「経営者・サステナ担当は、自社原料の産地を見たことがありますか」

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記事のポイント


  1. 企業にとってサプライチェーンの上流は盲点になりやすい
  2. CO2・水・自然資本・人権などはサプライチェーン全体で管理するのが潮流だ
  3. サステナ担当者や経営者には、自社の調達現場を訪れ、自分の目で確かめてほしい

企業にとってサプライチェーンの上流は盲点になりやすい。CO2・水・生物多様性・人権などは、サプライチェーン全体で管理を進めるのが最近の潮流だ。企業のサステナ推進担当者や経営者には、机上の分析で終わるのではなく、自社の調達先の現場を自ら訪問し、自分の目で確かめる機会を持ってほしい。その経験が、サプライチェーンに対する意識を変え、リスクに対するアンテナを磨き、数字や報告書を行間まで読み解く力となる。(サステナブル経営アドバイザー・足立直樹)

机上の分析で終わらないサプライチェーンへの意識が必要だ

■米国は強制労働に対する規制強める

米国では今、人権も含めて、サステナビリティに強い逆風が吹いている。一般的にそのように言われることが多いですし、実際に気候変動やLGBTにまつわる政策はかなり後退、ないし足踏みしているようにも見えます。

ところが、その米国で、強制労働をめぐる動きは続いています。2026年7月31日には、国土安全保障省(DHS)がウイグル強制労働防止法(UFLPA)の事業体リストに43社を追加しました(2026年8月3日発効、計187社)。

同じ7月には、米通商代表部(USTR)が、通商法301条に基づく強制労働関連の関税措置を決定しています(7月24日発効)。 単純にこれで世界のサステナビリティは後退だと決めつけるのは一方的かもしれません。

そしてもう一つ注意すべき点は、両者とも突き詰めれば、海外を含むサプライチェーンの上流で何が起きているのか、という問題だということです。そして、その上流こそが、私たちにとって盲点なのです。

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■なぜ、サプライチェーンなのか

前回、私は水管理についてのScope 3のトレンドをご紹介しました。

参考記事:水破産の時代: 企業は水資源についてもバリューチェーン全体で管理を

最近はサステナビリティのさまざまな場面で、サプライチェーンやバリューチェーンの話が出てきます。環境の分野でこれほど話題になるのには、少なくとも3つ理由があると思います。

1. 特にメーカーでは、環境負荷や人権の問題が、サプライチェーンの上流に圧倒的に大きく存在します。一方で、サプライチェーンがなければ事業は続きません。いわば生命線です。だからこそ、サプライチェーンの問題は、避けて通ることのできない経営課題になります。

2. サプライチェーンは自社の外にあるため、直接管理することが難しい。とりわけ複雑な上流では、どこで、誰が、どのように原材料を作っているのか、ほとんど見えませんし、把握できていません。自社の工場の中は管理できても、そこへ届く原材料がどのように作られているのかは、見えにくいままなのです。単にサプライヤーではなく、供給(サプライ)の連鎖(チェーン)と呼ばれるのは、そのためです。

3. いまの世界経済がこの複雑なサプライチェーンの上に成り立っている以上、環境や人権の問題を根本から解決しようと思えば、サプライチェーンと取り組むことは当然の帰結です。

ですから最近は、CO2はもちろん、生物多様性も、人権も、水も、サプライチェーンで管理しようという流れになっているのです。そして、その第一歩は、まずトレーサビリティ、そしてデューデリジェンス、というわけです。

■どこまで遡ったことがありますか

以上の話は、企業のサステナビリティの担当者であれば、もう耳にタコができるほどお聞きでしょう。だから、サプライヤー行動指針をつくる。環境フットプリントの情報を入手する。認証を受けた原材料を使う。こうした取り組みは、確かに進んできました。

そこで、あらためて問いたいのです。実際に、自社のサプライチェーンを、どこまで遡ったことがありますか、と。指針も、情報も、認証も、どれも大切です。ただ、それらは紙の上や画面の上で完結してしまうことがあります。その向こうにある現場を、実際にご自身の目で見たことがあるでしょうか。

私は仕事柄、世界中のサプライチェーンを見てきました。東南アジアと中国が多いのですが、中南米、オーストラリア、アフリカにも何度か足を運んでいます。それもあって、自社の主要なサプライチェーンについては、サステナビリティ推進部の方々も、当然、現地に足を運んでいるものと勝手に思っていました。

ところが最近、いくつかの場面で違和感を覚えました。超大手企業のサステナビリティ推進部であっても、最上流の畑はおろか、サプライヤーすら訪問したことがない、という方がかなり多いようです。その重要性は分かっていて、社内で日ごろ発信をしている方々であってもです。

