記事のポイント
- コクヨは、障がいのある人たちと共創する「HOWS DESIGN」を経営戦略に組み込む
- 「n=1」の困りごとから社会のバリアを減らし、新たな市場の創造につなげる
- 多様性を価値に変え、社員の意識変容や「自律協働社会」の実現を目指す
オルタナは8月19日、サステナ経営塾22期第4回を開いた。第4講には、コクヨCSV本部サステナビリティ推進室の井田幸男・理事が登壇し、「『サステナブル経営』と『Inclusive Design』」をテーマに講義した。井田氏は、障がいのある人をはじめ多様な人と商品やサービスを共創する「HOWS DESIGN」の取り組みを紹介するなどした。

・コクヨは、2021年に「SDGsを達成する」という視点を掲げていたが、2022年からは自社のパーパスである「ワクワクする未来のワークとライフをヨコクする」を軸に、「コクヨの使命を果たす」ことへと重心を移した。社会課題への対応を外から求められる義務ではなく、自社らしい価値創造につなげる考え方だ。
・ただ、当初のサステナビリティ経営には「しくじり」もあったと振り返った。マテリアリティを設定しても、他社と似た項目が並び、コクヨらしさが見えにくかった。そこで、社会にどう貢献するのかを改めて定義し、ダイバーシティの目的として「社会のバリアを減らす」を掲げた。
・その考えを具体化した重点課題が「ダイバーシティ&インクルージョン&イノベーション」だ。多様性を認め、受け入れるだけではなく、そこから新しい価値を生み出す。2030年には、新商品に占めるインクルーシブデザインの比率を50%以上にする目標を掲げている。
・コクヨが実践するインクルーシブデザイン「HOWS DESIGN」は、障がいのある人をはじめ、従来の商品開発では十分に対象とされてこなかった人たちを、企画段階から開発に巻き込む手法だ。その本質を同社は「対話によるインクルージョン」と位置付ける。「HOW?」という問いを重ね、対話から得た気付きをもとに、社会にあるバリアを減らす商品やサービスを生み出していくという。
・開発プロセスでは、①社会のバリアを見つける、②解決方法のアイデアを検討する、③試作品で検証する、④具体的な商品やサービスで検証する、という4つの視点を加える。HOWS DESIGNのマークを付ける商品・サービスについても、多様なリードユーザーが企画段階から参加し、試作品を使った対話を重ねることなどを基準としている。
・特徴的なのは、大きな市場からニーズを探すのではなく、「n=1」から商品開発を始めることだ。「バリアを減らし『社会の当たり前』を変えていく」ことで市場創造をする手法と位置付けている。具体的な開発事例として、片手でも引きやすく立ち上がりやすいよう工夫した椅子「Hemming(ヘミング)」、左利きや上肢障がいのある人と開発したハサミ「サクサ」、色覚多様性に配慮した青色シートの暗記用ペン、手の力が弱い人でも使いやすい消しゴムなどを紹介した。
・インクルーシブデザインは、社員の意識にも変化を起こしているという。HOWS DESIGNの取り組みでは、開発メンバーと障がいのある人が共にものづくりを行う機会を重ねてきた。こうした活動を通じて「誰にでも違いはあり、同じ働く仲間としての意識ができつつある」という。
・コクヨは、こうした活動の先に「自律協働社会」という社会像を描く。自由な個人と健全な社会を両立させるためには、自律した「個」を育て、協働を促す「場」をつくり、共創の質を高めることが必要だとする。社会価値と企業価値を同時に高めるには、「社会に対してイノベーションを生み出す文化」を企業内につくることが重要だとの考えだ。
・その実践として、社員が業務時間の約2割を使って他部署の業務に挑戦できる「20%チャレンジ」なども進める。2021年から始まったこの取り組みを通じて、2025年までに累計500人超が社内副業している。社員や近隣オフィスのワーカー、地域の人が仕事以外の趣味や好きなことを持ち寄る文化祭「CULTURE SNACK(カルチャースナック)」も主催する。展示や物販、ワークショップなどを通じ、普段は見えにくい個人の「B面」を共有し、新たな交流や共創につなげているという。



