水破産の時代: 企業は水資源についてもバリューチェーン全体で管理を

AD

記事のポイント


  1. 日本は大雨が深刻だが、世界は「水破産」といわれるように水不足が深刻だ
  2. そして水破産した地域に、世界の食料や一次産品の生産が集中している
  3. 企業は自社製品を支える水がどの川から来ているかを知ることから水資源管理を

国内では大雨被害が深刻だが、世界に目を向ければその逆の「水破産」が深刻だ。水破産した地域に、世界の食料や一次産品の生産が集中している。企業の水資源管理は、まずは自社製品を支える水がどの川から来ているかを知り、その流域の水ストレスを知ることが第一歩だ。(サステナブル経営アドバイザー=足立直樹)

企業は、自社商品を支える「水」について知る必要がある

2026年は日本各地が記録的な大雨に見舞われました。最近では千葉県で大変な被害が報告されています。

一方で、地球全体で見ると、これとは逆の問題が深刻になっています。世界気象機関(WMO)が2026年9月17日に発表した『世界の水資源の状況2025』によれば、2025年は世界の河川流量が過去35年で最も少ない年の一つで、平常を下回った流域は流域面積の36%に及びました。陸域の貯水量は2014~16年ごろから減り続けています。

WMOの事務局長は「一度の悪い年ではなく、10年続く持続的なシグナル」だと述べています。

AD

■「水危機」ではなく「水破産」

さらに強い表現を使っているのが、国連大学 水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)が2026年1月に公表した『世界の水破産』です。

家計にたとえると、「水ストレス」は地域の水の収支が苦しくなっている状態、「水危機」は一時的に赤字に陥った状態です。どちらもまだ立て直すことができます。

ところが、「水破産」とは、川や土壌、積雪という毎年の「収入」を使い切るだけでなく、帯水層や氷河、湿地という長期の「貯金」まで取り崩し、人の時間スケールでは元に戻せなくなった状態を指します。

世界人口の約4分の3が「水不安定」または「深刻な水不安定」の国に住み、主要な帯水層の約70%で長期的な低下が見られます。過去50年で失われた自然湿地は約4.1億ha、つまりEUの面積にほぼ匹敵します。

すべての流域や国が破産しているわけではありません。しかし、世界の重要な水システムの多くがすでに後戻りできない一線を越えたとして、報告書は「世界はすでに水破産の状態にある」と指摘しているのです。

水破産した地域は全体から見ればまだ一握りです。しかし報告書は、この一握りの流域に世界の食料や一次産品の生産が集中していることを「システミック・リスク」であると指摘し、グローバル・バリューチェーンは生産地の水利用を押し上げている自らの役割を認識すべきだと警告しています。

■「合計で100%」の落とし穴

企業の水管理では、これまで「ウォーター・ニュートラル」(自社や事業所で使う水量と同じ水量を生態系に戻すこと)や「ウォーター・ポジティブ」(使う水量より多い量を生態系に戻すこと)が先進的な目標でした。

最近では飲料メーカーだけでなく、データセンターでの取り組みが普及し、マイクロソフトは2020年に2030年までのウォーター・ポジティブを宣言し、グーグルは2030年までに消費する淡水の120%を平均で補充するとし、メタも2030年までのウォーター・ポジティブを掲げています。

ただ、水はCO2とは違います。CO2はどこで出しても同じで交換可能ですが、水はそうではありません。

コカ・コーラの公式情報によれば、同社は2025年時点で全社合計では160%を還元しました。けれども、200を超える高リスク拠点のうち拠点ごとに100%を達成したのは34%です。合計が100%を超えても、困っている流域で足りているとは限らないのです。

水資源保全に関する国際イニシアティブ・CEO Water Mandateの技術ガイダンスも、対象を直接操業の拠点と流域に限り、バリューチェーンは今後の課題としていました。しかしWWFによれば、農業の水使用は平均すると工場の4倍近く、あるいはそれ以上です。これまでの目標には、工場の外が含まれていなかったのです。