理由は、はっきりしています。大企業ほど専門化が進み、調達の実務は調達部門が担います。その結果、サステナビリティ推進は、現場に足を運べていないのが実情なのでしょう。ですから、これは担当者個人の意欲や姿勢の問題ではなく、組織の仕組みの問題だと思います。

■現場を知らないと、議論が噛み合わない

先日、日本のある集成材の工場を見学しました。オートメーション化が進み、システマティックに高品質の製品を生産しており、またその規模にも驚きましたし、発見が多くありました。 そのなかで印象に残ったのは、地元産材を使っているのに、工場の方々は森には行ったことがない、という話です。実際に森に行って話を聞くと社員の方々の意識がかなり変わるそうで、同じ構図は多くの会社にあるのではないかと思いました。だからこそ、見に行くことは貴重なのだと思います。

原料の産地を見る機会が少ないことは、大きな問題だと思います。現場を知らなければ、議論が噛み合わないだけではありません。重要な認識が間違っていたり、足りなかったり、リスクを見落としたりします。現場を見ていれば、数字や報告書の行間まで読むことができますが、見ていなければ、書かれている数字や結果しか分かりません。

もちろん、上流を遡る調査には、コストもかかりますし、さまざまな難しさもあります。しかし、だからこそ、現場を自分の目で確認することに、大きな意味があるのです。

■対策は、現場を知らずには作れない

サプライチェーンをめぐる問題は、最近も起きています。TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)でも、LEAPアプローチでサプライチェーンも含めたインパクトの所在地の把握が促されています。

「LEAP」とは、Locate(発見する)・Evaluate(診断する)・Assess(評価する)・Prepare(準備する)の頭文字を取ったもので、自社の事業活動が、どこで自然と接し、どのような依存やインパクトがあるかを診断し、そこから生じる自然観連のリスクと機会を評価し、戦略・目標の設定や情報開示、経営への統合に向けて準備を行うアプローチを言います。

多くの企業では、最初の机上分析は終わり、次の段階として、負荷が大きい部分や、アキレス腱になっているサプライチェーンを改善するために、サプライヤーとエンゲージメントすることに移ろうとしていることでしょう。2026年7月に環境省が公表した「調達におけるネイチャーポジティブに向けた実践ガイドライン」も、その後押しになるはずです。 今の時代は、机上の分析でも、おおよそどこを優先して改善すべきかかなりわかります。しかし、そこで実際に何が起きていて、何なら変えられるのか、他に隠れたリスクがないのかは、現場に行かなければ分かりません。

現場を知らずに、対策や計画は作れません。サプライヤーとの対話もできません。ですから、サステナビリティ担当の方には、ぜひ、自社の主要なサプライチェーンを遡っていただきたい。さらに言えば、経営の責任者にも、見ていただきたいのです。

分からないまま議論をすると、取り組みは表面的なものにとどまります。場合によっては、最もしてはいけないこと、つまり、サプライチェーンに問題や負担を押し付ける事態になりかねません。現場を知ったうえで向き合えば、サプライヤーは、負担を押し付ける相手ではなく、ともに課題に取り組む相手として見えてくるはずです。

■まず、行ってみる

本当は、自力で、自費でもいいから行ってください、と言いたいところです。けれども、費用の問題は大きいし、何より安全性の面で難しい。ですから、これは業務として行っていただきたいと思います。

どうしても難しい場合は、旅行先に、自社のサプライチェーンがある国を選んで訪ねるだけでも、発見があります。どんな気候や社会のもとで、どんな人が、どんな生活をしているのか。現地に足を運ぶと、それが見えてきます。ああ、こんな人たちが自分たちの仕事や生活を支えてくれているのだ。サプライチェーンの先には、こういう生活があるんだ。そう感じるだけで、まったく意識が違ってきます。

あなたの会社の原料は、どんな場所から来ていますか。その場所を、あなたは見たことがありますか。

※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)549(2026年10月13日発行)をオルタナ編集部にて一部編集したものです。過去の「サス経」はこちらから、執筆者の思いをまとめたnote「最初のひとしずく」はこちらからお読みいただけます。

adachinaoki

足立 直樹(サステナブル経営アドバイザー)

東京大学理学部卒業、同大学院修了、博士(理学)。国立環境研究所、マレーシア森林研究所(FRIM)で基礎研究に従事後、2002年に独立。株式会社レスポンスアビリティ代表取締役、一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)理事・事務局長、一般社団法人 日本エシカル推進協議会(JEI)理事・副会長、サステナブル・ブランド ジャパン サステナビリティ・プロデューサー等を務める。

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