組みの一部だと気づかされた。(東大先端科学技術研究センター研究顧問・小林 光)

水田の中に立てられたソーラーパネル

訪問先は、石川県白山市にある吉田酒造店。清酒「手取川」の醸造元である。同市には、他にも「天狗舞」「菊姫」などの有名銘柄を醸す4つの蔵がある。霊峰白山に発する一級河川・手取川の広い扇状地で栽培されるお米と、同川の豊富な伏流水があるので、ここでは昔から酒造りが盛んだったとのことである。

2020年に吉田酒造店は代替わりを迎えた。七代目に当たる吉田泰之氏が社長(以下、泰之社長)に就任した。そして同酒造店は、こうした昔にはあった酒造りを標榜するようになった。

泰之社長は、社長に就任する前、手取川ブランドの海外への売り込みを担当していた。英国での営業の時であった由だが、その頃の日本では当たり前だった、兵庫県の酒造米「山田錦」を使って水の硬度も下げて醸した、華やかだが地方色の薄いお酒を、日本酒としてのおいしさに力を込めてプレゼンした。

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すると、「なぜ他の地方産の原料を使うのか」と質問され、カルチャーショックを受けたという。確かに、地元の水田農業は廃れていき、他方で、日本のお酒はどこも同じようなおいしさになっていた。こうした気づきを踏まえ、地元の自然に即した、ここでしか醸せないお酒をつくらないといけないと意を固めたという。

■吉田酒造店と地元の強いつながり

まず、酒造りの工程に沿って吉田酒造店と地元との強いつながりを説明したい。

酒造米は、かねてからの顧客の多い手取川ブランドのために山田錦の使用は残すものの、多くは、地元の酒造米、例えば「石川門」や「百万石乃白」を使うこととした。

さらに酒造米ではないが、この地方特産の古くからの食用米である「巾着」も酒造に使うことした。地元の水田農業振興のためである。この巾着は、まだ芒(ノギ、殻にあるとげのようなもの)があって、芒がなくなるよう品種改良された今日のコメにはない野性味を残している(コシヒカリの先祖の一つにもなっている)品種だという。

同店の原料米に占める地元産米の割合は、2025年度には80%になったという。

冒頭で紹介した水田に立てられたPVパネルは、この巾着を栽培する田んぼにある。

昨今、乱高下する米価だが、吉田酒造店は、地元の米作農家との長期的に安定した共存共栄関係を作るため、食用米より元来高価格の酒造米を、さらに数パーセント高い価格で買い入れする旨の約束をあらかじめする仕組みを取っているという。そうして連携する米作農家は30軒になった。

醸造過程を見ると、扱いがとても難しい麹菌は地元産ではなく、全国区の専門業者から仕入れるものの、麹になるコメはもちろん地元産で、酒母を造る酵母(伝統の金沢酵母。出来上がる酒の風味を決めるが、この酵母はバナナのような香りをもたらす)も同店が長く保存してきたものだ。

そして、酒母の製造方法も、この地方のやり方、特に能登に発祥するもの、すなわち「山廃造り」へとどんどん移行させた。雑菌の繁殖を抑えるため乳酸を人工的に加えて酒母を造る速醸系酒母や、乳酸は人工的に加えないが土台の蒸し米をすりつぶして酒母を早く造る生酛造りではなく、一番悠長な1カ月もかかる自然の過程に近い酒母造りをするのが吉田酒造店の方針だ。

仕込みの水も、当然ながら、手取川の伏流水をそのまま使う。かつては、おいしい酒を造るためとして、軟水器(水の硬度を下げるイオン交換樹脂を内蔵する装置)を使うことが一般的だったが、同店では、硬度が比較的高い手取川伏流水を地下100メートルから汲み上げてそのまま使うこととした。この結果、出来上がる酒はシャープな味となる。

このようにして、吉田酒造店が醸す酒、特に手取川ブランドとは別に、若社長が現代の料理にマッチする地酒として開発してきたブランド「吉田蔵u」は、テロワール一杯の、地元の自然の、いわば化身とも言うべき日本酒になった。

「吉田蔵u」ブランドの日本酒

筆者は、同蔵のお酒2種を買い込んで、比較的にくせが強い料理を敢えて当てて飲んでみた。そうしたところ、料理に負けず、お酒の個性を最後まで感じさせてくれた。もちろん献立との相性はあろうが、ユニバーサルで没個性のおいしいお酒が、しまいにはアルコールになってしまうのとは違って、お酒の存在の意味をずっと感じられたのはありがたかった。

ここまでは、酒好きなら「地酒の現代最先端の形での復活」だと理解して納得できる話だろう。しかし、吉田酒造店の地元の自然へのこだわりは、これで終わりでなく、もっとある。それこそが本記事の本題だ。