■水リスクはサプライチェーンを伝わってくる

その大きさを示したのが、CDPが9月に公表した『水・貿易・資本』です。CDPは世界で唯一の独立した環境情報開示システムを運営する非営利団体です。企業が見込む将来の水関連の財務影響は3970億ドル(約62.4兆円)、そのうち450億ドル(約7.1兆円)はサプライチェーンの上流にあります。

サプライチェーンを地図化している企業(予定を含む)は78%に増えましたが、その4分の3は一次サプライヤー止まりで、上流のリスクは測られず管理されていません。先進国に本社を置く企業では、上流の水リスクの60%がグローバルサウスにあります。

CDPの言葉を借りれば「水リスクは移動する(water risks travel)」のです。もっと言えば、私たち先進国はグローバルサウスの水を「搾取」しているとも言えるでしょう。

■水にも「Scope 1・2・3」ができる

そこで2026年4月30日、米SCSグローバルサービシズ、世界資源研究所(WRI)、WWF(世界自然保護基金)、CEO Water Mandateの4団体が、『バリューチェーンにおける水のScope 1~3評価のための企業向けガイダンス』の策定開始を発表しました。

温室効果ガス(GHG)プロトコルにならい、直接操業(Scope 1)、購入した資源(Scope 2。SCSの説明では、消費するエネルギーに埋め込まれた水)、バリューチェーン(Scope 3)に分けます。発表文は、この区分が企業の水リスクに体系的に適用されたことは「これまで一度もない」としています。SCSは「水にとってのGHGプロトコル誕生の瞬間」と表現しています。

これはCDPやAWS(アライアンス・フォー・ウォーター・スチュワードシップ)など既存の開示・認証を置き換えるのではなく、発展させるものです。最終版は2027年第4四半期の予定です。

なぜScope 3が必要なのでしょうか。WRIで企業の水エンゲージメント部門でダイレクターを務めるサラ・ウォーカー氏は「多くの企業にとって最大の水リスクと影響はサプライチェーンや製品の使用段階にあるのに、関心は頑固なまでに直接操業に向いたままだ」と述べています。

WRIの解説によれば、食品・飲料では最大の影響がサプライチェーン側に、洗剤などでは使用段階、つまり下流にあります。

科学に基づく目標ネットワーク(SBTN)の淡水目標も、すでに流域単位で直接操業と上流の双方を対象にし、2025年2月から検証を受け付けています。水の目標は「合計」から「流域」へ、「工場」から「バリューチェーン」へと確実に広がりつつあります。

■日本企業にとっての意味

日本は海外の水で暮らしています。環境省の試算では、2005年に海外から輸入したバーチャルウォーターは約800億㎥。年は異なりますが、国内の年間水使用量(2022年で約770億㎥)とほぼ同じです。国内工場でいくら節水しても、原料産地の流域が破産すれば事業は止まりかねないのです。

明るい材料もあります。AWS基準v3.0の世界ローンチは2026年3月、東京のサントリー本社で行われました。CDPは、調達担当者の報酬に水の指標を組み込む企業として花王を挙げています。日本企業も動き出しているのです。

私が以前執筆した『企業は水の「使い手」から「守り手」へ』でもご紹介したように、次の一歩は、バリューチェーン全体で守り手になることでしょう。 そこに向けて世界はもう具体的に動き始めています。

このような状況を踏まえ、企業の方にまず、主要な原料が「どの流域」から来ているかを洗い出し、その流域の水ストレスを確かめることをお勧めしたいと思います。あなたの会社の製品を支える水は、どの川から来ていますか。まずはその問いに答えられるようにしたいですね。

※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)548(2026年9月29日発行)をオルタナ編集部にて一部編集したものです。過去の「サス経」はこちらから、執筆者の思いをまとめたnote「最初のひとしずく」はこちらからお読みいただけます。

adachinaoki

足立 直樹(サステナブル経営アドバイザー)

東京大学理学部卒業、同大学院修了、博士(理学)。国立環境研究所、マレーシア森林研究所(FRIM)で基礎研究に従事後、2002年に独立。株式会社レスポンスアビリティ代表取締役、一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)理事・事務局長、一般社団法人 日本エシカル推進協議会(JEI)理事・副会長、サステナブル・ブランド ジャパン サステナビリティ・プロデューサー等を務める。

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。