■エネルギー多消費産業からの転換

泰之社長が酒造りで気になったのは、域外のエネルギーへの依存体質だ。

吉田酒造店が標榜する、昔からの酒造りは、そもそも自然順応型で、寒い時期しか醸造をしなかった。その味わいも、寒候期の新酒と、暖候期の火入れ酒で循環していた。

それが今日では、一つには地球温暖化による気温上昇、他方で、低温発酵技術や低温(零下5℃といった、火入れしないお酒でも味を壊すことのない温度)での輸送・貯蔵技術の発達によって、酒造業はエネルギー多消費産業になってしまった。1年中にわたって新鮮なお酒を嗜むことができる、電気やガスをたくさん消費するのだ。

例えば、泰之社長が就任した直後の1年間(2020年9月から21年8月)の吉田酒造店全体の電力消費量は、約800MWh /年であった。そこで、泰之社長は、将来も持続可能な酒造業を目指し、省エネと創エネの2正面作戦を始めた。

省エネ対策では、貯蔵温度のこまめな適正管理はもちろん、メインの発酵槽を収める建屋においても、寒候期であれば自然の冷気を活用できる構造(写真のように通風窓が多い)への建て替えをした。

建て替えた発酵槽を収める建屋には通風窓が多い

この省エネ対策は新製品開発にまで波及した。ワイン並みの15℃程度の貯蔵でも味を維持できる銘柄(例えば、やや酸味のある微発泡のお酒)の開発なども進めている。これらの結果、電力消費量は、25年9月からの1年では、約660MWhと20年同期比で17.5%削減された。

さらに、創エネ側でも大きな進歩があった。この電力消費量のうち約15%は自家製の再エネ(太陽光)電力となったのである(外部電源からの買電量は同様の期間で563MWhと、20年比約30%削減)。

電力を製造しているのは、本稿冒頭に掲げた写真にある、自社所有の水田の中に立ち上がる垂直型両面発電パネルと工場の屋上にある南向きの据え置きのPVパネルである。それぞれの発電能力は、91kWと20kWであり、それぞれ年間およそ、81MWh、21MWhの電力を生んだ(25年実績。同年9月からの1年間では合計約97MWh。全量を自家消費している)。

そして、外部電源についても、新電力会社UPDATER(アップデーター)と契約し、再エネ100%の電力供給を受けることにしているので、電力に関しては、同酒造店は既にカーボンフリーとなっている。

■ソーラーシェアリングが日本酒の味の一部に

ちなみに、吉田酒造店の自社田んぼ(面積約24アール)にあるこのPVパネルの諸元は以下のとおりである。198枚のパネルを、すべて地面に対し鉛直に、南北方向3列2段に並べ、各列の最低地上高は1.3メートル、最大高さは3.5メートルとなっている。各列のパネルの影が他の列に極力干渉しないよう、また、農作業機械の邪魔にならないよう、各列の離隔距離を8メートル取っている。

水田でのこうした形のPV発電は、果たして農業としてサステナブルなものなのだろうか。垂直型のパネルの水平面に投影した遮光率はわずか1%程度。もっとも、垂直設置のパネルの生む日影による日射エネルギーの減少度合いは今のところ計測されていない。とはいえ、この田んぼでの実際の日射減少は、同じ巾着を耕作する近隣の水田での反収とほとんど違いを生まなかった(刈り取り時期にして数日の遅れ程度)というのが、限られた経験だが今のところ言えることのようだ。

現在、東大工学部の吉田好邦教授(技術経営戦略学専攻)の研究室が、日射量と収量との関係を分析中だ。その結果を待ちたいが、今後のさらなる地球温暖化を踏まえれば、稲の高温障害を防ぐためにもPVパネルによる日射制限が望ましくなるのかもしれない。もしそうなら、ソーラーシェアリングをしている水田は、単にエネルギーの地産地消をしているだけでなく、良質なお米を作ることに貢献していることになる。すなわち、発電は、日本酒の味の一部になるのである。

■酒造ビジネスを地域のレジリエンスに

泰之社長は、カーボンフリーの実現だけで歩みを止めるわけではない。温暖化した先も、ここでの酒造が持続可能なものになるよう、近隣の水田へのパネルの設置により、一層の自家発電拡大を進める。さらに夜間、もしくは今後多発するとみられる災害時でもビジネスができ、また、近隣のレジリエンスも高められるよう、蓄電池の導入などを進め、自家製再エネ電力100%での酒造とする計画だ。

レジリエンスについては、本稿での詳細を割愛するが、同酒造店は、能登地震で損壊した酒造蔵の酵母を活かした能登の酒の受託醸造を行っているほか、災害時での工場近隣への飲用水や電力の供給などの体制も整えている。

さらに、白山がユネスコの登録を受けたジオパークになっていることを踏まえ、その健全な水循環の維持に向け、寄付を行って活動を支えている。このように、同酒造店にとって、持続可能性とは、同社のビジネスのことではなく、地域ぐるみの話になっている。

地域の自然を丸ごとマネタイズしてこそ地域がよりよく守られる。グリーンビジネスの鑑だろう。筆者としても、酒を飲む甲斐が一つ増えた気がした。有名な神谷バーの「電気ブラン」はものの喩(たとえ)だが、日本酒には、サステナブルならその味が出てくるからだ。

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

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